外観デザインの変更など、大規模マイナーチェンジを実施した「モデル3」は、クルマとしての仕様や性能に画期的な進化はない(写真は同社ウェブサイトより)

アメリカのEV(電気自動車)大手のテスラは9月1日、主力車種「モデル3」に大規模なマイナーチェンジを施し、中国市場向けの公式ウェブサイトで受注予約を開始した。納車開始は2023年10〜12月期を予定している。

モデル3のマイナーチェンジはかねて噂されていたが、クルマとしての仕様や性能に画期的な進化はなかった。そんななか中国の自動車業界や消費者を驚かせたのは、その価格設定だった。

新型のモデル3には、ベースグレードの後輪駆動版と上級グレードの「ロングレンジ」の2種類がある。このうちベースグレードの希望価格を、テスラは25万9900元(約523万円)からと発表、マイナーチェンジ前より2万8000元(約56万円)も値上げしたのだ。

自動運転システム「FSD」導入せず

なお、ロングレンジは新設グレードで、マイナーチェンジ前との比較はできない。その希望価格は29万5900元(約595万円)からとなっている。

モデル3のマイナーチェンジが実施される前、中国の自動車業界では「テスラは(マイナーチェンジを機に)価格を下げ、市場シェア拡大を狙うだろう」との見方が主流だった。ところが、この予想と正反対に、テスラは大幅な値上げに踏み切った。

それだけではない。今回のマイナーチェンジでは、テスラ自慢の自動運転システム「フルセルフドライビング(FSD)」が中国市場に導入されると噂されていた。だがフタを開けてみると、中国の関連法規との折り合いがつかず、FSDの導入は見送られた。

新型モデル3の外観は、2021年に大規模マイナーチェンジを実施した「モデルS」に近いデザインが採用された。キャビンには後席の搭乗者用の多機能ディスプレーを増設。防音ガラスや静音タイヤを採用して静寂性を高め、小幅ながら航続距離も延長された。

だが、テスラ車の外観とインテリアに共通するミニマリスト志向のデザインは、マイナーチェンジ後のモデル3でも一貫している。これは、(押し出しの強い見た目や豪華さを好む)中国の消費者の嗜好とは必ずしも合致しない。マイナーチェンジ前のモデル3のキャビンは、一部の消費者の間で「がらんどう」と呼ばれていたほどだ。


中国の競合メーカーと比較して、テスラは消費者の嗜好への対応が遅れていると指摘される。写真は同社の上海工場(テスラのウェブサイトより)

しかも、モデル3はアメリカで発売されてから6年余り、中国で現地生産が始まってから3年半余りの間、大がかりな変更が施されていなかった。それだけに、今回の大規模マイナーチェンジに対する中国の消費者の期待は大きかったが、肩透かしに終わった格好だ。

消費者のテスラ離れ招くリスクも

中国の自動車市場では、中国政府がEVの普及促進のために支給していた補助金を2022年末で打ち切ったのをきっかけに、メーカー間の価格競争が激化している。そんななか、テスラが新型モデル3の値上げに踏み切った意図について、多くの業界関係者が「市場シェアを維持できるのか」と首を傾げている。

自動車向けソフトウェアの開発を手がけるある中国企業の幹部は、財新記者の取材に対して次のように述べた。


本記事は「財新」の提供記事です

「都市部の交通渋滞が激しい中国では、ドライバーや同乗者がクルマの中で過ごす時間が長い。そのため多くの人々が、車内空間に自宅やオフィスと同じような快適さを求めている。中国の消費者はとりわけ(ハイテク技術満載の)スマート化されたキャビンを重視する傾向があるが、テスラはそこにあまり注力していないようだ」

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は9月2日

(財新 Biz&Tech)