ローカルフードやピザ、カフェなど複数の店舗が入るイランのサービスエリア(筆者撮影)

年末年始にイランに滞在し、現地の道路を体験してきた。その第1弾を「ペルシア時代の面影残る「イラン」の高速道路(1)」としてお伝えしたが、今回はいわゆる「サービスエリア」に着目してみたい。

日本の高速道路のサービスエリア/パーキングエリア(SA/PA)の充実ぶりは、これまで40を超える国の高速道路を走ってきた筆者から見ても、世界一だと言ってよい。


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特に、ここ20年ほどは高速道路の民営化もあって、ご当地グルメやお土産の多様化、ドッグランや仮眠施設などの付帯施設の新設、さらには観覧車をはじめとした娯楽施設を併設するところも出てきて、他国のサービスエリアでは見られない進化を遂げている。

今回のイラン渡航では、首都テヘランを起点に、カーシャーン、ヤズド、シラーズ、エスファハンと、イラン中央部の観光都市を巡ってテヘランに戻るルートをたどり、都市間の移動時には食事やトイレ休憩のために多くのサービスエリアに立ち寄った。

広大な砂漠地帯の中の大規模サービスエリア

高速道路脇の標識に目を凝らしていると、間隔の短い区間では十数km、距離が空く区間でも30〜40kmごとに休憩施設が設けられており、日本と同様、にサービスエリアと書かれた標記もあるし、レストエリアと書かれた標識もある。


サービスエリアまで5kmの標識(バス内から筆者撮影)

規模はまちまちで、ガソリンスタンドとトイレ、最低限のショップが1店舗のみという小規模のサービスエリアもあれば、いくつもの建物があり、それぞれにレストランや店舗が入っている大規模なサービスエリアもある。

イランの高速道路は広大な砂漠地帯を走ることが多く、サービスエリアの敷地も広い。

そのため、日本のように駐車マスをどう確保するかという問題はほとんどないようだ(参照:有料化も検討「SA/PAの駐車マス」巡る熱い議論)。それどころか、駐車マスそのものがなく、それぞれのクルマやバスが好き勝手に停めていて、それでも特に混雑しているようには見えない。


サービスエリアの駐車スペースで無造作に停められた大型トラック(筆者撮影)

もちろん、イランにも日本の年末年始や大型連休にあたる混雑期間もあって、そのときは「相当な混雑が起きる」とのことだ。

ちなみに、イランの「正月」にあたるのは、「ノールーズ」と呼ばれる春分の日で、この時期は国中の人が休暇に入る。これは、古代ペルシア時代から信仰されてきたゾロアスター教の暦に合わせたもので、日本の年末年始にあたる12月31日や1月1日などは、まったく通常と同じである。

名物料理「アーブ・グーシュト」

比較的規模の大きなサービスエリアでは、食事を摂れるスポットが複数ある。ちょっとした軽食が食べられるカフェと、きちんとしたレストランが揃っているところも多い。


サービスエリアの一例。ファストフードのほか雑貨店などもある(筆者撮影)

テヘランに戻る途中、残り1時間ほどの場所にあったコム近郊のサービスエリアは規模が大きく、たくさんある売店の中には、焼き菓子を製造する工房を備えたお店もあった。

レストランは、円形の池を囲むように建っており、「アーブ・グーシュト」と呼ばれる名物料理が提供された。

これはラム肉とジャガイモ、タマネギ、ヒヨコマメなどの野菜を、ディーズィーと呼ばれる小さめの壷に入れて長時間弱火で煮込んだ料理で、その具を専用のすりこぎのような道具で潰してナンにつけて食べる。野菜の味が強くねっとりした食感がお腹にたまる、おもしろい料理だった。


コムの街近郊のSAで食べた「アーブ・グーシュト」(筆者撮影)

売店で売られているものもさまざまで、おもちゃや日用雑貨もあれば、靴や衣料品、化粧品などの生活必需品の店もある。一方で、伝統工芸品のような、旅のお土産になりそうなものもあった。

イランはナッツ類やドライフルーツの生産が多く輸出もされているが、ヒマワリの種、アーモンド、ピスタチオ、柑橘類やイチジクなどのドライフルーツの量り売りをしているコーナーも目についた。

クルマへの依存度が高いお国柄もあるのか、これまで見てきた多くの国のサービスエリアに比べて、店舗はバラエティに富んでいた印象だ。

イスラム圏の国ならでは特徴は、礼拝のための専用の部屋が設けられていることである。これは、これまで訪れたイスラム教国、例えばモロッコのサービスエリアなどでも見られたが、今回いくつか立ち寄ったサービスエリアには、モスクそのものが併設されているところも見られた。


サービスエリアに併設されていたモスク(筆者撮影)

イランはイスラム教の中でもシーア派が強く、人口のほぼ9割がシーア派の教徒である。もう1つの宗派で、他のイスラム諸国では主流となっているスンニ派では、1日に5回メッカの方角を向いて礼拝を行うが、イランのシーア派では多くが日の出前、昼、そして日没後の3回であるとガイドから説明された。

それでもイスラム教徒にとって礼拝は重要な儀式であり、空港や駅、ホテルなどにも必ずと言ってよいほど礼拝室が設けられている。サービスエリアに礼拝する場所があるのも、当然なのだ。

プジョーにルノー…、フランス車が多い

海外のサービスエリアでは、停車しているクルマのメーカーや車種の傾向を見るのも楽しみだが、イランで最も目立つのはフランスのプジョーである。ただし、これらは輸入車とは限らず、イランに3社ある自動車メーカーのうちの1社がプジョーのクルマを生産しているためだ。

他社もシトロエンやルノーなどとの関係が深く、それらの車種を生産しているため、全体としてフランス車の割合が高い。ちなみに、イスラム革命以前は日本車の走行も多かったようだが、トヨタ車やニッサン車を見かけたのは数えるほどであった。


サービスエリアに停車中のツアーバス。荒々しい山を見ながらのドライブは最高だった(筆者撮影)

イランは現在もアメリカによる経済制裁を受けており、スターバックスやマクドナルドの店舗を一切見かけないだけでなく、欧米系のクレジットカードもほぼ使えない。さらに、インターネットについても、X(旧Twitter)やFacebookなどアメリカ資本のSNSサービスだけでなく、LINEも接続できない状態にある。

こうした不便さはあるけれど、豊かな食材から生み出されるバラエティに富んだ料理に恵まれ、壮麗な遺跡や建築を眺めながらのイランの旅は、高速道路の走行も含めて大変、充実したものであった。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)