「太陽から降り注ぐ紫外線は細胞の遺伝子を傷つけ、皮膚がんを引き起こす」と聞いて、なるべく日光を避けることを心がけてきた人は多いはず。確かに日光浴には皮膚がんのリスクがあるものの、総合的に見るとメリットがデメリットを上回り寿命が延びる可能性があることが、複数の研究により明らかになってきました。

Let it shine: the unexpected benefits of sun exposure on skin | The sun | The Guardian

https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2023/oct/01/let-it-shine-the-unexpected-benefits-of-sun-exposure-on-skin

太陽光の危険性が知られるようになったのは、1920年代後半にジョージ・フィンドレイというイギリスの研究者が行った実験がきっかけです。紫外線を定期的に照射したマウスを観察したこの実験により、マウスの皮膚に腫瘍が発生し、日光が皮膚がんのリスク上昇に関係するかもしれないということが判明しました。そして、その後に行われた多くの研究により、紫外線が皮膚細胞のDNA変異を誘発し、やがて皮膚がんへと発展するというメカニズムが解明されていきました。



このような有害な影響があるにもかかわらず、日光をたくさん浴びる人は寿命が長いという研究結果が報告されています。スウェーデン・カロリンスカ大学病院クリンテック産婦人科のペレ・リンドクヴィスト氏らは2014年に、「約3万人の女性の健康を20年にわたって調査した結果、運動や収入などの要因を考慮しても、太陽の下で過ごす時間が長い女性は太陽光を浴びないようにした女性より平均して1〜2年長生きすることがわかった」と発表しました。

日光をよく浴びた女性の寿命が長くなったのは、心血管疾患、2型糖尿病、自己免疫疾患、慢性肺疾患など、がんとは無関係な疾患にかかるリスクが低いことに起因しているとみられています。

特に白人を対象としたイギリスの研究でも、同様の結果が出ています。2023年7月に公開された研究で、エディンバラ大学のリチャード・ウェラー氏らは、UKバイオバンクに登録されている白人が祖先の参加者37万6729人の健康状態を平均13年間追跡したデータを分析しました。

分析の結果、日光浴を積極的にした人は日光浴を避けた人に比べて、何らかの原因で死亡する確率は14%、心血管疾患で死亡する確率は19%低かったことが判明しており、その結果積極的に日光浴をした人の生存期間は平均約50日間長くなりました。また、イギリスの中でも南部に住む人の生存期間は300km北に住んでいる人より約16日間長生きなこと、つまり日照時間が長い地域の人ほど寿命が長いこともわかりました。

ウェラー氏は、「たった50日間と思うかもしれませんが、人口レベルで考えるとこの差は非常に大きなものとなります。基本的に、あらゆる交絡因子、つまり日光以外の全ての要因を補正すると、日光を浴びれば浴びるほど人は長生きしていたのです」と話しました。



この研究では、積極的に日光浴をする人は、皮膚がんを含むがんの死亡リスクも14%低いことも示されています。これは、太陽光に皮膚がんリスクがあるという事実に反するように思える結果ですが、ウェラー氏は「ほくろのがんであるメラノーマと診断された人では、ビタミンDの測定値が高い人ほど予後がいいことがわかっています」と指摘しました。

ビタミンDは、日光に含まれている紫外線B(UV-B)が皮膚組織にある7-デヒドロコレステロールに反応することで合成されます。こうして体内で作られたビタミンDは、骨や筋肉の健康に欠かせないカルシウムとリンのバランスを調整するために使われるほか、免疫細胞が有害なバクテリアを撃退したり、傷の修復を促進させたりするのにも利用されます。また、ビタミンDの受容体は心臓や脳などにも存在しているため、心血管疾患、感染症、がんなどもビタミンDの欠乏と関係しているのではないかとの見方が広まっています。

ビタミンD不足が問題なら、なにも皮膚がんのリスクを負ってまで日光浴をしなくてもいいようにも思えます。しかし、オーストラリアのテレソン・キッズ研究所で紫外線と免疫系の関係について研究しているプルー・ハート氏によると、ビタミンDサプリメントの効果を調べた大規模研究の結果はバラバラで、お互いに矛盾していることも多いとのこと。そのため、研究者の中には「何か間違った観点からビタミンDを見ているのではないか」と疑問を呈する人もいるそうです。



また、日光が人体にもたらす影響はビタミンDだけにとどまらない可能性もあります。そもそも、過度の日焼けが皮膚がんのリスクを高めるのは、紫外線がDNAを損傷させるのに加えて、損傷した細胞を発見してがんになる前に破壊する役目を持つ免疫細胞の活動が弱まるからです。

免疫まで弱くなるというと悪いことずくめのように思えますが、免疫システムが働きすぎると正常な細胞や体組織まで攻撃してしまう自己免疫疾患のリスクが高まるため、「過剰な免疫反応を調節する」という点で、免疫力の低下はメリットとしての側面を持っています。

一例として、免疫系が誤って脳や神経を攻撃することで起きる多発性硬化症(MS)の研究では、日光を浴びる時間の長さと発症リスクの低さの間に関連性があることが報告されました。10人に1人が自己免疫疾患にかかる可能性があるという研究結果も報告されており、自己免疫疾患はがんと並ぶ現代人の健康問題となりつつあります。

こうした知見を元に、ハート氏は初期のMS患者にUV-Bを浴びてもらい、症状の進行を食い止めたり遅らせたりする研究を行っています。20人が参加した予備的な研究では、光線療法を受けた初期のMS患者10人のうち7人が症状を呈したのに対し、治療を受けなかったグループでは10人全員が発症したとの結果が出ました。その後の分析では、光線療法を受けた人は血液中の免疫細胞の構成、特に抗体を産生するB細胞に大きな違いがあることもわかりました。

このほか、前述のエディンバラ大学のウェラー氏は以前、人間の皮膚に血管拡張作用を持つ一酸化窒素が大量に貯蔵されており、紫外線A(UV-A)が照射されると活性化されて、一時的ながら血圧が低下したことを実験で確かめています。また、男性がUV-Bを浴びると、皮膚のDNAの損傷がトリガーとなってグレリンというホルモンの分泌が促されるという研究結果もあります。グレリンは食欲を調整するホルモンですが、炎症や血圧の上昇を抑制する効果もあるので、日光浴が心血管疾患リスクを軽減するのはこれが理由ではないかと指摘されています。



このように、太陽の光を浴びることの有益な側面を示す証拠が増えるにつれて、安全に日光浴をするための公衆衛生ガイドラインの見直しを求める声が高まるようになりました。

紫外線の影響は個人の体質や地域によって異なるため、最適な日光浴の時間帯や長さを一律に決めるのは困難ですが、「健康維持に必要な日光の量は日焼けを起こす量よりずっと少ない」という点は、多くの専門家の意見が一致するところです。つまり、日焼けをするほど太陽光を浴びなくても、日光浴のメリットは得られるということです。

また、アウトドア時の日焼け防止を啓発している慈善団体・メラノーマ基金のミシェル・ベイカーCEOによると、日焼け止めを使ってもビタミンD不足にはならないとのこと。なぜなら、どれほど日焼け止めを使っても紫外線の一部は肌に届くからです。

イギリス皮膚科医協会のワラヤット・フセイン氏は、「過度の日焼けは皮膚がんのリスクを高めるため、避けることを推奨しています。年がら年中太陽から逃げる必要はありませんが、日の光を浴びるときはいくつかのステップを踏むことで身を守れます。それは、『日焼け止めを使うこと』『衣服で肌を保護すること』『「紫外線指数の高い時間帯は日陰で過ごすこと』です」と話しました。