7月29〜30日、ベルサール秋葉原で開催された「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」。一見、アニメのイベントのようだ(筆者撮影)

自治体や企業の活用例が増えてきたメタバースだが、メディアやSNSで話題となることが少なくなり、市場が冷えてきたようにも見える。しかしVRのイベント会社HIKKYが7月に実施した、メタバースとリアルの“ハイブリッド展示会”では、2日間で4万人の来場者を記録したという。

仮想空間内だけではなく、現実においても多くの人に注目された理由はなんだったのだろうか。

仮想空間では120万人、現実でも4万人を集客


会場となったベルサール秋葉原は、秋葉原のなかでも最も人通りが多い交差点にある(筆者撮影)

強烈な日差しが容赦なく照りつける7月29〜30日、ベルサール秋葉原の前には多くの人だかりがあった。

さまざまなイベントが開催される場所だが、この日に行われていたのは「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」。本来ならばVRヘッドセットを被って参加することになる仮想空間内のイベント「バーチャルマーケット2023 Summer」を、現実世界と繋げるという試みのイベントだ。

「バーチャルマーケット2023 Summer」を端的に言えば、メタバース内のコミケやデザインフェスタといったもの。個人クリエイターや3D CGモデラーが各々のブースを出展し、3Dのアバターや衣装(バーチャルファッション)などを展示しながら販売サイトに誘導するほか、広いスペースを持つ企業ブースが現実に販売する自社商品やサービスをアピールする場となっている。また仮想空間内かつブースにスタッフを配置する必要がないことから、24時間休みなく開催できるという特徴を持つ。

2018年8月に第1回目が開催され、今回で10回目となるイベント。のべ100万人以上を集客した回もあった。今回の集客数はのべ120万人を突破。日本だけではなく世界中からVRに慣れ親しむユーザーが集った。主催したHIKKYによれば、過去最大人数の集客を記録したという。

しかし、これほどの大規模イベントでも、メタバースの中のトレンドは話題としにくいのかメディアで取り上げられるのはまだ少ない。SNSで言及するユーザーは多いが、同じ趣味を持つユーザー間の情報や感想のやりとりで終始しており、メタバースの外側に向けての情報発信は限られていると感じる。

短時間の体験コースが功を奏した

前述したように、現実のイベントホールでのバーチャルマーケット開催は、仮想空間であるメタバースと現実空間を繋げるのが目的だ。


単にVTuberを映しただけではない。ロボット上部のカメラがイベント会場を捉えて、VTuber側に現地の様子を伝えている(筆者撮影)

現実のイベントでは、さまざまな技術を用いてメタバースへの入り口としていた。VRヘッドセットを用意して、独自コンテンツを楽しんでもらうブースのほか、大型のスクリーンに仮想空間の様子を映し出し、生身のままCGで描かれたアバターとのコミュニケーションができるブースや、裸眼で立体表示が楽しめるソニーの空間再現ディスプレーを用意していたブースもあった。モニター越しにVTuberと会話を楽しめるロボットが徘徊し、メタバース内で撮影された映画を上映する個人ブースもあり、映画やアニメで描かれていた現実とバーチャルの融合を実感できる、未来の展示会場となっていた。


仮想空間側のイベントを知る人が多く集まっていたと同時に、秋葉原に観光で訪れた人も会場に足を踏み入れていた(筆者撮影)

来場者を見ると、普段はメタバース内で交流をしているのだろう。現実で会って話すオフ会のような様相を呈していた人々が多かった。それと同時に割合が多い、と感じたのが、インバウンド旅行者を含む観光客や、他の目的で秋葉原に訪れたと思われる人々だった。小さい子ども連れの家族の姿もあった。アニメやゲームコンテンツだけではなく、新しい技術や文化にも興味をもっている人が集いやすい秋葉原だからこそ、見かけない展示が多いイベントにも積極的に入ってこれたのかもしれない。

前者の方はすでにVRヘッドセットやメタバースを体験していることもあり、VRヘッドセットをはじめさまざまなコンテンツを気負いなく楽しんでいる気配を感じた。対して後者の方々は恐る恐るVRヘッドセットをかぶり、最初は戸惑いながらもしだいに「すごい!」と熱のこもった声をあげていた。


VRヘッドセットを装着しなくてもアバターとのコミュニケーションを楽しめたブースは、ひときわ人気だった(筆者撮影)

1つのコンテンツの体験時間が数分というのも、良いバランスだと感じた。企業ブースのスタッフも、初めての人でも安心して体験できるように操作やコンテンツの楽しみ方を端的に、そしてつきっきりでアテンドしていた。

決められた時間のなか、より多くの人に体験してもらうべく回転数重視で短時間の体験コースとしたのかもしれないが、並んでいる人も、テーマパークの人気アトラクションのように長時間待たなくても自分の番が回ってくるメリットがある。


メタバースの中で何が行われているのか。その1つの答えとなったのが、個人ユーザーが集って運営していた「メタバース映画祭」(筆者撮影)

筆者が今まで見てきた限り、従来のVRコンテンツ体験会は10〜15分ほどかけて基本操作を習得してもらうケースが多く、肝心のコンテンツにたどり着くまでに時間がかかる。操作が覚えにくいと感じた人は集中力が続かず飽きてしまうし、VRならではの視界に酔ってしまう人も増えてしまう。また同時に体験する人よりスタッフの数が少ない現場も多かった。何かしらのトラブルが起きたり、自分では判断できないことがあっても、スタッフが他の体験者をアテンドしているときはVRヘッドセットをかぶったまま待たなくてはならない。これは不安が募るのというものだ。

バーチャルマーケット2023リアルinアキバで見たものは、誰でもメタバースの世界をすぐ、しかも濃厚に味わえる仕組みとなっていた。VRを知らない観光客でもそのテイストを味見することができるイベント企画・設計だったのではないだろうか。4万人の来場者のうち、半分がVRを知らない人だったとしても、メタバースの外側に向けての情報発信としてはうまく機能したと断言できる。

大規模な観光地以外でも効果が出るか

ここで気になってくるのは、秋葉原、しかも人通りの多いメインストリートの交差点にあるイベントホールでの実施だからこそ4万人も集まったのでは、というところだ。幸いにもベルサール秋葉原というイベントホールの1階はフルオープンなフロアで、道を歩く人からも展示が見えるようになっている。同じ秋葉原でも駅から離れた場所や、人通りの少ない場所での開催なら、ここまでの記録は達成できなかっただろう。

HIKKYは今後も現実空間でのイベント開催を計画している。またバーチャルマーケットが秋葉原で4万人もの人を集客したことを受けて、いくつかの企業が現実✕仮想空間を絡めたイベント企画の提案を始めているようだ。

誰もが知るアイドルや、強力なIPを起用できるなら秋葉原以外の場所でも集客は期待できるだろう。しかし広告塔となるコンテンツを確保できなければ、他の目的でその街に訪れた方々の興味を引くことはできないはずだ。

「やっぱりメタバースは失敗だ。人を呼べないんだ」と思われないように、現実世界にメタバースの存在を伝える機会を作るには、場所とコンテンツの両面でイベントを設計する必要があると考える。


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(武者 良太 : フリーライター)