基調講演を行うティム・クックCEO(筆者撮影)

アップルはアメリカ太平洋夏時間2023年9月12日午前10時(日本時間9月13日午前2時)から、カリフォルニア州クパティーノの本社「Apple Park」でスペシャルイベントを開催し、新型iPhoneとApple Watchを発売した。

イベントは事前収録のオンライン配信と、同じ内容をシアターで視聴するハイブリッドで行われ、現地では新製品のタッチアンドトライも行われた。

今回のイベントのポイントと、新製品の見どころについて、現地から速報でお伝えする。

チタンボディのiPhone 15 Pro Max

新型iPhoneでも注目は、カメラ機能を強化し、チタンボディを採用したiPhone 15 Proシリーズだ。これまでステンレススチールをフレームに採用してきたが、今回からチタンを採用し、高級感を高めながら堅牢な、長く美しく使うことができ価値が保たれるよう配慮した製品だ。


iPhone 15 Pro Max ナチュラルチタン。新しいチタン素材は高級感があり、小型化、軽量化でより手に馴染むスマートフォンとなった(筆者撮影)

特に、ナチュラルチタンは、落ち着いたチタングレーを生かした象徴的なカラーとなり、とても人気が出そうだ。また、ブラックやブルー、シルバーの質感も素晴らしく、触れていて楽しくなる感覚を覚えた。


iPhone 15 グリーン。これまで光沢あるツルツルのガラスだった背面は、サラサラとしたテクスチャに変更され、指紋がつきにくく、触り心地もいい。またエッジが丸められたので、握る際にもしなやかに手になじむ(筆者撮影)

iPhone 15 Pro・Maxともに、持ってわかるほど軽量化されており、6.1インチモデルは206gから187g、6.7インチモデルは240gから221gへと大幅な軽量化が進んだ。またエッジは丸みを帯び、ディスプレーの縁取りが薄くなったことで、より握りやすくなっている。


新たに6.7インチモデルで5倍ズームを搭載し、新しい撮影体験が楽しめる(筆者撮影)

iPhone 15 Pro Maxには、テトラプリズムを用いて端末内部で4回も光を反射させて実現した5倍ズーム(120mm/f2.8)レンズが新たに加わった。6.1インチのiPhone 15 Proは引き続き3倍ズームが採用されており、より望遠撮影を楽しみたい人は6.7インチのiPhone 15 Pro Maxを選択することになる。

またiPhone 15にも、昨年のProモデル同様、4800万画素のカメラを採用し、センサーの中央部分を用いることで実現する2倍ズームにも対応した。これによってスタンダードモデルでも、撮影の幅が大きく広がる進化を遂げている。

USB-Cにアクションボタン

予測されてきたとおり、iPhone 15とProモデルの充電ポートは、これまでの独自規格であるLightningから、より汎用的なUSB-Cに変更された。もともとはEUにおいて、2024年末までにUSB-Cポートの搭載が義務化されることがきっかけだった。

USB-Cの搭載によって、充電、データ転送に加えて、オーディオやビデオの出力にも対応し、例えばケーブル接続でロスレスオーディオをヘッドフォンで楽しんだり、パソコンと充電ケーブルを共有するといった活用ができるようになる。


USB-Cポートに切り替わり、Proモデルでは10Gbpsの通信に対応した(筆者撮影)

ただしポートは同じでも、転送速度は異なる。iPhone 15では引き続き480MbpsのUSB2.0のデータ転送スピードに限られ、10Gbpsの高速データ転送をサポートするのはProモデルのみだ。Proモデルに搭載されるチップ、A17 ProにUSB3コントローラーが搭載されるが、スタンダードモデル向けのA16 Bionicにはこれがないためとされる。

またiPhone 15 Proには、Apple Watch Ultraに初めて登場したカスタマイズ可能な物理ボタン、「アクションボタン」がミュートスイッチの代わりに用意された。長押しでミュートのON/OFFを切り替えられるほか、カメラ起動、ボイスメモ録音、ショートカット、集中モードの変更など、好きな機能に割り当てることができる。

カメラ機能に割り当てると、アクションボタンを長押ししてカメラを起動し、そのままアクションボタンをシャッターとして利用できるため、便利だと感じた。

アップルは2030年までに製品製造に関わる温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」に取り組んでいる。これまで、自社のオフィスや直営店で利用する電力を再生可能エネルギー化してきた。プレゼンテーションの中で、その進捗を紹介する寸劇も用意された。

ティム・クックCEOや、環境を担当するバイスプレジデントのリサ・ジャクソンをはじめとする役員が会議室に並び、「母なる大地」に扮する女優オクタヴィア・スペンサーに、環境対策の進捗を説明するのだ。

その中で、自社は達成済みでサプライヤーに対しても働きかけている再生可能エネルギー100%使用の進捗や、植林、より環境負荷の低い輸送手段などに加えて、水資源の使用を630億ガロン(1ガロンは約3.8リットル)削減したことも報告している。

水資源については近年、AI利用の促進によって、データセンターの冷却に大量に使われるようになっている。その使用量は原子炉を冷やすために用いられる量に匹敵し、今後も増え続けていくと見込まれる。その水資源の使用削減に言及している点も、時流をよく読み取っている。

100%カーボンニュートラル達成のApple Watch

今回大きく取り上げられたのは、Apple Watch SE、Apple Watch Series 9、Apple Watch Ultra 2において、スポーツループなどのナイロンバンド、アルパインループやトレイルループを選択することで、100%カーボンニュートラルを達成する初めての製品となったことだ。


Apple Watch Series 9(筆者撮影)

アルミニウムケースは100%再生アルミニウムを使用、チタンケースのApple Watch Ultra 2では再生素材を95%使うことで、温室効果ガスの削減と資源の節約に寄与している。バッテリーのコボルトも100%再生資源とした。また箱のサイズを小さくして輸送にかかる温室効果ガスを削減し、製造過程の温室効果ガスもカット。

こうしてApple Watchの製造について78%の温室効果ガスを削減することに成功した。ユーザーが使う電力や削減しきれなかった部分をカーボンクレジットで補填し、100%カーボンニュートラルを実現した、Apple初めての製品となった。


レザーの使用を取りやめ、Fine Wovenというファブリック系の素材に置き換えられたケースとMagSafeウォレット。スエードやバックスキンのような触り心地は、レザーとは異なる親しみやすさがある(筆者撮影)

また、レザー素材の使用を見直し、新たな繊維素材として「Fine Woven」(ファインウーブン)に置き換えた。スエードやバックスキンのようにも感じる上質な手触りを実現した新しい素材に置き換えていくことで、より環境負荷を下げ、エシカルな製品にすることを目指している。

アップルが取り組む環境対策の狙いとは?

アップルは、オバマ政権で環境保護庁長官を務めたリサ・ジャクソンを役員に招き入れた2013年から、デザインやプロダクトが主導する企業から、環境対策のアイデアをいかに実現するかに集中して取り組む企業へと転換し、すでに10年が経過した。

この中で、アップルのオフィスやデータセンターのカーボンニュートラル化を実現し、2030年を目標にサプライヤーのカーボンニュートラルも目指している。加えて、省資源化、ユーザーが使う電力消費まで低減・カーボンニュートラル化を目指すなど、その取り組みの勢いはなくなっていない。


Apple Watch Nikeのスポーツバンドもリサイクル素材を用いており、それをアピールするため、異なる色の素材が混ざっている様子をそのままに製品化している(筆者撮影)

アップルが環境対策に力を入れている理由は2つある。1つは、アメリカの消費者の3分の2が、持続可能性のある商品やブランドへの消費を増やしたいとの意向があり、日本の消費者の3分の1も同様の傾向がある。そしてZ世代などの若い世代にその傾向が強まる。次世代の消費者に選んでもらうためにも、環境対策は必須なのだ。

加えて、本当にアップルが今のビジネスから利益を上げ続けるため、という実質的な問題もある。アップルは現在2億台以上のiPhone、6000万台を超えるiPad、2500万台に上るMacを1年間に販売している。おそらく人類が実現しているエレクトロニクス製品の最大規模の製造となる。

昨今の資源や、化石燃料によるエネルギー価格の高騰は、一般家庭でもその影響を受けるところとなった。同じ販売価格を維持するには、こうした資源高騰の影響を受けない資源サイクル、エネルギーサイクルを持たなければならない。つまり環境対策は企業活動の死活問題と言える。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)