42歳まで交際経験ゼロだった男性。彼が結婚したお相手と結婚生活とは?(イラスト:堀江篤史)

<私(夫)は結婚までの人生で一度も女性との交際経験がありません。婚活を何年もしていましたが誰とも交際できませんでした。(ダイエットをしてから)結婚相談所で婚活して妻と出会い、3カ月半後に入籍しました。自分たちのことが誰かの参考になる、または面白いと思ってもらえれば幸いです>

東海地方に住んでいる会社員の佐伯亮介さん(仮名、44歳)から本連載の出演申し込みフォームを通じてこんな趣旨のメッセージが入った。モテなかった過去への哀愁と、努力して2年前に幸せを得た喜びがない交ぜになっている内容に魅力を感じ、インタビュー取材協力を依頼。名古屋駅前の居酒屋で会ってもらうことにした。

亮介さんはスポーツ選手のようながっちりした体格で人懐っこい笑みを常に浮かべている。同行してくれた妻の麻里さん(仮名、45歳)はスレンダーな美人で大きなリボンのついたワンピースが良く似合っている。ガーリーファッションが好みな亮介さんが選んで麻里さんに着てもらっているらしい。

挨拶を交わすと、亮介さんはテレビ番組『新婚さんいらっしゃい!』に出演したかったけれど事前打ち合わせで下ネタを連発して落選したという謎の自己紹介を始めた。やや暴走気味なおしゃべり好きのようだ。無難に、まずは「レディファーストで」と麻里さんの話から聞くことにした。

条件を言ってばかりで相手をちゃんと見ていなかった

「私ですか? 27歳までには結婚するだろうと思っていましたが、同じような気持ちで32歳、35歳、37歳、42歳の節目を次々と通り過ぎてしまいました。結婚相談所を通してお付き合いした人はいますが、一生を一緒に過ごす相手を決めるのが怖かったのかもしれません。決心がついていなかったんです」

不思議な刻みの「節目」を明かしてくれる麻里さん。高校を卒業してから、接客業を中心に様々な仕事を経験。やりたいことが多すぎて人生が定まりにくかったようだ。自由気ままな暮らしの精神的な支えになっていた母親が心臓に病を患って手術を受けることになったのは麻里さんが42歳のときだった。「このまま母を背負って一人で生きていけるのか」と危機感が募った。

それまでは婚活の本気度が低かった麻里さん。特に根拠なく「年収500万円以上」という条件を設けていたため、出会える男性の幅が狭まっていたと振り返る。ちなみに、マッサージの仕事をしていたという当時の麻里さん自身の年収は約300万円である。

結婚相談所のカウンセラーさんから『あなたは条件を言ってばかりで相手をちゃんと見ていない』と叱られました。それで、年収条件を400万円以上に下げてみたら、夫を見つけることができたんです」

年収条件は緩くした麻里さんだが、もっと譲れない点があることに気づいた。自分は性格的に変わっている男性しか好きになれないことだ。

「思い返してみると、友だちからも『そんな男の人を選ぶんだ……』と言われることばかりでした(笑)。夫のプロフィール写真を見たときの第一印象は『顔がエロい!』です。会ったときも私の体全体を見るいやらしい目線を感じたので、『ちょっと言っていい? あんた、スケベやろ』と質問。夫からの答えは『まぎれもなくその通りや』でした」

楽しそうに話す麻里さん自身もかなり変わった人だと筆者は思うが、麻里さんは誰に対してもそんな赤裸々な発言をするわけではない。初対面からしゃべりまくる亮介さんに親近感を覚えて、「この人ならばざっくばらんに好きなことを口走っても問題ない」と判断したのだ。

あきらめるのではなく、「変わらなきゃ」

さきほどから発言したいあまり体を揺らしている亮介さんの話も聞こう。高校卒業後は製造業の現場で長く働いているが、プライベートでは「漫画とアニメとゲームばかりのオタク」で体重は100キロを超えていたと明かす。

「女性とは縁がなく、自分と似たような男友だちとばかりつるんでいました。婚活を始めたのは38歳の頃です。でも、全く結果が出ませんでした。高卒で、実家暮らしで、太っていて、年収も高くないのだから当たり前ですけど」

お見合いすらできないことにショックを受け、あきらめるのではなく、「変わらなきゃ」と決意した亮介さん。現在に至るまで週2回のスポーツジム通いと毎朝1時間の勉強は欠かしていない。

「勉強内容はいろいろですが、将来に役立ちそうな資格試験を受けたり、読書をしたりしています。アニメやゲームを楽しむ時間はほとんどなくなりました。体重は20キロ以上減りましたが、婚活は相変わらずの低調。お見合いを少しはできるようになった程度です。でも、このまま独身だったとしても運動と勉強の習慣は継続しようと思っていました」

亮介さんは根っからのオタクなのではなくて集中力がある人なのだろう。ハマる対象をアニメから自己改革に移すことで、他者からも快く受け入れてもらいやすい外見に変わることができた。ただし、性格まで変わることはなかった。

「お見合いができても仮交際に進むことは断られてばかりでした。結婚相談所に登録しているのは真面目で静かな雰囲気の人が多いので、初対面でこんなにペラペラしゃべる自分はペースや感覚が合わないと思われたみたいです」

亮介さんは確かにおしゃべりだけど、聞く耳も持っているのは筆者にもわかる。何かを一方的に言いたいのではなく、会話を求めているのだ。しかも、いきなり腹を割った話をしたがる。相手によってはギョッとしてしまうだろう。それが「変わった人好き」な麻里さんには居心地よく感じられた。蓼食う虫も好き好き、である。

結婚してからは衝突することも少なくなかった。亮介さんによれば、麻里さんはこだわりが強い直感型。何事も自分が納得しない限り動こうとしない。

「白い食べ物は体に悪いから、とご飯は常に玄米です。肉じゃがも牛肉は高いし消化に悪いからと豚肉ばかり。僕が『たまには白米や牛肉も食べたい』と言っても、まったく聞き入れてくれません。ならば自分の分は自分で作ろうとしたら、せっかく一緒に暮らしているのに別々の料理を食べるなんておかしい、と。ついに、感情が爆発してしまいました」

麻里さんのほうはびっくりした。亮介さんがそこまで不満を募らせているとは知らずにいたら、急に怒られたからだ。長く実家暮らしだった亮介さんの主張方法もわかりにくかったのだろう。子どもの頃から亮介さんの世話をしている母親のように察することなどできない。そんなに白米や牛肉を食べたいのならば考慮するので、声を荒らげるのはやめてほしいと亮介さんに伝えた。

自称変わり者同士なのでぶつかることもあるが、基本的にスキンシップを中心とする愉快な晩婚生活を送っている。性欲の解消というよりも、おバカなコミュニケーションを受け入れてもらえるのが楽しいようだ。

「生地が薄いワイドパンツを履いていたりすると、夫が下から頭を突っ込んで下着を見たがるんです。別に嫌ではありません。勝手に見てー、という感じですね」

やりたいことが多すぎる妻、背中を押し続ける夫

筆者としても勝手にしてくれと言いたくなる夫婦である。相性がいいのはおバカなコミュニケーションだけではない。将来的には自分の店舗を持ちたいという麻里さんを亮介さんは応援している。今は体調が整っていないので妊活もできないという麻里さんは「女性の力になりたい」という思いを持ち続けているのだ。

「アクセサリーと栄養とリラクゼーションと占いを組み合わせたようなお店を作れたらいいな、と思っています」


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ややとっちらかっている麻里さん。やりたいことが多すぎるし考えすぎるので具体的な行動にはなかなか移せていない。亮介さんは「やればいいじゃないか」と本気で背中を押し続けている。

「私は目標がある人が好きなんです」

かつて「自分を変えたい」という目標を掲げ、5年もかけて改善し、麻里さんという面白い女性との結婚にたどり着いた亮介さん。今度は麻里さんの夢が実現することを心から応援している。向き合って見つめ合うのが恋愛ならば、一緒に同じ方向を見ることが結婚なのかもしれない。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております(ご結婚5年目ぐらいまで)。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。

(大宮 冬洋 : ライター)