コウライオヤニラミの推定分布範囲図=辻冴月・京都大大学院助教提供

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 宮崎県都城市などを流れる大淀川第一ダムの上流域で新たな外来魚「コウライオヤニラミ」が侵入から短期間で爆発的に増加し、水系全体の生態系に影響を及ぼしていることが北九州市立いのちのたび博物館(八幡東区)や京都大などの研究で判明した。研究者は他水系での拡大に警鐘を鳴らし、国に特定外来生物の指定を求めている。【山下智恵】

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いのちのたび博物館 危険性周知へ展示

 コウライオヤニラミは、朝鮮半島原産の淡水魚で最大30センチ程度に成長し、魚類や甲殻類などを好む肉食性。日本では一部の愛好家向けに観賞用として輸入されていたが、2017年の宮崎県の調査により大淀川水系の支流で初めて捕獲された。同水系に放流されたとみられる。

 その後、18年と21年に博物館などが目視や捕獲調査で生態系を調査した。18年はコウライオヤニラミは確認できなかったが、21年には多数目視された。一方、水系の固有種であるオオヨドシマドジョウが、以前は100匹捕獲できていたものが6匹にまで激減。希少種ではないカマツカやヨシノボリなど川底にいる魚を中心に大幅に減少していた。

 さらに、23年は京都大大学院の辻冴月助教らと共同で、本流約10キロの水系全体の環境DNA(水中に含まれる微量なDNA)の量で生息する生物を推定する調査を実施。55地点のうち39地点(71%)でコウライオヤニラミのDNAを検出、水系全体に分布が拡大していることを確認した。

 研究結果は国際学術誌「Biological Invasions」にオンライン掲載された。研究メンバーの日比野友亮学芸員は26日、取材に対し希少種の生息域ではコウライオヤニラミを集中的に捕獲するなど、種の保存のための行動が必要な事態だと解説。「研究者の予想をはるかに超える速度で爆発的に増え水系の生物多様性に深刻な影響を与えている。他の河川でも大きな脅威になりかねない」と警鐘を鳴らした。

 コウライオヤニラミは、大淀川に侵入したと思われる17年ごろは1匹当たり数万円だったが、最近は数千円程度に値が下がっているという。さらに、ルアー釣り愛好者にも人気の魚種になりつつあり、釣りを楽しむため、故意に身近な河川に放流するケースも考えられる。

 だが、コウライオヤニラミは、外来生物法で輸入や飼育、放出などが原則禁止されている特定外来生物には指定されておらず、法的な規制がない。

 日比野学芸員は「進出は想像以上に早く、ダメージは希少種だけでなく普通種にも及ぶ。特定外来生物に指定されなくても危険性を周知し、放流しないモラルや各地での警戒を呼びかけたい」と話した。

 博物館では7月下旬まで、コウライオヤニラミの実物標本や調査器具などを展示する特別展を1階無料ゾーンで開催中。問い合わせは同館(093・681・1011)。