現在の「中央アジア」の範囲と、主要産業を紹介します(写真:machico/PIXTA)

「『地理』を知れば、国や地域の自然・環境だけではなく、歴史・民族・文化・経済・政治までを理解できます。地理を知るだけで、世界は一気に面白くなります」──そう語るのは、筑波大学教授で地理教育を専門とする井田仁康氏。

本稿は、そんな井田氏が編著者として上梓した『世界の今がわかる「地理」の本』より、本文を一部引用・再編集してご紹介します。

旧ソ連5カ国「中央アジア」

ユネスコは「中央アジア」の範囲を、ユーラシア大陸の中央部に広がる地域として広く捉え、世界で最も標高が高い山脈や高原などが広がるとしている。

実際、世界最高峰のエヴェレスト山をはじめ8000メートル級の山々が連なるヒマラヤ山脈は、カラコルム山脈を経て平均高度約4000メートルのパミール高原へつながる。このパミール高原にはテンシャン山脈・クンルン山脈・ヒンドゥークシ山脈も東西から集まり、すべてが標高7000メートルを超える山脈で氷河も存在する。


(出所:『世界の今がわかる「地理」の本:紛争、経済、資源、環境、政治、歴史…“世界の重要問題”は「地理」で説明できる!』)

このように東西方向に連なる大山脈は、南から動いてきた地殻のインドプレートがユーラシアプレートに衝突したことに由来し、高い山脈・高原だけではなく、低い盆地もつくりだした。

たとえば、テンシャン山脈とクンルン山脈の間にあるタリム盆地周辺には海面下になるマイナス130メートルの凹地がある。北西部にあるカスピ海の水面標高も海面下のマイナス28メートルで、周辺のカスピ海沿岸低地も海面下である。

東西に連なる大山脈は、南のインド洋から運ばれるはずの水蒸気を遮る。中央アジアはユーラシア大陸の中央部で、海から離れた場所であるため、雨が少なく気温の差が大きい内陸性気候であるが、山脈の影響が重なり、さらに乾燥することになる。

標高が高い山脈では、気温が低いために雪が降り氷河も存在するが、標高が下がると気温が上がり雨もほとんど降らないため乾燥し、樹木が生えない草原(ステップ)、さらには砂漠が広がる。

水が得られるのは、まずは山脈の山麓であるため、多くの都市も標高の高い地点に存在する。農耕も、山麓あるいは山脈から流れ出す大河川の周辺や地下水が湧き出すオアシスに限られる。

ユネスコによる中央アジアの範囲は自然環境を指標としているためこのように広いが、一方、国家を単位に中央アジアの範囲を設定することが便利な場合も多く、本記事もその立場をとっている。この場合には、パミール高原と周辺の山々以西が中央アジアとなる。

国家を単位とした場合、カザフスタン共和国、ウズベキスタン共和国、トルクメニスタン、キルギス共和国、タジキスタン共和国の5カ国を指すことが一般的である。これら5カ国は、1991年に崩壊したソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)を構成した共和国である。

ソ連時代には、ロシア語が事実上の公用語として使用され、ロシア人が大量に移動してきた。そこで現在でも、中央アジア各国では各民族語に加えロシア語が広く話されるとともに、ロシア人の構成比も高い。

1991年にロシアを中心に結成されたCIS(独立国家共同体)にも参加しており、ロシアとの関係は続いているが、結束は強くはない。

カザフスタン共和国はどんな国か

カザフスタンは、東西約3000キロメートル、南北約1500キロメートルで、その面積は日本の7倍以上、世界9位である。東は中国に接し、テンシャン山脈から続く山岳地帯やカザフ高原が南東部にある。

地形は、北西に向かって低下し、北西端にある世界最大の湖カスピ海沿岸低地は海面下である。海に面していないこの国の多くの川は、カスピ海など低い窪地に流れ込み、海に注ぐことのない内陸河川である。


(出所:『世界の今がわかる「地理」の本:紛争、経済、資源、環境、政治、歴史…“世界の重要問題”は「地理」で説明できる!』)

一方、気候は山岳地帯周辺を除けば樹木が育たない乾燥気候で、草原や砂漠が国土のほとんどを占める。そこで、カスピ海などの湖の水の蒸発は激しく、結果的に塩分濃度の高い湖である塩湖になる。湖なのに「海」が付される理由はここにある。

南部の山岳地帯の豊かな雪解け水はシルダリア川となり、隣国ウズベキスタンとの国境にあるアラル海へ下る。このアラル海は、1960年頃まで世界4位の大きな湖(6.4万平方キロメートル)だった。

しかし、ソ連の政策で、シルダリア川の水を農業用水として乾燥地へ流し込み、綿花・米を大規模に栽培したため、アラル海に流入する水量は激減し、湖が縮小し、現在は大部分が干上がった。

その結果、漁業・海運業などができなくなっただけでなく、気候変化や農地の塩類化も引き起こし、健康や農業へも負の影響を与えている。

◎ロシア人も多く住む「中央アジア最大の国」

面積は日本の7倍あるが、人口は7分の1以下と少ない。

カザフ人は、トルコ系遊牧民であるが、この地域が1860年代にロシア帝国の支配下となると、小麦栽培が可能な北部のカザフステップ地域にロシアの農民が大量に入植した。1930年代にソ連の構成国となると、ロシア人に加えてソ連を構成する各地からさまざまな民族が移動し、なかには強制移住させられたドイツ人や朝鮮人もいた。

このような経緯から、総人口に占めるカザフ人は約6割で、2割のロシア人を始め、他の民族も多い。そこで国語はカザフ語であるが、公用語はカザフ語とロシア語の2つとされている。宗教ではイスラムのスンナ派が約7割を占めているが、キリスト教(正教会)も2割以上である。

1991年のソ連解体により、同年に独立してカザフスタン共和国となった。

首都はアスタナ、人口約97万人

首都は当初、南東端に位置するアルマティ(カザフ語で「リンゴのある地区」の意、標高約800メートル、人口約175万人)におかれた。山岳地帯から雪解け水が得られるので、国内では比較的湿潤温暖で古くから栄えていたからである。しかし、国土開発を進める目的を背景に、1997年に国土の中央に近い乾燥地域の現首都アスタナ(標高約350メートル、人口約97万人)に移された。

独立後は、ロシアとの関係を維持しながら、中国・アメリカ・日本などとも良好な関係を築いてきた。

◎農業大国、エネルギー資源大国

乾燥気候が広がるが、草原を活用した馬、羊、ラクダ、牛を飼育する牧畜は古くから盛んで、馬の飼育頭数は世界6位(2019年)、1人当たりの肉消費量は世界1位ともいわれる。農業用水が得られる場所では、小麦、綿花、テンサイ、タバコなどがソ連時代から栽培され、穀倉地帯をもつ国でもあった。

現在は、地下資源開発・輸出が農業をしのぐ主要産業になっている。世界に占める埋蔵量・生産量は、石炭と原油のそれぞれで世界の約2%を占め、順位は10位前後であり、石油はロシア・欧州・中国などへパイプラインで輸出されている。近年は、カスピ海周辺での石油・ガス田開発を日本を含めた外国資本が積極的に行っている。

このようなエネルギー資源大国を象徴するのが、ウラン鉱の産出世界一である。原子力発電の燃料となるウラン鉱の世界産出の45%はカザフスタンで、2位のナミビア(11.9%)を大きく引き離している(2021年)。

原子力発電を行う国々にとっては、カザフスタンのウラン鉱を安定輸入することは極めて重要で、日本はじめ各国はウラン鉱山開発と輸入を組み合わせた開発輸入を進めている。

一方、ソ連時代に、セメイ(旧名セミパラティンスク)に置かれた核実験場の核汚染問題、バイコヌールに置かれた宇宙船発射基地の汚染水問題に加え、近年はウラン鉱開発による地下水汚染・健康被害が問題になっている。

ウズベキスタン共和国はどんな国か

ウズベキスタンは、北をカザフスタン、東をキルギスとタジキスタン、南をアフガニスタン、西をトルクメニスタンに接する。

多くの国名に「スタン」がつくが、かつてこれら地域に影響力をもったペルシアの言葉で「土地」を意味している。面積は45万キロ平方メートルと隣国カザフスタンの6分の1であるが、人口は約3400万人と中央アジアで最も多い。旧ソ連を構成した国でも、ロシア、ウクライナに次ぐ3位である。

トルコ系のウズベク人が約8割で、それにタジク人、カザフ人、ロシア人などが加わる。公用語はウズベク語で、宗教ではスンナ派を主とするイスラムが約8割である。

国土は東西に細長く、1000キロメートル以上に広がる。東部はテンシャン山脈につながる山岳地帯で、西に向かって高度が急激に下がり、最後は標高0メートルに近いトゥラン低地となる。

山岳地帯からは、雪解け水を湛えたシルダリア川・アムダリア川(ダリアはトルコ語で「川」の意味)が流れ出し、トゥラン低地のアラル海へ最後は注いできた。しかし、大陸の内陸で降水量が少ないため、国土の大半が乾燥地で、川沿い以外の中央部から西部には砂漠が広がっている。

そこで、交易路沿いのオアシスを除けば、気温が低く水が入手しやすい東部の山岳・高原地域に古くから多くの人々が住んできた。首都のタシケントは、国の東端に位置し、標高488メートル、年降水量455ミリと湿潤で緑におおわれている。


◎石油、天然ガス、ウラン……地下資源大国

湿潤な温帯気候である東部の山岳・高原地帯では、さまざまな野菜やブドウをはじめとした果樹の栽培が古くから盛んである。また、水が得られるシルダリア川・アムダリア川沿いの限られた場所でも、晴天が多い乾燥気候を活かした綿花栽培などが行われ、その他の乾燥地域では羊などの牧畜業が行われてきた。

カザフスタン同様、19世紀のロシア帝国支配、1930年代のソ連の構成国を経て、1991年にウズベキスタン共和国として独立した。

ソ連時代には、川の水を乾燥地域に流し込む農業開発が大規模に行われ、ウズベキスタンは世界有数の綿花生産国になっている(2019年で世界7位)。一方、ウラン鉱の産出が世界5位(2021年)をはじめ、原油・天然ガスの埋蔵量も多い地下資源大国でもある。

(井田 仁康 : 筑波大学人間系長、教授/博士(理学))