かつて毎日エナジードリンクを飲み、酷いときは「1日1リットル」に及んでいた筆者が「飲み過ぎの危険性」をお伝えします(筆者撮影)

前回の記事「リゲインもほぼ消滅『栄養ドリンク』衰退の背景 若者の心を掴んだエナドリとの"決定的な差"」では、日本において栄養ドリンク市場が縮小した背景に、エナジードリンクの拡大、とくにマーケティング戦略の勝利があったことを解説した。

後編では、かつて毎日エナジードリンクを飲み、酷いときは「1日1リットル」に及んでいた筆者の実体験をもとに、「飲み過ぎの危険性」を伝えていきたい。

父の影響でエナドリを飲むように

日本において、エナジードリンクが市場として拡大していったのは2010年代から。代表的存在である「レッドブル」の本格販売が2006年からであり、後に競合製品も登場し、エナドリ市場が拡大していった。

一方、筆者はそれ以前からエナドリに親しんでいた。父親の仕事の都合で、10代の多くをアメリカで過ごしていたからだ。2000年代のアメリカのガソリンスタンドの売店には、長距離ドライバーたちのために、さまざまなエナドリが販売されていた。

【画像】アルコール依存症で「ストロング系1日10缶」飲んでいた筆者。一方、エナドリも「1日1リットル」飲んでいて…体に起きた明らかな”異変”と”命の危機”(8枚)

レッドブル、モンスターエナジー、そして日本からは撤退したロックスターなどがある中、家族旅行で遠出をするとき、筆者の父は「NOS(ノス)」という、中にオイルでも入っているかのようなタンクの形をした、650mlボトルのエナドリを飲みながら運転していた。

「これを飲むと、眠気も疲れも吹っ飛ぶんだよ!」

今思えば冗談だったのかもしれないが、父の言葉を真に受ける形で、筆者も朝っぱらから「SAT(エスエーティー)」という大学能力評価試験を受ける際、父に会場に送ってもらう道中に同じ物を買ってもらい、試験中に飲んでいた。


アメリカ時代に筆者が飲んでいた、エナジードリンクの「NOS」(出所:Wikipedia)

試験自体7時か8時くらいから始まり、昼前には終わるのだが、これを飲まなければ睡魔に襲われてしまう……。それに、この身体に悪そうなエナドリという代物を飲めば、なんだか頭がシャキッとする気がしたため、願掛けも兼ねて3カ月に1回くらいの頻度で行われる試験のたびにNOSを飲んでいた。

肝心の味はというと、コカ・コーラ傘下のブランドということもあり、レッドブルやモンスターエナジーと同じような「エナドリ味」でまずくはない。ゲーム『ロックマン』のE缶のような見た目もしていたため、「エネルギーチャージ」をしているような気分も味わえた。当時は成分を読む余裕はなかったが、前記事でも紹介したようにアメリカのエナドリにはカフェインやガラナのほかに、タウリンが入っているため、確かに目も冴えた。

この経験を経て「エナドリは『ここぞ』というときに飲むものだ」と考えるようになっていた。当時の筆者は「マーケティング」という言葉すら知らなかったが、企業にとっては狙い通りの結果になったのだ。

なぜか吐き気や頭痛も消えて…「これが魔剤か」

大学入学を機に、日本に帰国した筆者。大学時代はエナドリとは縁がなかったが、社会人になり、コロナ禍に入ったことで変化が生じた。

過去の記事「『ストロング系』毎日10缶飲んでた私に起きた異変」で書いたように、筆者は20代の後半の数年間、アルコール依存症の状態にあった。その中で、地味に困っていたのが「深酒した翌朝の飲み物」だった。前日夜にストロング系を5缶も飲むので、目覚めた頃には軽度の脱水症状になってしまい、起床とともに猛烈に水分を欲っするようになっていたのだ。


元アルコール依存症の筆者。もっとも飲んでいたときは、1日10缶もストロング系缶チューハイを飲んでいた(筆者撮影)

しかし、牛乳やオレンジジュースは受け付けなかった。ストロング系に慣れた舌には味が違いすぎて、胃がびっくりして吐いてしまったのだ。

そんな筆者に優しく微笑んだのが、エナドリだった。

500ml缶にストローを突き刺し、一気に吸い上げて1分以内に飲み干せば、不思議と徐々に吐き気や頭痛も消えた。アルコールは入っていないのに、「シラフ」に戻れる感覚があったのだ。

「ネット上ではエナドリのことを”魔剤”っていうけど、まさに魔剤だなあ……」

アルコールで荒れた胃に、エナドリは優しく染み渡っていった。


当時愛飲していた「ZONe」。コスパがよく、レッドブルが250mlのロング缶で300円近くするのに対し、ZONeは200円で500mlも飲めた(筆者撮影)

糖質依存だったのか、ケミカル依存だったのかはわからない。ただ、ストロング系への耽溺(たんでき)ですっかり極端になってしまった味覚には、エナドリは実に相性がよかったのだ。

その後、テレワークではなく、出社という形式に戻った筆者は、家の近くのコンビニでエナドリを購入して、電車内でストローで一気に吸い上げるのがルーティーンになった。

以前はサンドウィッチも毎日のルーティーンに入っていたが、エナドリとサンドウィッチはまったく合わないので、食事をやめて「朝食=エナドリ」と”一本化”した。

雑誌の企画で飲み比べ、時間なく一気飲みしたら…

ストロング系、エナドリ、おまけにタバコ……当時の筆者はどれかひとつでも欠けてしまうと、頭痛や吐き気、めまいに苦しむようになった。いつの間にか、さまざまなものに依存するようになってしまっていたのだ。


以前のストロング系の記事では書いていなかった(隠していた)が、ストロング系だけではなく、エナドリも痛飲していた(筆者撮影)

ここまで読んで、「なんてバカな奴だろう……」と呆れた人もいるだろう。自分でもそう思うが、その一方で「プレッシャーや嫌味に弱い」気質は、筆者自身が選んだものではない、とも思う。

そんな中、とある雑誌で「エナドリ飲み比べ」という企画を担当することになった。

先ほどから筆者は「エナドリ味」と雑に評しているが、もう少し成分を分析しながら、読者にわかりやすく味の違いを紹介するというものだ。

そこで、レッドブルやモンスターエナジーだけではなく。当時存在していたサントリーの「アイアンボス」、大正製薬の「RAIZIN」、ZONeのヨーグルトフレーバー、そしてアムウェイの「XS」を飲み比べることにした。


ネット上ではそこそこ有名な、アムウェイのエナドリ「XS」(筆者撮影)

企画自体は「時間をかけていい食レポ」のため容易だが、そのときの筆者は何本も締め切りを抱えており(不況で、当時関わっていた雑誌は人員がどんどん減り、筆者がしなくてはいけない仕事が膨大だった)、「早くこの仕事を片付けなければ」という焦りがあった。

その結果、どのメーカーも推奨していないエナドリの「二枚重ね」を敢行してしまう。

正直、毎日ZONeを飲んでいて、その効きはわかっているのだから、2本も一気に飲むとよからぬことが起きるのはわかっていた。それでも時間がなかったのだ。

こうして、レッドブルとモンスターエナジーを間髪入れず、それぞれ飲み干す。すると、5分も経たないうちに、言葉通り「心臓がバクバク」鳴り始めた。血流のめぐりがよくなったのか、心拍数が上がったのだ。

こうなると、「頭がリフレッシュする」とか「眠気が飛ぶ」なんてことはなく、冷や汗が止まらず、不安だけが増していく。心臓を針で一突きすれば、身体全体が破裂すると思ったほどだ。

決められた要量を守らなかったため、ストロング系とタールの重いタバコで弱った筆者の身体に、カフェインかアルギニンが過剰に作用したのだろう。

「ヤバい……。死ぬかもしれない」

それでも酒もエナドリもやめられず…

さすがに、その心拍数の速さに命の危険を感じた筆者だったが、それでも、酒ともエナドリとも距離を置くことはできなかった。これらを摂取しなければ、吐き気やめまいに襲われてしまうのだ。もはや、飲まなければ、不調から逃れることはできなかった。完全な依存症だ。

ダメだとわかっていながらも、1日に飲むエナドリの本数が2本に。500ミリ缶なので、毎日1リットルを常飲するようになった。

「エナドリを飲むことで、二日酔い気味の身体の血流のめぐりがよくなって、どんどんアルコールも抜けていく気がする……」

当然、エナドリにそんな効果はないのだが、アルコール、ニコチン、カフェインにまみれた身体に通常の方程式は通用しなかった。

二枚重ねの一件以来、エナドリを飲むたびに心拍数は日々、速まっていった。胸を手で押さえる回数も増えた。

しかし、あるときから、いくらエナドリを飲んでも、1時間も経たないうちに激しい吐き気に襲われるようになる。そこで、エナドリを飲まずにすぐさまストロング系に手を出すようになった。

とうとう、カフェインやアルギニンで、どうにかなる身体ではなくなったのである。こうなってしまえば、エナドリは完全にお役御免だ。

こうして、筆者はエナドリを飲むのをやめた。アルコール依存症だったからこそエナドリを飲むようになったはずが、アルコール依存症がより酷くなったことで、エナドリからは解放されたのだ。

まったくもって、ポジティブな理由ではない。しかも、酒も最終的に医者にストップをかけられた。

アルコールともエナドリとも袂を分かった

アルコール依存症と診断されてからは、筆者はアルコールを一滴も飲んでいない。


仕事柄飲み会の機会も多いが、ノンアルコールを貫いている。結局、何かに依存してないと生きていけない人間なのだ(筆者撮影)

と同時に、エナドリもすっかり飲まなくなった。こちらは医師から止められたわけではないのだが、不思議とまったくおいしく感じなくなったのだ。

冒頭でも書いたが、本稿は「飲み過ぎ」に警鐘を鳴らすものである。決して、エナドリ自体の危険性を訴えるつもりはない。

酒もほどほどに、節度を守って楽しむべきだが、エナドリも飲み過ぎは危険だ。節度を守って楽しむようにしよう。


居酒屋でノンアル飲料を飲み干した結果、在庫が足りなくなり、モエ・エ・シャンドンのように冷やされたノンアルコールビールが提供された(筆者撮影)

《前編の記事はこちら:リゲインもほぼ消滅「栄養ドリンク」衰退の背景

《過去に配信したストロング系の記事はこちら:「ストロング系」毎日10缶飲んでた私に起きた異変》

(千駄木 雄大 : 編集者/ライター)