2023年10月に開業したコスタコーヒーのフラッグシップ店「CURA銀座店」(写真:双日ロイヤルカフェ)

総合商社の双日はヨーロッパでトップのブランドとタッグを組んで、カフェチェーン市場に本格参入した。

双日などが設立した合弁会社は10月6日、世界40カ国以上で展開する「コスタコーヒー」のフラッグシップ店「CURA銀座店」を東京・銀座にオープンした。これに先立つ8月には渋谷に「CIRCLES渋谷店」、9月には大手町に「OOTEMORI店」を開業していた。

廃レンガを利用した壁材の落ち着いた雰囲気

10月中旬に、歌舞伎座の近くにあるオフィスビルの1階に店舗を構える銀座店を訪れてみた。店内は明るめの柔らかな照明で、奥行きのある空間が印象的だった。廃レンガを利用した壁材が、落ち着いた雰囲気を醸し出す。

コーヒーを飲みながら打ち合わせをするビジネスパーソンらしき客の姿や、コンセント付きの大机で仕事に打ち込む女性、あるいはリラックスした雰囲気の観光客とみられる家族連れの姿もあった。

店舗を利用していた30代の女性会社員は、「スターバックスは若い客でいつも混雑しているが、ここは落ち着いた感じがある。特に、スコーンサンドは甘すぎず、とてもおいしい」と破顔一笑した。

日本ではまだ馴染みの薄いコスタコーヒーだが、1971年の創業以降、今やイギリス・アイルランドでは約2800店、その他40カ国以上で約1100店を営む。店舗数はヨーロッパでは1位、世界でもスターバックスに次ぐ第2位の位置にいる。

コスタコーヒーは豆の選定、焙煎、抽出などすべてにこだわりを持つ。バリスタが時間をかけて、じっくりと丁寧に抽出することが特徴だ。デザートプレートやスープセットといったセットメニューはそれぞれ1280円、770円と、やや高めの値段設定になっている。


バリスタがじっくりと時間をかけて、丁寧に抽出する(記者撮影)

コスタコーヒーは日本では、2020年からブランド展開し、2021年からペットボトルなどに入ったRTD(レディ・トウ・ドリンク)商品をコンビニなどで販売してきた。今年に入って、リアル店舗の出店を積極化し、今回開業した銀座店は食事も提供する初のイートイン店となる。

コスタコーヒーのフィリープ・スカイエCEO(最高経営責任者)は10月初旬に行われた銀座店の開業イベントで、「日本のコーヒー市場には長い歴史があり、市場は大きく成長している。コスタコーヒーには好機がある」と力を込めた。

双日単独では時間がかかる

「双日単独でカフェチェーンに参入しても(軌道に乗せるのに)時間がかるし、規模の追求もできない。この『座組み』だからこそ、実現したプロジェクトだ」。双日リテール・コンシューマーサービス本部の村井宏人本部長は、こう話す。

「座組み」とは、双日と外食大手のロイヤルホールディングス(HD)、そして日本コカ・コーラの3社の協業体制のことだ。

日本におけるコスタコーヒーの戦略立案やマーケティングは、コスタ社を2019年に傘下に収めたザ・コカ・コーラ・カンパニーの日本法人である日本コカ・コーラが担う。ロイヤルHDはフードやフラッペの開発、バリスタ人材の採用、店舗運営のノウハウを提供し、双日は全体の利害調整をはじめとするプロジェクトマネジメントを担う。

店舗の運営・展開は、双日とロイヤルHDの合弁会社「双日ロイヤルカフェ」が担当する。双日ロイヤルカフェは双日が60%、ロイヤルHDが40%出資する。

双日にとって、カフェチェーンへの参入は最終消費者との接点を拡大する、またとないチャンスだ。

双日は2021年4月からスタートした「中期経営計画2023」で「マーケットインの徹底」を掲げている。双日はこれまでもコーヒー豆などのトレーディングは手がけているが、ファミリーマートを傘下に持つ伊藤忠商事、ローソンを持つ三菱商事のように強固な一般消費者向けビジネスを持っていなかった。双日にとって、下流ビジネスの強化は急務だった。

一方、ロイヤルHDは2020年12月期に275億円の最終赤字を出し、祖業の機内食事業の立て直しなどを急いでいた。2021年2月に、双日はロイヤルHDと資本業務提携し、出資比率約20%の筆頭株主となった。

機内食事業については双日が譲り受け、現在両社は「ロイヤルホスト」のシンガポール進出をはじめ、東南アジアでの食肉加工や代替肉の開発で協業を深める。

こうした流れの中で、双日は今回、日本コカ・コーラと初めて本格的に連携することになった。

「彼らのマーケティング力は圧巻だ。(2019年に缶チューハイの)『檸檬堂』でアルコール飲料に新規参入して、たった1年で缶チューハイカテゴリーの人気1位になった。同社とともに、さまざまなビジネスを広げていきたい」(村井本部長)。

競争が激しいカフェチェーン

カフェチェーンへの参入で、下流ビジネスに厚みを持たせたい双日だが、国内のカフェチェーンは競争がいっそう激しさを増している。

市場自体は持ち直している。全日本コーヒー協会の調査では、国内のコーヒー消費量は3年連続で落ち込んだが、2022年に前年比2.2%増の43万2875トンとなった。


しかし、日本で約1880店を展開する「王者」スターバックスコーヒージャパン、1000を超える店舗網を持つドトールコーヒー、そしてフランチャイズ店を中心に急成長するコメダホールディングスなど、ライバルチェーンがひしめく。低価格路線を標榜し、世界で急拡大する中国のコッティコーヒーも8月に日本上陸を果たした。

コロナ禍で優勝劣敗が鮮明になりつつある中、後発のコスタコーヒーに勝算はあるのだろうか。

「コスタは既にヨーロッパナンバーワンのブランドで、中東、インドでも年間100店のレベルで店舗を増やしている。こうした勢いを日本にも広げていきたい」と、双日ロイヤルカフェの西尾真理子社長は強調する。

コスタコーヒーはコカ・コーラが手がけるペットボトルなどの販売、ブランドマーケティングとの相乗効果でカフェでの競争を勝ち抜く算段だ。

「ペットボトルであれ、家庭で飲むものであれ、コーヒーの国内消費は伸びている。その中で、リラックスしたり、バリスタとの会話を楽しめたりするカフェでの体験は、自分だけの個性的でオリジナルな体験になる。こうした特別な体験を提供することで差別化を図っていく」(西尾社長)

「マスプレミアム層」(やや高級志向の中間層)をターゲットにしたコーヒーは、「エスプレッソ」(シングル)が390円、「フラットホワイト」(エスプレッソに泡立てたミルクを重ねた商品)が540円という価格だ。コスタコーヒーの世界基準を満たす品質で提供する。

期間限定商品の威力

さらに、ロイヤルHDが味のみならず焼き目の色あいにまでこだわり抜いたパイなどのフードやフラッペを投入し、差異化する。ハロウィンシーズンに続き、クリスマスシーズンにあわせた色合い豊かなスコーンを期間限定で販売するなど、「アップリフト(わくわくする)な体験を提供する」(コスタコーヒーのフィリープ・スカイエCEO)という。

店舗網も拡大していく構えだ。まずは直営店を中心に展開し、徐々にフランチャイズも広げていく戦略で、2024年春までに10店舗以上の出店を目指す。12月1日には、福岡空港(福岡県)でフランチャイズ1号店を開業する。

大手コンビニなどを傘下に持たない双日が、「宝の山」と言われる下流ビジネスをどう育て、他事業との相乗効果をどう生みだしていくのか。スターバックスが君臨する市場で、業界の地図を塗り替えるのはたやすくはない。

(森 創一郎 : 東洋経済 記者)