センスタイムはAI技術を核にしたさまざまな事業を手がけてきた(写真は同社ウェブサイトより)

AI(人工知能)を用いた画像認識技術で、中国の草分け的存在として知られる商湯科技(センスタイム)。同社の事業が変調をきたし、大規模な人員カットに踏み切ったことがわかった。

センスタイムの現役社員と元社員が、財新記者の取材に対して人員カットの実態を証言した。彼らによれば、人減らしの動きは複数の事業部門にまたがり、削減幅も大きいという。

同社の組織は、スマートシティ・スマートビジネス事業群(SCG)、インテリジェント・オートモーティブ事業群(IAG)、エマージング・イノベーションズ事業群(EIG)など11の事業グループに分かれている。

プロダクトの新規開発を停止

SCGに所属する社員の1人は、事業グループの人員カット率は10〜15%に上ると証言した。また、別のSCGの社員によれば、(SCGが開発を担当する)一部のプロダクトは利益が出ているかいないかにかかわらず、既存バージョンのサポートだけを行い、新規開発を停止したという。

「このところの業績悪化とともに、新規採用の削減やチームの縮小などがすでに始まっていた。だが今回の人員カットは、それらとは規模の次元が異なるものだ」。すでに商湯科技を退社した元社員は、財新記者の取材にそう語った。

なお、財新記者の取材申し込みに対し、センスタイムの広報担当者は次のように回答した。

「わが社は市場環境の変化と自社の発展状況を踏まえて、事業戦略の相応の見直しを行った。組織と人材の構成を最適化することで、事業発展の基盤をよりよくしていく」

センスタイム、雲従科技集団(クラウドウォーク)、曠視科技(メグビー)、依図網絡科技(イートゥ)の4社は、中国のハイテク業界で「AI四小龍」と呼ばれ、AI技術の発展と中国社会への実装をリードしてきた。センスタイムは四小龍のなかで最も早くIPO(新規株式公開)に成功し、売り上げ規模も最も大きい。


センスタイムは中国のAI技術の発展をリードしてきたが、業績は創業から赤字が続く。写真は同社の上海オフィス(センスタイムのウェブサイトより)

だが、同社の経営は2014年の創業以来ずっと赤字が続いており、黒字化のメドは立っていない。2022年の決算報告書によれば、同年の売上高は38億900万元(約785億円)と前年比19%減少。純損益は60億9300万元(約1231億円)の赤字だった。

地方政府など顧客の予算執行に遅れ

見逃せないのは、同社の2022年の売り上げ構成に大きな変化が生じたことだ。同社の屋台骨であるスマートシティ・スマートビジネス事業の売り上げが急減し、経営に深刻な打撃をもたらした。

決算報告書によれば、2022年のスマートシティ事業の売上高は10億9600万元(約221億円)と前年比半減。スマートビジネス事業の売上高は14億6400万元(約296億円)と同25%も減少した。


本記事は「財新」の提供記事です

背景には、同年に中国国内で新型コロナウイルスが大流行し、ロックダウン(都市封鎖)などの厳しい防疫措置が長期間続いた影響がある。そのため(各地の地方政府など)主要顧客のAI関連予算の執行やプロジェクトの進捗が遅れ、センスタイムの業績を直撃した格好だ。

(財新記者:謝韞力、杜知航)
※原文の配信は8月28日

(財新 Biz&Tech)