【マネー現代編集部】「ケンタッキーの味落ちる?」米ファンド買収で広がる「ウワサ」、実は”大ウソ”と断言する理由

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世界一美味いケンタッキーはどの国か

ケンタッキーフライドチキン(KFC)」といえば、現在、世界135ヵ国で2万3000以上の店舗数を誇る、世界最大規模のファーストフードチェーン。そんなKFC、各国ごとにフライドチキンの味が微妙に異なっていることは有名な話だ。

では「世界一美味しいKFC」があるのはどの国か。この問いに対する答えは諸説ある。まず挙げられるのが、アフリカ南部に位置するモザンビークとする説だ。

外務省のサイト内にある「アフリカ ちょっといい話・エピソード集」というページにて、在モザンビーク日本国大使館はKFCについてこのように記述している。

〈世界に進出するおなじみのファーストフード(KFC)ですが、モザンビークのものが世界一美味いと巷では評判です。その理由の一つがコールドチェーンの未発達にあり、加工した鶏肉を運搬することが困難なことから、店内で絞めた鶏を使用するため、鮮度が抜群に良いためと言われています。〉

ただ、この情報は少し古いようで、直近の調べでは、すでにモザンビーク産の新鮮な例とチキンを使用することがほとんどだという。そうなると、「世界一美味しいKFC」がある国の最有力候補として挙げられるのが、ずばり日本だ。

原料の「鶏肉」へのこだわり

そもそも、KFCの「オリジナルチキン」の美味しさの秘訣は、創業者カーネル・サンダース秘伝の11種のハーブ・スパイスによる味付けと、圧力釜でじっくり揚げる独特の調理法にある。

この製法に関して、国内でKFCを展開する日本KFCホールディングス(日本KFC)は、日本1号店が開店した1970年以降、徹底的に遵守している。そのためカーネル自身も、かつて視察のため来日した際には、「日本はケンタッキーフライドチキンの味を最も忠実に再現している」と話し、いたく気に入ったという。

さらに日本のKFCが世界一と称される所以が、原料となる“鶏肉”にある。

日本KFCの鶏肉を大部分を供給しているのが、1988年に同社の認定工場第一号となったジャパンファーム社だ。2020年に日本KFC創業50周年を記念して刊行された公式ムック本では、日本KFCに鶏肉を供給しているジャパンファーム社の農場が詳細に紹介されている。

それによれば、国内産のハーブ鶏(天然ハーブを加えた純植物性飼料を与え育つ鶏)100%を使用。さらに、「中雛」と呼ばれる生後38日前後飼育の若鶏だけを厳選している。これによって、やわらかくジューシーな鶏肉に仕上がるという。

ジャパンファームのおかげで、日本人はいつでも世界一のフライドチキンが食べられる――。そう思っていたのも束の間、KFCファンを震撼させるニュースが今年5月20日、飛び込んできた

突然の買収発表、チキンはどうなる?

日本KFCに対し、アメリカの投資ファンド、カーライル・グループが買収を発表したのである。日本KFCの筆頭株主である三菱商事から株式の取得を進めるほか、TOB(株式公開買い付け)による取得を実施。9月をめどに完全子会社化を進めている。

この報道に対し、すぐさまSNS上ではこんな「噂」が広がった。

「日本のケンタッキーの味が落ちるのではないか?」

この噂がたった原因は、鶏肉の調達先が上述したジャパンファームから他社に変更されるのではないか、という疑念だ。

というのもジャパンファームは、筆頭株主である三菱商事を中心に、飼料メーカーの日本農産工業・日清製粉、さらに食品メーカーの日本ハムの4社で設立された企業。そのため、KFCから三菱商事が離れることで、ジャパンファームとの関係も解消するのでは、という憶測が広がったと考えられる。

では、この噂は本当なのか――。フードビジネスコンサルタントとして多数の著書があり、YouTubeチャンネル「永田ラッパ〜食事を楽しく幸せに〜」を運営する永田雅乙氏は、「味が落ちることは、ほぼゼロでしょう」とバッサリ切り捨てる。

カーライルは経営に口を挟まない

「おそらく買収したのが“米国投資ファンド”ということで、ハゲタカファンドのような悪い印象を持たれた消費者が多く、こうした噂が出たのかと思います。雑巾を絞るがごとく『コストカット』で剛腕を振るうようなファンドが日本KFCを買収した場合、より安価な鶏肉の調達先に変更する可能性も無くはないです。

しかし、今回のカーライルは、日本KFCの『バリューアップ(利益を上げる)』、つまり既存の価値をより高いものにする戦略をとると考えられます。したがって、高い品質を誇るジャパンファームをみすみす手放すことは想像できません」

永田氏はあくまで今回の買収は“ポジティブ”なものと受け入れているという。その根拠となるのが、かつてカーライルがMBO(経営陣が参加する買収)を行った居酒屋チェーン「はなの舞」「さかなや道場」などを運営するチムニーのケースだ。

「チムニーは度重なる業績不振で一度は上場廃止に追い込まれました。しかし2009年、カーライルの支援を受ける形でMBOを実施したところ、企業価値が十分に向上したとして2012年に再上場を果たしています。

私は当時のチムニー幹部と話したことがありますが、『カーライル側は自分たちのやり方を強制することはなく、経営に口を挟むこともなかった』と、MBOについて非常に肯定的だったことが印象的でした。

カーライルの目的は、あくまで日本KFCの価値を高めて、買収額の何倍もの額で他社に売却し、利益を得ること。したがってチムニーの時と同様、ポジティブなものとなるはずです」

では具体的にカーライルは日本KFCにどんな経営改革を実行していくのか。

業績好調も…日本KFCの大きな課題

日本KFCの足元の業績はけっして悪くはない。2024年3月期の連結業績では売上高は前期比10・8%増の1107億円、純利益は74・0%増の43億円と、むしろ好調を維持している。だが、それでも今後の成長を見据えて課題は尽きない、と永田氏は指摘する。

「カーライルが取り組むと予想される日本KFCの課題は、大きく2つあります。

1つは店舗のDX(デジタルトランスフォーメーション)強化。競合であるマクドナルドでは、日本国内でもモバイルオーダーやセルフレジが普及していますが、それと比べてKFCは後れを取っている状況です。人件費の効率を高めるためにも、DX強化は喫緊の課題と言えます。

もう1つは規模拡大です。現在、日本KFCの店舗数は1232店(2024年3月期末)ですが、ここ10年間に77店舗、毎年10店舗ほどしか増えていません。カーライルとしては、まだ出店のポテンシャルがあると考えているはず。今後、出店攻勢をかけていくのではないでしょうか」

激動の変革期を迎える日本KFCだが、ひとまずは世界一といわれる「オリジナルチキン」の美味しさは、しばらく担保されるようだ。

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