生成AIが作る成果物は著作権を侵害しているのでしょうか(写真:kai / PIXTA)

生成AIのビジネス利用で気になるのが、著作権侵害、秘密情報漏えい等のリスクです。生成AIは、どのようなプロンプト(指示文)を作成するか、すなわち何を入力するかによって、簡単にトラブルを引き起こす可能性があります。知らないうちに他者の権利を侵害してしまう、個人情報を流出させてしまうといったトラブルをどう防げばよいのでしょうか。『企業実務8月号』の記事を再構成し、生成AIに関する著作権問題と個人情報保護にくわしい弁護士の鈴木景さんが、生成AIによる成果物の法的リスクと利用時の留意点を解説します。

生成AIの成果物に著作権は発生するか?

生成AIの成果物には著作権が発生するのでしょうか?

著作権が発生する「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされています(著作権法2条1項1号)。

AIには思想や感情がありませんので、AIによる成果物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当せず、「著作物」には該当しないのではないかと考えられます。

しかし他方で、生成AIを利用するなかで、自分が意図する成果物を生成するため、何度も試行錯誤してプロンプトを考える場合もあります。

この場合、利用者は生成AIを絵筆や絵具といった道具と同じように、自分の思想や感情を表現するために利用しているともいえるでしょう。生成AIによる成果物であっても、当該利用者の「思想又は感情を創作的に表現したもの」として、「著作物」であると考えるべき場合もあります。

以上により、生成AIの成果物に関する著作権については、AIにより成果物が生成される過程で、利用者に創作的意図があり、かつ、利用者に成果物を得るための「創作的な寄与」があれば、著作権の対象たる「著作物」となると考えられます(この場合の著作権者は利用者です)。

他方、生成AIの利用者の寄与が簡単な指示にとどまる場合には、著作権の対象とはならないと考えられます。

ここまでの整理の下、仮に成果物に著作権が発生する場合、その成果物を権利者の許諾なく複製したり、翻案したり、公衆送信したりすると、原則として著作権侵害に該当することとなります。

著作物性が認められるための要件である「創作的な寄与」が、どのような場合に認められるかは今後の検討課題ですが、生成AIを業務で利用しようとする場合には、「生成AIによる成果物に著作権が発生するかもしれない」ということは覚えておきましょう。

既存の著作物に類似していた場合

生成AIによる成果物が既存の著作物に類似していた場合、その成果物は、既存の著作物に対する著作権を侵害していることになるのでしょうか?

具体的には、著作権のうちの「複製権」や「翻案権」を侵害しているかどうかが問題となります(図表1)。複製権・翻案権の侵害が成立するためには「依拠性」、すなわち既存の著作物を元に作成された事実が必要になります。

(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


生成AIは膨大な数の素材・データを学習しているため、そのなかに含まれていた素材の1つとAIによる成果物が類似していたとしても、それだけで直ちに依拠性が認められるものではないと考えられます。

しかし、特定の著作物を示して、それと類似する成果物の作成を生成AIに指示すれば、それによって出力された成果物について、特定の著作物への依拠性が認められる可能性が高まります。

特定の著作物への依拠性と類似性が認められる場合、その成果物は、既存の著作物に発生している複製権や翻案権、著作者人格権の1つである同一性保持権などを侵害する可能性がありますので、注意が必要です。

依拠性がどのような場合に認められるかも今後の検討課題ですが、依拠性が認められることを避けるためにも、生成AIのプロンプトには特定の作品名を入れない、特定の作品の一部または全部を入力しない、といったルールの下、生成AIを利用する必要があります。

生成AIに個人情報を入力した場合の扱い

生成AIの利用にあたり、第三者から取得した個人情報を入力する場合、
→それが個人情報の利用目的の範囲内であるのか
→それが個人情報の第三者提供にあたらないか

という2つの点を検討する必要があります。

(1)個人情報の利用目的

個人情報保護法上、取得した個人情報は、特定された利用目的の達成に必要な範囲に限り利用できます。そして、この利用目的は、あらかじめ公表している場合を除き、取得時に本人に通知しなければなりません。

多くの企業では、プライバシーポリシーなどにより、取得した個人情報の利用目的を事前に公表しており、第三者から取得した個人情報の利用は、その公表された利用目的に限られます。

そのため、生成AIに個人情報を入力することが、事前に公表された利用目的の範囲を超えている場合には、その個人情報を生成AIに入力することは個人情報保護法違反になりますので、注意が必要です。

(2)個人情報の第三者提供

個人情報を第三者に提供する場合には、原則として本人の同意が必要となります。

生成AIに個人情報を入力する場合、その個人情報は、生成AIを提供している事業者の手に渡ることとなりますので、この点で、個人情報の第三者提供に該当する可能性があります。

個人情報の第三者提供でも、利用目的の達成に必要な範囲内において個人情報の取り扱いを委託するために行われる場合には、例外的に本人の同意は不要と考えられています。

しかし、生成AIへの個人情報の入力が「個人情報の第三者提供」に該当するのか、「個人情報の取り扱いの委託」に該当するのかは、個別の事情によるところが大きく、その判断は容易ではありません。

(3)そもそも個人情報とは

さらに注意が必要なのは、ここでいう「個人情報」が、それ単体で個人を特定できる情報のみならず、他の情報と容易に照合して個人を特定できる情報を含む、ということです。

単体で個人を特定することができない情報であっても、それを入力することが個人情報の利用・個人情報の第三者提供に該当するかもしれない、という点についても注意しましょう。

取引先に関する情報を生成AIに入力する場合、その情報が秘密情報に該当してしまうと、秘密情報保持義務違反にあたる場合があります。その情報が生成AIのデータベースに学習用のデータとして組み込まれる可能性があるからです。

守秘義務契約で、取引先から提供された情報は幅広く秘密情報に該当する、とされている場合もあり、その場合は「マル秘」「Confidential」など秘密である旨の注記がされていなくても秘密情報として保護されることになります。

各生成AIの利用規約による、提供事業者の権利や利用者の義務の規定に留意してください。たとえばMidjourneyの利用規約によれば、無料のユーザーがMidjourneyを利用して作成した成果物は、ユーザーの資産とはならず、商用利用もできないこととされています。

業務で活用するにあたっては、各サービス提供事業者が準備する利用規約を確認し、生成AIによる成果物をどのように使えるのか、自分が入力した情報がどのように利用されるのかを、あらかじめ把握しておきましょう。

求められる企業の対応

(1)成果物の利用法

ここまで解説したように、生成AIによる成果物の権利関係は、いまだ法的な解釈や考え方が固まっていないため、予測がしづらい状況です。

著作権が発生するか否か、権利侵害にあたるか否かは、その成果物の出力の経緯や、成果物の生成に利用されたデータの内容によるところもあるため、権利関係の整理には慎重な考慮が必要です。仮に権利を侵害していなくても、その成果物を見て不快に思う人もいるかもしれません。

たとえば、AIで生成したとあるキャラクター「風」のデザインの成果物を商品化した場合、画風自体は著作権の対象とはならないため、法律上は問題がないともいえます。しかし、その元となるキャラクターの作者からすれば、自分が生み出したキャラクター「風」の画像が何らの苦労もなく生成され、しかも収益化されているとなれば、よい感情は抱かないでしょう。

また、写真風の画像生成AIを利用すると、意図にかかわらず実在の人物に似た成果物が生成される場合もあり、その内容次第で、これを公開することがその実在の人物の社会的評価を下げてしまう場合もあります。この場合も、たとえ名誉毀損にはあたらず、法に違反しなくても、本人が見たらよい感情は抱かないでしょう。

法律上は問題がなくとも、成果物の公表により負の影響が発生してしまう可能性があるため、AIによる成果物の公表の際は、その影響にも注意しましょう。

実例として、画像生成型AIによって生成された架空のグラビアアイドルの写真集が、発売後1週間程度で販売中止となりました。その判断の理由について、「生成AIを取り巻く論点・問題点の検討が十分ではなかった」と説明されています。

このように、生成AIによる成果物の商品化については、時期尚早と判断されるケースもあるようです。企業として生成AIによる成果物の商品化を検討する際は、権利処理に関するルールの制定状況や、時流などを見ながら判断していくことが必要でしょう。

(2)社内でのルール策定

企業が事業活動において生成AIの利用を許容する場合、これまで解説したさまざまな留意点について、社内ルールを策定する必要があります。

社内ルールについては、一般社団法人日本ディープラーニング協会が、生成AIの利用ガイドラインの雛形を公開しています(図表2)。この雛形を参考に、自社の実情に合った社内ルールを策定するとよいでしょう。


個人情報・秘密情報の入力は社内でも起こりやすい


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特に個人情報・秘密情報の入力は、社内でも比較的起こりやすい事項であると考えられるので、社内への啓発が重要だといえます。

今後、社会全体で生成AIに関するルールも整備されていくと思われます。

情勢を見ながら、何度にもわたって社内ルールを改定していくことになるでしょう。

加えて、社内ルールは実際に守ることが求められますので、モニタリング体制の整備も必要だと考えられます。

鈴木 景(すずき けい)
GVA法律事務所パートナー弁護士。2008年慶應義塾大学法学部卒業、同年最高裁判所司法研修所入所。2009年弁護士登録後、都内法律事務所・インハウスローヤーを経て、2017年GVA法律事務所参画。2020年同事務所パートナー弁護士に就任。対応領域は幅広く、スタートアップや上場企業の新規事業伴走を得意分野とする他、医療・美容に関する広告規制対応や、食品関連ビジネスにまで対応している。

(企業実務)