「実家に帰るのは負け」東京住みの彼女のプライド
本当の幸せはどうやって見つけるのでしょうか(写真:Ryu K / PIXTA)
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学生時代に上京し、今に至るまで東京で一人暮らしをしている者です。派遣での仕事やバイト、夜の仕事に加え、実家からの若干の支援などで何とかだましだましやってきましたが、すべての物の値段がどんどん上がり、限界にきていることもあって、実家に帰るべきか悩んでいます。
もうかれこれ10年近く東京にいるので、このタイミングで実家に戻るとなんだか負けた気がしてしまいますし、何とか東京で一人暮らしというステータスを維持したいのですが、葛藤しています。
なお、いわゆる都心6区の1つに住むことにも自分はこだわりたい、ファッションなどにもお金をかけたいという欲望も捨てきれません。周りにも負けたくないという性格が災いしているのかもしれませんが、どうしたらよいでしょうか?
IN 会社員
他人との比較では、幸せは見いだせない
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周りと比較することでしか自分のアイデンティティを確立できない人生よりも、キチンと自分と向き合う、自分のための人生を生きましょう。
自分と他人の人生を比較することで、究極の幸せを見いだすことはできません。
みんながやっているから自分もやる。みんなが持っている物を、自分も持っている必要がある。周りが簡単に持てないものを持つことや、できないことを「したつもりになって」ほかの人と比べて優位に立った気になる。
そんなことで本当に自分なりの幸せをつかみ取ることができるでしょうか?
それは本当に自分の人生にとって必要な行為であり、そういった行為を通じて自分自身の人生を生きていると、胸を張って言えるのでしょうか?
それでは誰のための人生なのか、何のために生きているのかわかりません。
失礼な言い方になるかもしれませんが、周りはINさんが思うほどINさんに興味はありません。
「周りに負けたくない」と書かれていますが、何の勝負なのか、誰のための勝負なのかという前に、そもそもそこに競争や勝負はあるのでしょうか?
誰のための人生なのか。まずはそこをキチンと考えたほうがよいでしょう。
他人との比較ではなく、ご自身が考える幸せの形に沿った人生を歩むことが大切です。
他人とではなく、昨日の自分との勝負
仮に人生において競争や勝負があるとしたら、それは自分自身が理想だと思う自分の姿との競争であり、昨日の自分との勝負です。
決して周りとの競争でもなければ、ましてや顔も知りやしない赤の他人や世間との勝負ではありません。
自分なりに幸せな人生を歩んでいるヒトは、少なくとも比較対象として他人の人生に大きな興味を持ちませんし、ましてや「勝った負けた」なんて感情すら抱いていないでしょう。
勝手に周りと自分を比較したり、競争していると考えてしまうのは、自分自身の人生を生きていない証しであり、または現状に不満を持っていたり、そもそもの幸せを理解していない証拠です。
そんなことよりも、自分にとっての理想や幸せの形をキチンと把握すること。自分自身の理想と比較して、今の自分の立ち位置はどこにあるのか。そういったことを整理し、考えて、理解したほうがよいでしょう。
「都心6区に住む」ということの価値とは?(写真は渋谷、撮影:今井康一)
繰り返しですが、他人と比較することで自分自身の幸せを見いだすことはできません。
INさんは「東京で一人暮らしというステータス」や、「都心6区に住む」ということに価値を感じているようですが、これは誰にとってのステータスで、INさんの人生にとって、とりわけ今のご自身にとって優先すべき事項なのでしょうか。
「東京に出てきて10年」で「今更実家に帰ることが負けた気になる」と書かれていますが、その認識も改める必要があるように思えます。
例えば前者の「東京で一人暮らしというステータス」ですが、INさんはご実家からの支援にも頼りつつ生きていますので、独立した大人の人生を東京で生きているとは言えないでしょう。
それはたんに「東京にいる」というだけで、東京で自分自身の力で生活をしている、とは言えません。つまり、それは世間からみればステータスでも何でもありません。
物価上昇もあり、経済的にも生活的にも厳しいということですが、それは何もINさんに限った話でもありませんし、みんな同じ状況です。
苦労しながら支えてくれる親への感謝を
そしてもっと重要なのは、それはご実家も同様だということです。
つまり、親御さんも同様に厳しい中、娘さんであるINさんのためを思って非常に苦労して生活を支えてくださっているわけです。
そんな親御さんの苦労や思いやりを考えることなく、「実家に帰ること=負けた気がする」というのは親御さんに対して失礼な話ですし、ご自身の置かれた状況をキチンと理解していない証しです。
ご実家の支援があったからこそ、過去10年間INさんは東京にいられたわけです。逆に言うと親御さんの支援やサポートなしには、東京にはいられなかったわけです。
そのような状況において、「東京で一人暮らしというステータス」や「都心6区」というのが本当にご自身のアイデンティティなのでしょうか? そしてそれは本当に今優先すべき事項なのでしょうか?
INさんの現状を考えると、少なくともそれらは他人に対して自慢するようなことではありませんし、ほかにやるべきことがあるように思えます。INさんは学生ではありませんから、まずは独立した大人としての人生を生きるべきです。
大人の人生とは、自分自身の価値観と志に基づいた人生を生きることであり、当然のことながら経済的にも独立している必要があります。
周りとの比較や、周りの目を一切排除したときに、INさんが本当に生きたい人生はどんな人生であり、本当にやりたいこととは、どんなことでしょうか? そしてその理想との比較において、現在INさんはどの位置にいるのでしょうか?
まずはそこを考えましょう。
幸せとは、決してどこかの場所に住んでいるから訪れるというものではありませんし、自分を支えてくれている周りへの感謝なしに語れるものではありません。
先ほどのご実家の件でいうと、「今いる場所」はいつでも変えることができますが、「どこから来たか」は変えることのできない自分自身のアイデンティティです。
だからこそ親御さんは苦しい中、今でもINさんをサポートしてくれているのでしょう。そこにあるのは競争ではなく、協調であり、支え合いです。
勝手に周りと競争したつもりになって、自分は地元の人たちよりも優秀だ、幸せだと思い込んで生きる人生よりも、地元も含めたくさんの人たちと支え合い、手を取り合って生きる人生のほうが、INさんにとって幸せな人生であると言える気がします。
大きな人生観で考えると、気にならなくなる
いずれにせよ、大人として独立した人生をどう生きるか、幸せの形をどこに見いだすか、そして自分自身の理想像と比べて、今の自分はどの位置にいるのか。
そういった自分自身の人生を生きるうえでの基本をまずは理解し、そのうえで今何をすべきか、何を優先すべきかを、キチンと考えましょう。
大きな人生観で考えると、どこに住んでいるかなどという小さなことを気にしなくなりますし、周りの目も気にならなくなります。
そしてもっと重要なのは、そういった自分オリジナルの人生を歩むようになると、自分自身の努力や工夫を通じて、周りの苦労も努力も自ずと見えるようになり、他人や周りの人生に対するリスペクトを自然と持てるようになります。
そのような考え方で、INさんが周りとの比較といった価値観や人生観に基づいた生き方ではなく、自分自身のための人生を歩むであろうことを応援しております。
(安井 元康 : 『非学歴エリート』著者)