首相官邸に入る岸田文雄首相(写真:時事)

岸田文雄政権は4日、発足2年を迎えた。これに先立ち岸田首相はインタビューなどで、過去2年間の政権運営を「数十年に一度あるかないかと言われるような出来事に正面から向き合い、決断し、実行することを続けてきた」と振り返り、「(今後も)変化を力にして、『明日は必ず今日より良くなる日本』を作るために、努力を続けていく」と強調した。

さらに、当面の政権運営については「一意専心、課題処理に専念する」とし、注目の解散・総選挙については「今は全く考えていない」と繰り返した。

政府はすでに次期臨時国会の10月20日召集を決め、与野党は同日の岸田首相の所信表明演説とそれを受けての23日から3日間の各党代表質問の日程を固めている。併せて、会期は12月中旬までの50日間前後となる見通しだ。

これにより、一時取りざたされた冒頭解散の可能性は消え、解散断行は岸田首相が確約した経済回復などのための2023年度補正予算の成立以降となるのがほぼ確実。さらに、政府・自民党は補正提出時期を「11月下旬」と見込んでおり、成立は11月末か12月初旬となる段取りだ。

そうなれば、12月中旬に東京で開催されるASEAN特別首脳会議や、その前に始まる来年度予算編成や税制改正の作業などの政治日程も考慮すると、「年内の解散・総選挙断行の日程的余裕がない」(自民幹部)ことになる。

このため、政府与党幹部の間では「岸田首相は年内解散だけでなく、通常国会冒頭や来年度予算成立後の解散も見送り、会期末解散による7月総選挙を視野に政局運営を進める考えではないか」(自民長老)との観測が広がる。

補正成立後の解散は「考えていない」

岸田首相は3日、2年間の政権運営について官邸で記者団に対し「これからも聞く力を大事にしていきたい。あわせて決断し、実行するバランスに気を付けながら国民の皆さんの理解を得られるように努力していく」と自ら先頭に立って内政・外交の課題への対応について、国民への説明に努める考えを強調した。

これに先立ち岸田首相は2日、読売新聞などの単独インタビューで、臨時国会での補正予算の会期内成立を目指す方針を明言。そのうえで、補正成立直後の衆院解散断行論についても、「大義だなんだと言われても、そういったことは考えていない。経済対策などの先送りできない課題に一意専心に取り組む。それに尽きる」と慎重姿勢を示した。

これに対し与党内では、「野党が補正予算案に強硬に反対すれば、予算成立後に年内解散をめぐって緊迫した展開となる」(閣僚経験者)との指摘がある。さらに、岸田首相が税収増の国民への還元策として「減税」を検討していることについては、森山裕総務会長が「税に関することは国民の審判を仰ぐ必要がある」と解散風を煽る発言をしている。

こうした状況も踏まえ、泉健太立憲民主党代表は2日、「(解散は)11月が線として最も太くなっているが、解散を出したり、引っ込めたりする首相なので何があるかわからない」と述べ、年内解散への警戒心を露わにした。

早期解散を煽る森山氏、疑問視する麻生氏

そこで、政治日程などから今後の政局展開を予測すると、岸田首相の解散断行には高いハードルが並ぶ。まず、臨時国会序盤の国会審議では、野党側が9月の内閣改造で初入閣した11人の閣僚を追及することが確実。昨秋の臨時国会と同様に、新任閣僚の政治と金のスキャンダル発覚や失言などが相次げば、「解散どころではなくなる」(自民長老)のは当然だ。

さらに、10月22日投開票の衆参2つの補欠選挙も、「その後の年末政局を占うカギ」(同)となる。参院徳島・高知選挙区は5日、衆院長崎4区は10日の告示となるが、現状では「与野党がっぷり四つでどちらに転ぶかわからない」(選挙アナリスト)との見方が多い。このため、「自民が2つとも圧勝なら解散論に弾みがつくが、両補選で苦戦するか、一つでも落とす事態となれば、一気に政権批判が強まる」(閣僚経験者)との声が広がる。

そうした中、年内解散を求めたようにみえる森山氏の発言についても、永田町関係者の間ではさまざまな見方が交錯する。

そもそも、森山氏は選挙対策委員長だった前通常国会の終盤にも「野党が内閣不信任案を出せば解散の大義になる」などと発言、首相もこれに呼応する姿勢をみせたことで解散風が吹き荒れた経緯がある。このため、今回の森山発言についても政界では「岸田首相と呼吸を合わせての解散煽り発言」(自民幹部)と受け取る向きも少なくない。

一方で、岸田首相の後見役を自認する麻生太郎副総裁は、地方講演で「岸田首相が選挙をするという話は少なくともこの半年間、聞いたことがない。政権は安定しており、政治に対する信頼が揺らいでいると思ったこともない」と早期解散を疑問視してみせた。

これに絡めて与党内では「『早期解散派』と『解散阻止派』の駆け引き」(自民幹部)との指摘もある。岸田派幹部は「解散論が出れば出るほど岸田首相の主導権が強まる」と胸を張る。ただ、国民からみれば、解散権をもてあそんでいるようにもみえるだけに、野党からは「解散をもてあそぶのはいいかげんにしてほしい」(小池晃・共産党書記局長)との批判も相次ぐ。

そもそも、「過去1年間にたびたび吹き荒れた解散風の発生源はいずれも岸田首相サイドだった」(安倍派幹部)との見方もある。「それにより岸田首相の主導権維持戦略が成功してきた」(岸田派幹部)のも事実だ。

「通常国会会期末解散」で自民250超なら無投票再選?

そこで政界関係者が懸命に探るのが「岸田首相の本音」だ。岸田政権にとって「解散する場合の脅威」となるのは日本維新の会の存在だ。今春の統一地方選で大躍進した維新は、「次期衆院選で野党第1党となり、近い将来の自公政権打倒を目指す」(幹部)と公言している。

ただ、中央・地方の所属議員に「政治と金」「パワハラ・セクハラ」などの不祥事が相次ぎ、ここにきて各種世論調査での維新の政党支持率は下落が目立つ。しかも、維新が主導してきた2025年4月からの大阪・関西万博の順調な開催が危ぶまれており、開催1年前の来年4月には万博の延期論も出かねない状況だ。

そうした中、維新の馬場伸幸代表は7月には「立憲民主党は日本には必要ない政党。野党第1党になって、立憲を消滅させる」と言い放ち、衆院各小選挙区で立憲民主と対峙するべく、候補者擁立を進めている。ただ、「野党同士が戦えば、漁夫の利を得るのは自民」(選挙アナリスト)とみられているだけに、「維新の自滅を待つ岸田首相が解散を遅らせるのは当たり前」(自民長老)ともいえる。

臨時国会召集を前に、ほとんどの衆院議員は選挙区での活動に腐心している。この状況について自民選対幹部は「与野党衆院議員がこのまま選挙活動を続ければ、来春には『もう資金がない』との悲鳴が噴き出す」と予測。だからこそ、岸田首相の本音が「次期通常国会での会期末解散・7月総選挙」と読む自民党幹部は「自民が250議席を超えれば9月の総裁選で岸田首相は無投票再選となる」と解説する。

ただ、「今後の内外情勢は極めて流動的で、すべてが岸田首相の思惑通りに進む保証はまったくない」(自民長老)のが実態。このため、岸田首相側近も「これまで岸田首相は、自らの“強運”を信じて政局を動かしてきたが、これからは宰相としての資質・見識が厳しく問われる」との不安を隠さない。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)