これまでに行われた研究により、コーヒーには認知症を予防する効果があることがわかっています。さらに、エスプレッソの本場イタリアの研究により、コーヒー豆を濃厚に抽出したエスプレッソにはアルツハイマー病の原因と考えられている物質の蓄積を防ぐ働きがあることや、その作用の元になっている可能性が高い有効成分が判明しました。

Espresso Coffee Mitigates the Aggregation and Condensation of Alzheimer′s Associated Tau Protein | Journal of Agricultural and Food Chemistry

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.3c01072

Espresso Coffee Mitigates Aggregation and Condensation of Alzheimer’s Protein in Lab Experiments | Sci.News

https://www.sci.news/medicine/espresso-coffee-aggregation-condensation-alzheimers-protein-12108.html

From Bean to Brain: Lab Tests Show Espresso Can Prevent Alzheimer’s Protein Clumping

https://scitechdaily.com/from-bean-to-brain-lab-tests-show-espresso-can-prevent-alzheimers-protein-clumping/

アルツハイマー病が発生するプロセスは完全には解明されていませんが、「タウタンパク質」という物質が重要な働きをしているという説が支持されています。

タウタンパク質は、健康な人では脳の構造を安定化させるのに役立てられている物質です。しかし、神経細胞内に異常に蓄積して凝集する「タウオパチー」という問題が発生すると神経細胞が死んでしまい、これがアルツハイマー病の原因となっていると考えられています。



このことを踏まえ、イタリア・ヴェローナ大学の研究チームは、イタリアなど世界各地でよく飲まれているコーヒーの入れ方である「エスプレッソ」がタウタンパク質の蓄積を防げるかを調べました。

実験に使用するエスプレッソの原料として、研究チームは市販の南米産アラビカ種コーヒー豆とアフリカおよび南西アジア産のロブスタ種コーヒー豆のブレンドを選択し、エスプレッソマシンを使って豆の粉末15gから80mlのエスプレッソを抽出しました。

次に、核磁気共鳴分光法(NMR)という手法でエスプレッソの化学組成を分析したところ、主成分としてカフェイン 、トリゴネリン、ゲニステイン、テオブロミンが特定できたため、これらの成分も別途調達して実験に使用しました。



そして、エスプレッソと各コーヒー成分を「フィブリル」と呼ばれるタウタンパク質の線維とともに40時間反応させたところ、エスプレッソ、カフェイン、ゲニステインの3種類を高濃度で使用するとフィブリルが短くなることがわかりました。短くなったフィブリルは神経細胞にとって無害で、新しい塊を形成する「種」としての機能も果たしません。

研究チームが、実際に薄いコーヒー抽出物(下図のオレンジ色の枠)で処理したタウタンパク質の塊を神経細胞に加えて48時間培養したところ、コーヒーを使わずに処理したもの(灰色の枠)と比べて細胞の生存率が53%から72%まで上昇しました。さらに、濃いコーヒー抽出物(赤色の枠)で処理した結果、遠心分離にかけても凝集体が得られないほど細かくなり、細胞の生存率もさらに向上したとのことです。



カフェインなど一部のコーヒー成分は血液脳関門を突破して脳に到達できますが、脳内で試験管内と同じように作用するとは限らないため、今回の実験はあくまで予備的なものと位置づけられており、コーヒーやエスプレッソの効果を確かめるにはさらなる研究が必要だとされています。

その上で研究チームは、論文の末尾で「我々は世界で広く消費されているエスプレッソコーヒーが、タウ関連の症状の改善に有益な天然化合物の供給源であるという大量のエビデンスを示しました。この発見は、タウオパチーの予防と治療に使える生理活性化物質に関するさらなる研究へとつながる可能性があります」と結論づけました。