立ちんぼ女性に声をかけ団体の連絡先が入ったポケットティッシュを配布するNPO法人「レスキューハブ」代表・坂本新さん(撮影:渋井哲也)※画像の一部を加工しています

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東京都新宿区歌舞伎町の区立大久保公園の周辺には、売春を目的として路上に立っている女性(立ちんぼ)がいる。

ここ数年、ホストクラブやメンズコンカフェで指名する「担当」に貢ぐなどの“推し活”費用を稼ぐための女性が増えていた。ホストクラブの売掛金(つけ払い)の返済のために女性が路上に立つケースが急増し、社会問題化。一時は、YouTuberの撮影や警察官の見回りが多くなったことなどから、立つ女性の数自体が減ったり、立つ時間を短くするなど工夫する女性らが多くなっていた。

また、ホストクラブ側も対応を迫られ、新宿区との間で売掛金システムを全廃することを合意。今年4月からは歌舞伎町で売掛金が禁止された。これによって、女性たちは売掛金から解放されたことになるが、果たして“立ちんぼ”は減り、状況は好転したのだろうか――。

立ちんぼ女性の“若年化”目立つ

大久保公園付近に立っている女性にポケットティッシュや化粧品などを配布している男性がいる。NPO法人「レスキューハブ」の代表、坂本新さんだ。

“立ちんぼ”が多い大久保公園周辺を見回る坂本さん(撮影:渋井哲也)

坂本さんが声をかけても、手を振って拒絶し、ティッシュ等を受け取らない女性もいるが、頭を下げて受け取る女性が多い。中には顔なじみになっており、「あ、坂本さん」と女性から声をかけられ、世間話をすることもある。

「立っている女性の傾向は短いスパンで変わりますね。直近では女性たちは21時以降に立ち始めています。以前であれば、2~3か月間はその状況が続きましたが、今は1か月もしないうちに立つ場所が変わり、時間帯も変わっていきます。かなり流動的ですね」(坂本さん)

2013年ごろから風俗店や水商売で働く女性や、生活に困窮し売春でお金を稼ぐ女性の支援を続けている坂本さんだが、支援を始めた当初は手探りだったと振り返る。そもそも立っている女性が時期によって変わってきたため継続的な支援が難しかったという。

「コロナ禍以前の2018年10月から20年3月ごろは、経済的な困窮から長く売春を生業(なりわい)としている女性が多く立っていました。しかし、20年4月から22年夏ごろまでのコロナ禍では、ホストクラブやメンズコンカフェの担当に貢ぐ“推し活”のためにお金を稼ぎたい立ちんぼ女性が急増しました。22年秋以降は、立ちんぼ女性がさらに“若年化”し、推し活女性の割合が多くなってきたように感じています」(同前)

支援つながっていても「そろそろ行くわ」

売春防止法では、売春行為そのものに罰則はないが、「立ちんぼ行為」は売春勧誘と見なされ罰則の対象になる。同法人では、これまでに支援した女性から、逮捕後の身元引受人になってほしいとの連絡を受けることもあるという。

売春防止法には罰則があるものの、「6月以下の懲役または1万円以下の罰金」だ。坂本さんによると、逮捕された女性の多くは「1万円以下の罰金」を命じられるといい、罰金を支払うと、また立ちんぼを繰り返す。

逮捕を恐れず立ちんぼとして暮らす女性たちは、他の時間は何をしているのか。歌舞伎町を歩いてみると、“立ちんぼ”以外の方法で相手を探していることがわかった。

出会いカフェで相手を見つけている人もいれば、マッチングアプリで探す人、SNSで“ナンパ待ち”している人もいる。しかし、どれも立ちんぼ行為と比べると、効率がよいとは言えないようだ。

「他にも寝床がネットカフェになっていて、日中はネットカフェにいる女性もいます。また、風俗店やキャバクラ、ラウンジ、ガールズバーなどに在籍して休みの日や夜に立つ人もいます。うちみたいな支援団体につながっている女性は、団体の事務所に来ることもありますが、一定の時間になったら、『お金ないんでそろそろ今日は(公園付近に)行くわ』と行ってしまう。

単純にお金だけが目的であれば、他に稼ぐ方法を探すと思うんですが、遊びに来ていたり、同じような境遇の子がいることで安心するのか、歌舞伎町が居場所になっている女性もいます」(坂本さん)

10年以上支援活動を続ける坂本さんには顔なじみも多い(撮影:渋井哲也)※画像の一部を加工しています
売掛金禁止で立ちんぼ「減らない」

一方、ホスト通いのためにお金を稼ぐ女性たちはまた違った様子だと坂本さんは話す。

「21時半とか22時くらいになると、女性たちに担当ホストから電話がくるんです。『あいたよ』って。『じゃあ、今から行く』と行ってしまう。“売掛金”は禁止されましたが、実態は“立て替え”という名前に変わっただけのようです。担当ホストと女性との個人的な貸し借りみたいなものです。女性が借金をすることに変わりなく、担当ホストがお店に客(女性)の支払いを立て替えるのです。はっきりとは裏が取れていないのですが、ホストが闇金などに(女性の)借金の仲介をするケースもあるようです」

ホストが店に立て替えるとなれば、必然的にお金を持っている“売れっ子ホスト”が優位になる。

ホストとしての評価も立て替え能力で差がつきます。立て替えができないと、ホスト自身が“飛ぶ”しかなくなる。その意味で、ホストも立て替え金の回収に必死になっています」

売掛金禁止によって、ホスト通いの立ちんぼ女性が減ると言われていたが、実態はどうやら異なるようだ。ホストに貢ぐ立ちんぼ女性に話を聞こうと、以前取材した女性に声をかけたが、今回は断られてしまった。

坂本さんは「売掛金禁止によって(立ちんぼは)減っていないし、減らないと思う」としてこう続ける。

「結局、ホストに行きたくて立っている女性たちは、ホストに『お金を持ってこい』と言われたから立っているのではなく、あそこで立てば担当に貢ぐためのお金が稼げるという情報を得て、自分の意志で立っています。もちろん、ホストから色恋を使われて、だまされている女性もいるんでしょうけど、われわれみたいな支援団体が介入するのは余計なお世話と思っている女性もいます。『私が好きでやっているんだからほっといて』というのが多分、一番多い本音かなと思います。実際にそう言われたことはないですけど…」

行政がホストクラブ側に求めたのは「売掛金」という仕組みの規制であり、度を越して“貢がせる行為”を禁止した訳ではない。新たなスキームを生み出し、歌舞伎町の経済は今日もいびつに周り続けている。