市販のヨーグルトはどれを選べばいいのか。ジャーナリストの笹井恵里子さんは「同志社の八木雅之客員教授らが市販のプレーンヨーグルト19品を調べたところ、老化の原因になる悪玉物質の発生を最も抑える効果があるのは『明治ブルガリアヨーグルト』だった」という――。

※本稿は、笹井恵里子『老けない最強食』(文春新書)の第5章「老けない最強の乳製品」の一部を再編集したものです。

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ヨーグルトはなぜ“最強食”なのか

前章で納豆を完全食と述べたが、乳製品のひとつ「ヨーグルト」も同様にほぼパーフェクトな一品だ。その理由をひとことで言うなら「腸内環境を整えるから」である。

かつて「腸活」がブームになり、腸を大事にしたほうがいいという印象はあっても、多くの人は単に“おなかの調子を整える”程度にしか受け止めていないのではないだろうか。腸には独自の神経ネットワークがあることから「第二の脳」と呼ばれ、他の臓器とは全く異なる特徴がある。老けない要素はもちろん、健康面にも大きな役割を果たしているのだ。

腸内環境に詳しい第一会最高顧問の後藤利夫医師がこう説明する。

「私たちの体のあらゆる器官は、基本的に脳や脊髄といった中枢神経からの指令で動いています。腸も自律神経の影響を受けていて脳にコントロールされていますが、腸にはそれ以外に『腸神経系』という独自の神経ネットワークがあるのです。

つまり腸は、脳からの指令がなくても、自分の判断で動くことができるのです。腸には私たちの体を守る免疫機能が集中しているので、腸が不健康だと免疫力が下がり、感染症をはじめさまざまな病気にかかりやすくなります」

■腸内フローラに「いいお手本」は存在しない

反対にここが元気であれば風邪やインフルエンザをはじめとした感染症にかかりにくくなる、ストレスに強くなるなどのほか、脂肪の蓄積を抑えて肥満防止になる、血管年齢が若返るなど良いことがたくさんあるという。

この腸をコントロールしているのが、そこに棲む微生物、すなわち「腸内細菌」だ。腸内細菌は腸の中にびっしりと、まるで草原に多数の花が咲くように存在していることから腸内フローラ(腸内細菌のお花畑)と呼ばれている。

それではどういった腸内環境ならいいのかが気になるが、残念なことに誰もが世界にたった一つの腸内フローラを持つため手本はない。

「人は母親の胎内にいる時は無菌の状態です。そして産道を通って生まれてくる時にはじめて細菌と出会います。生まれてからは口から入ってくるものからどんどん細菌を体内に取り込みます。母親も、育つ環境も一人一人違いますから、腸内フローラも同じ人はいないのです。親子、兄弟間でも異なります」(後藤医師)

■腸内環境を確かめられる「いい便」の色とは

またそこに棲む腸内細菌もさまざまだ。

「腸内細菌のなかには糖分や食物繊維を食べて発酵させ、腸内を弱酸性にして体に有害物質を作らせない有用菌がいます。このほとんどが乳酸菌(ビフィズス菌も含む)です。一方でタンパク質や脂肪を食べて腐敗させ、毒性物質をつくる腸内細菌もいます」

いわゆる善玉菌、悪玉菌ということになるが、近年は善玉菌であっても体に有益な働きをしなかったり、悪玉菌でも体に有害とはいえない菌もいることがわかってきたから、本書では善玉菌、悪玉菌という言葉を使用していない。

腸内の菌たちの居住スペースには限りがあるため、腸内に棲みつく細菌たちはそれぞれの領地を広げようと常に小競り合いを続けている。そのため腸内環境は日々変化する。現在の状態を知るには、便を見ることだ。体に良い働きをする菌が活発に働くような腸内環境であれば「黄褐色でバナナ状」の便が出る。

ここで確認しておきたいことは、腸内細菌は宿主(人)が食べたものの“残骸”を餌として生きているということだ。日本人の腸内には、海苔やワカメなどの海藻類に含まれる糖類を分解することができる腸内細菌が高い頻度で見つかっているが、これは古来からの日本の食文化と関係している可能性が高いだろう。逆に欧米人はこの海藻類を消化しにくい。

■乳酸菌は飲料よりも発酵食品から摂るといい

ほかにも例えば、肉ばかり食べている人はそれをエネルギー源にする腸内細菌ばかりが増え、その菌が生み出す“毒素”で腸内環境を悪化させてしまうこともある。

腸内細菌のバランスが大切なのだが、後藤医師によると「年とともに有用菌が減少しやすくなります。50歳を超えると乳幼児期の100分の1といわれている」とのこと。だから年齢を重ねるほど食品などから良い菌を摂取することが重要なのだ。

最近はサプリメントや飲料といった形でも乳酸菌(有用菌)が商品化されているが、お勧めはヨーグルトやチーズなどの乳製品や、味噌や醤油、ぬか漬けなどの発酵食品を摂ること。

発酵食品を食べると、発酵食品中に存在する乳酸菌(ヨーグルトやチーズなどに動物由来の乳酸菌が、味噌や醤油、漬物などに植物由来の乳酸菌が含まれている)、その菌によってつくられた代謝物質、もともとの栄養成分と、三つの良いものを摂取できる。中でもヨーグルトは、「機能別」に選べるところがメリット。

「高血糖を改善したいなら、血糖値上昇を抑える効果の高い乳酸菌を摂ったほうがいいですし、アレルギー症状を和らげたいなら免疫細胞によく効く乳酸菌を摂ったほうが効率よく体質改善につなげられます。また、整腸作用や美肌効果を得たいなら大腸に棲んでいるビフィズス菌を摂取したほうがいいですね」(後藤医師)

■機能性表示食品に「英字と数字」が入るワケ

ヨーグルトで乳酸菌を摂取する場合、菌のタイプは大きく二つに分かれる。一つは胃や小腸で働くことで免疫力などを高めるタイプ、もう一方は大腸で働き腸内環境を整えるタイプだ。基本的には各メーカーがうたっている機能表示を信頼して良い。

腸内細菌の種類は「門→属→種(菌)→株」に分類され、その株がヨーグルトのパッケージに記されていることが多い。例えば『明治ブルガリアヨーグルトLB81』は、LBが乳酸菌、81が「ブルガリア菌2038株」と「サーモフィラス菌1131株」の末尾番号を組み合わせたものだ。株名からインターネットで検索すると、実験で確認した株の効果が調べられる。

主な菌株と期待できる効果を表にしてみた。

出所=『老けない最強食』

「各メーカーはいろいろテストしながら、一番得意な分野の菌株を打ち出しています。ただ『ピロリ菌を減らす』とうたっている商品でも、それしか効果がないわけではありません」と後藤医師が解説する。

乳酸菌などの良い菌は「プロバイオティクス」(人体によい影響を与える微生物)といわれる。そのプロバイオティクスには、腸内環境改善、発がんリスク低減、免疫調節(インフルエンザ感染予防、花粉症軽減効果)などの報告が多数ある。どのヨーグルトを食べても、その基本的な効果が多少は期待できるということだ。

ただし大半は、2週間程度食した試験に基づいて商品化しているので、最低でも2週間は継続しないとその効果は判定できない。

■老化の原因物質の発生を防いでくれる

そして食前か、食後の摂取かを考えた時、アンチエイジングの作用を期待するなら、「食前」にヨーグルトを食べるほうが断然いい。ヨーグルトにはAGE発生を防ぐ作用があるからだ。

おさらいになるが、本書冒頭から老化を促進する悪玉物質「AGE」の危険性を再三指摘してきた。AGEは「タンパク質と糖」が結びつき、劣化(糖化)する現象で発生する。

食品では“きつね色”が糖化の証。カステラの茶色の部分、格子状のワッフルの焼き目、どら焼きや今川焼きの皮など、おいしいところにはAGEが多く含まれている。

写真=iStock.com/InnaVlasova
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そういったAGEを含んだ食品を多量に摂取することでも体に悪影響をおよぼすが、食品だけでなく体内でも血糖値が急上昇すれば糖化が進み、AGEが発生すると述べてきた。

長年糖化と食品の関係について研究を続けてきた同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之氏も、こう説明する。

「老化の原因は食後に血糖値が高い状態が生まれることで、タンパク質と糖が結びつく糖化が起きやすくなり、そのとき老化の原因物質(AGE)が生まれてくることにあります。

紫外線を浴びたり、過度な飲酒や脂質摂取、喫煙習慣も、この糖化を加速させる。糖化するとその部分の組織が茶色くなって硬くなり、変性して体内は老いていく。肌のくすみやハリ、弾力低下などの要因にもなります」

■「食前のヨーグルト」は糖化を抑えるのに最適

そこでAGEを発生させないためには、こんがり色の食品を避ける、血糖値が急上昇しないような食べ方をするなどが効果的だ。食物繊維が含まれる野菜から食べるなど、要は「糖質がすぐさま腸に吸収されること」を防げばいい。

ここで活躍するのがヨーグルトなのだ。

「私たちはストレートに糖化を抑制する食品を探しました。数多くの食品を調べ、ヨーグルトにその作用があることがわかったのです」(八木氏)

八木氏は、ヨーグルトが血糖値の上昇を抑え、抗糖化作用をもつことを突き止めた。

「野菜類や果物に含まれるフラボノイドというポリフェノールの一種には強力な抗炎症作用があり、糖化を抑える働きがあります。それはもともとよく知られていたことでもありますが、私たちも改めて確かめました。

続いて我々の研究では、ポリフェノールがあるはずのないヨーグルトにも糖化を抑える反応があるということがわかりました。ヨーグルトを食事に取り入れることで血糖値が上がりにくくなるのです」

■上ずみ液(ホエイ)は捨ててはいけない

八木氏らが▽米飯のみ▽野菜サラダ→米▽ヨーグルト→米という3パターンで食後血糖値を比較したところ、「ヨーグルトと米」の組み合わせは「野菜サラダから先に食べる」食事法と同等以上に、食後の血糖値を下げることがわかった(図表2)。食事は、「野菜から」だけではなく「ヨーグルトファースト」でもいいということだ。

出所=『老けない最強食』

なぜヨーグルトに血糖値を下げる作用があるのか。

ヨーグルトは、牛乳などのミルクに乳酸菌や酵母などを添加して発酵させた食品です。乳酸菌は乳糖を分解して“乳酸”という物質を作りますが、これには胃酸分泌ホルモン(ガストリン)を抑える作用があります。そのため食べたものを胃から送り出すスピードが落ち、結果的にゆっくりと小腸に移動するので糖の吸収がゆるやかになり、血糖値の急上昇を防ぐのです。

また、もう一つ理由が考えられ、ヨーグルトの上ずみ液(ホエイ)中に含まれる成分に、消化管ホルモンのインクレチンに働きかける作用があります。インクレチンはインスリンの分泌を促進するので、血糖値が下がるのです」(八木氏)

■1位は「明治ブルガリアヨーグルト

ホエイには、糖化を抑制する作用があることもわかった。固まっている部分(カード)と同じくらいの栄養素もあるため、上ずみ液は捨てずに混ぜてから食べよう。ちなみに昔から人気のある「ヨーグルトパック」も、実際に肌に良い効果があることを八木氏の研究室が証明している。

ヨーグルトホエイは美白や保湿、肌荒れ防止効果などをもつとされ、民間療法として肌に塗布して用いられてきました。今回皮膚モデルを用いた実験ではホエイは糖化による皮膚の硬化を抑制する作用があることがわかりました」(同)

液があまった時は顔にパックをしてもいいかもしれない。

出所=『老けない最強食』

さて「老けないヨーグルトベスト5」は、市販のプレーンヨーグルトのAGE生成抑制率を比較したものだ。商品名を挙げているがこれ以外の商品に効果がないわけではない。八木氏も「研究に使用した19種類すべてのヨーグルトに糖化反応抑制作用がありました」と述べている。菌株がもつ「機能」と合わせてお気に入りの商品を見つけたい。

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■組み合わせはキウイかバナナが最強

ところで日本人には牛乳、ヨーグルト、チーズなど動物由来の乳製品が合わないと聞いたことがある方は多いだろう。実際におなかがゴロゴロしてしまう人がいるかもしれない。乳製品に含まれる「乳糖」が分解できないために起きる症状で、「乳糖不耐症」と呼ばれるが、改善策はあるのだろうか。管理栄養士の望月理恵子氏に聞いた。

「乳幼児期には乳糖を分解するラクターゼという酵素の活性が強いのですが、年とともにこの酵素が減ってしまうので、乳製品を摂ると下痢などの不調に陥りやすくなります。ですがヨーグルトであれば、そこに含まれる乳酸菌が乳糖の20〜40%をあらかじめ分解してくれるため、腸への負担が少なく、乳糖不耐症の人であっても腹部不調を起こしにくいと思います」

さらにヨーグルトは「完全食」であるともいう。

笹井恵里子『老けない最強食』(文春新書)

「タンパク質、ビタミンA、B、K、カルシウムなど、さまざまな栄養素が含まれています。足りないのは食物繊維とビタミンCぐらいですが、これもキウイやバナナなどの果物を加えることで補えます。良い働きをする菌を増殖させ、元気にさせる成分をプレバイオティクスといい、その代表がオリゴ糖と食物繊維。

キウイもバナナもオリゴ糖と食物繊維を共に含むので、プレーンヨーグルトにどちらかをプラスすればパーフェクトな一品になります」

つまりキウイヨーグルトかバナナヨーグルトであれば、全て一緒に摂れて最強の食品なのだ。一日100〜150gを目安に、タイミングを意識して摂取してほしい。(第4回に続く)

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)