大谷翔平(写真:AP/アフロ)

メジャーリーグのオープン戦が始まったと思ったら、大谷翔平の電撃結婚のニュースである。スポーツ番組ではなく、一般のニュース番組やバラエティ番組のトップで、大谷翔平の動静が伝えられることが、もはや珍しくもなんともなくなった。まだシーズン開幕まで1カ月近くあるが、この現象は、昨年以来、ずっと続いている。

大きな期待を背負いながら、それを上回る結果を残してきた大谷翔平は、何かと後ろ向きになりがちな今の日本人にとって、まぶしくもあこがれる存在ではあろう。

「大谷翔平がプレーする姿を一目でいいから見たい」。そう思いを募らせる日本のファンが急増しているはずだ。大谷翔平が所属するロサンゼルス・ドジャースの試合を観戦する日本人は大幅に増加すると考えられている。しかし、それはそんなに簡単な話ではない。

韓国でのMLB公式戦チケットは一瞬で売り切れに


韓国の高尺スカイドーム(写真:筆者撮影)

今年のMLBは3月20日、韓国ソウル近郊の高尺(コチョク)スカイドームでのドジャースとパドレスの2連戦で開幕する。韓国でのMLB公式戦は史上初めてだ。

パドレスには、韓国人選手でWBC韓国代表としても活躍した金河成(キム・ハソン)がいる。もともとこの韓国での試合は金河成の凱旋試合として計画された。

しかしドジャースに大谷翔平、山本由伸(前オリックス)が入団し、パドレスにもエースのダルビッシュ有に加え、楽天から海外FAで松井裕樹が加わったことで、日本ファンの注目度が劇上がりした。

高尺スカイドームは韓国初のドーム球場だが、客席数は1万6744席。東京ドームの4割程度しかない。韓国でも大谷翔平人気は高いから、チケット争奪戦が過熱した。

チケット販売は韓国のオンライン販売サービス「クーパン」を通じて行われたが、一瞬で売り切れた。

最も高い1階のテーブル席で70万ウォン(約7万9000円)、最も安い外野4回立見席で12万ウォン(約1万3500円)、韓国プロ野球(KBO)の入場券は8.5万ウォン(約9600円)から、8000ウォン(約900円)程度だから10倍以上だ。

ただし「クーパン」でチケットを買うには韓国国民と在留外国人に付与される、住民登録番号の入力などが必要となるため、日本人の購入はほぼ不可能だった。

JTBの日本人向けパッケージツアーは倍率「200倍」

そこでJTBがMLBと交渉し、日本人向けにパッケージツアーを組んだ。

JTB 『MLBソウル・シリーズ』
JALで行く2試合観戦券付き公式ホスピタリティ・パッケージ 4日間 旅行代金 72万8000円(燃油込・空港諸税別)
1試合観戦券付き公式ホスピタリティ・パッケージ(3/20観戦) 3日間 旅行代金 49万8000円(燃油込・空港諸税別)

いずれもエコノミークラス、ホテル2名1室で利用したときの1人あたりの代金だ。すでに申し込みは締め切られているが、倍率は「200倍」になったという。

筆者は韓国プロ野球を毎年見に行っているが、飛行機代を浮かすために博多港からフェリーに乗ってプサンまで行けば往復で1万6800円だ。プサンからソウルまではKTX(新幹線)で6万ウォン(約6800円)。高尺スカイドームはソウル駅から地下鉄1号線で30分ほどだ。

節約すれば5万円ほどで現地で観戦することができるのだ。筆者はこのルートで高尺スカイドームに何度も行っているが、九一という小さな駅の前にあって周辺には食べ物屋さんはほとんどないし、場内の飲食施設もトッポギ(韓国餅)を売る店がある程度で充実していない。このツアーはソウル市内観光なども日程に入っているので、球場には純粋に試合観戦のためだけに行くのだろう。

「ドジャース戦観戦ツアー」は50万円〜85万円程度

価格が上がっているのは、韓国での観戦ツアーだけではない。日本の旅行会社が組むアメリカでのドジャース観戦ツアーは、まだ発表されていないものも多いが、かなり高額なものになっている。

MLBの観戦チケットは試合日程、席種、市況、天候、個人の嗜好などに関するビッグデータ分析を基に試合ごとの需要予測を行い、需要に応じてチケット価格を決めるダイナミックプライシング(DP)を導入している。

ロサンゼルス・ドジャースの観戦チケットは、一番高い1階 バックネット裏〜ダッグアウトクラブ VIPで1050ドル(約15万2000円)から、一番安い内野最上段のトップデッキで26ドル(約3800円)程度になっているが、DPで変動する。公認のチケット転売サイトでは10倍以上の値段になっているが、それでも、売り切れが出始めている。

今、国内の旅行会社が企画している「ドジャース戦観戦ツアー」は、1〜2試合の観戦チケットがついて3泊5日程度の旅程で、50万円〜85万円程度。燃料サーチャージ代が別途必要な場合が多い。また1人部屋の場合別途10万円程度がかかる。3試合観戦になると100万円を超す商品も出てくる。それでも4、5月は催行決定が続出し、キャンセル待ちになっているものもある。

大手旅行会社は、MLB球団側と契約して、球場のシートを年間で仕入れて、ツアー客に販売しているのだ。

しかし「2試合」「3試合」となると、指名打者でほぼ毎日出場する大谷翔平はともかく、5日に1日くらいしか登板しない山本由伸は、運がよくなければ見ることができない。

また対戦相手は日程によって異なるので、韓国での開幕戦のように大谷、山本に加えてパドレスのダルビッシュ有、松井が揃うような豪華顔合わせは難しい。試合数は4試合以上、対戦カードもこちらで選びたい。となれば「ツアー」ではなく「手配旅行」になる。

ツアーではなく「手配旅行」の場合の旅行代金

飛行機、ホテル、チケット、移動手段などを個別に決めて、旅行会社に見積もりをして発注するのだ。しかし「手配旅行」も旅行代金はそれほど安くならない。

まず、昨今の円安で、航空運賃やホテル代が跳ね上がっている。さらに、飛行機とホテルを確保しても、現地の「足」の問題がある。空港からホテルへ、ホテルから球場までの交通手段、車社会のアメリカでは日本と異なり公共交通は少ない。

旅行会社では「ホテルから球場までの片道、または往復の送迎付き」のチケットが多いが、送迎費用が2万円ほどオンされていて、どんな席でも1枚当たり数万円になっている。

仮に1週間滞在して5試合観戦するとすれば、旅行会社からは100万円を超す見積もりが上がってくることになる。

もちろん、この高騰の背景には「円安」があるのだが、今の世の中、気楽に「大谷翔平を見に行く」とは言いにくくなっているのだ。

「韓国での開幕戦の、ドジャースとパドレスの対戦を見るなら、僕はそんな高いチケット狙わないですね。いろんな手があるんですよ」

こう話すのは、松崎祥久さん。筆者の古なじみの会社員だが、MLB本拠地全30球場で試合観戦をした猛者だ。野球文化學會の会員でもある。

我々は「大谷翔平を見に行く」となると何が何でもドジャースタジアムで、と思うが、ドジャースはドジャースタジアムで年間81試合前後、残る81前後は他の球場で試合をするのだ。

ドジャースタジアムでの試合より安い


ペトコパーク(写真:松崎祥久)

サンディエゴ・パドレスは、ドジャースと同じナショナル・リーグ西地区に所属し、ドジャースとは13試合も対戦がある。今年はこのうち7試合がドジャースの本拠地ドジャースタジアムで行われるが、6試合はパドレスの本拠地「ペトコパーク」で行われる。この球場は2006年侍ジャパンが世界一になった第1回WBCの決勝の舞台だ。侍ジャパンの歓喜を覚えている人も多いだろう。

「7月30、31日とペトコパークでドジャースの2連戦があるんです。僕ならこちらを狙いますね。チケットはずいぶん高くなりましたが、それでもドジャースタジアムでの試合よりは安いですし、おそらく満員札止めにはなりませんから」(松崎さん、以下同)

ホテルはどうするのか?


ドジャースタジアム(写真:松崎祥久)

「ホテルは球場から徒歩か、公共交通機関を利用して、至便な場所を探します。ナイトゲームですと帰宿が夜更けになることがあり徒歩圏で行けるホテルはその意味で楽です。ペトコパークの場合は、徒歩圏にあるガスランプクォーターという繁華街を中心に探します。

ドジャースタジアムなら、地下鉄のユニオンステーション駅の近く。この駅からドジャースタジアム行きの無料シャトルバスが出ていますから。タクシーは、ずいぶん高くなってチップも含めれば日本円で1万円は覚悟しないと。ウーバーなんかもありますが。航空運賃も馬鹿上がりしているので、交通費はできるだけ節約したいところです」

チケットはいろいろなサイトで購入できる。旅行会社のパックの代金より安いが、紙はなく、すべて電子チケットなので注意が必要だ。

観戦に際して、注意すべきポイントは?

「手荷物検査が厳しいです。日本みたいに大きなバックパックやボストンバッグは全部NGです。望遠の大きなカメラや三脚もアウトです。球場によっては透明のビニールバッグと指定してくるところもあります。できるだけ軽装にしないと警備で止められたりするので、僕はわざとスーパーの買い物袋を持って入ったりします。

それから、球場でビールを飲むときは、身分証明書が必要になりますから、パスポートは必須です。繁華街には治安の悪いところもありますから、野球を観るためだけに来ているのなら、球場からホテルにまっすぐ帰ることですね」

総予算はどれくらいに?

「昔は30万円くらいでもずいぶん高いなと思いましたが、今年は5〜6日の滞在だとどんなに節約しても50万円くらいかかるんじゃないでしょうか。マイルを使ってできるだけ安く上げようと思いますが、飛行機はLCCも考えています」

旅行会社は「『安全』の費用もオン」

旅行会社に話を聞いていて、思わず「ずいぶん高いものですね」と言うと、担当者はまじめな顔をして「私どもは快適に観戦していただくために『安全』の費用もオンさせていただいています」と言った。

行き慣れた人であればそんな気遣いは無用だろうが、円安の昨今、大谷翔平の応援は、相当の出費を覚悟しなければならない。なんにせよ、しっかり計画を立てていくべきだろう。

(広尾 晃 : ライター)