ラーメンネタは、なぜ炎上してしまうのか(写真はイメージです/写真:yuto@photographer/PIXTA)

ラーメンは、よく燃える。インターネットにおける「炎上ネタ」として、他の食べ物よりも頻繁に、話題になりがちだ。ここ数日でも、「背脂多め」のトッピング料金をめぐって、SNS上では議論が繰り広げられている。

ネットメディア編集者として、10年ほどSNSを見続けてきた筆者からすると、「ラーメンは『火種』になりやすい」という印象がある。そこで今回は、なぜここまで炎上ネタとして扱われやすいのか、ラーメン屋が炎上ネタの舞台となりやすいのかを、5つの観点から解説してみよう。

「背脂多め」は有料が当然?

2023年9月上旬、X(旧ツイッター)に投稿されたのは、とあるラーメン店における客と従業員のやりとりだった。客である投稿者が「背脂多め」にできるかと聞いたところ、従業員は可能だと答えたため、そのまま「多め」で注文。オーダー通りの商品が提供された。

論争のもとになったのは、このあとだ。投稿者が伝票を見ると、「多め100円」と書かれている。従業員に聞くと、背脂を増量した料金とのこと。しかし投稿者は、店内に掲示がなく、注文時に追加料金となる旨も伝えられなかったことから、いら立ちを覚えたという。最終的には、従業員の上司が、店に落ち度があるとして、背脂トッピングの100円をサービスしたと記されている。

この投稿に対して、ユーザーからは、あらゆる意見が出てきた。「本来の量でない以上は、オプション料金が発生するのが当たり前」と店舗に利があるとの意見もあれば、「無料の店舗もある」「有料なら事前にしっかり伝える必要がある」と投稿者に賛同する声も。さらには、人気ラーメン店主も参戦し、議論が続いている。

「背脂多め」のみならず、ラーメンをめぐる炎上は、しばしば起きている。そこで今回は、なぜラーメン店での騒動が、ネットで話題になりがちなのか、5つの観点から説明してみたい。

その1「ラーメンネタは、誰でも参加できる」

おそらく、ほとんどの読者は、ラーメンを食べたことがあるだろう。経験がないにせよ、どういった料理かは知っているはずだ。それだけの「国民食」だからこそ、会話には事欠かない。自宅でのインスタント調理がメインで、あまり外では食べないとしても、しばしば話題になる「1杯に1000円払えるか」の議論には、手ぶらでも参戦できる。

商品としての「ラーメン」だけでなく、公共の場である「ラーメン店」でのマナーも、論争になりがちだ。よく新幹線などの交通機関で、周囲を顧みない客の「迷惑行為」が話題になるが、それと同じくらい身近な存在と言えるだろう。

「誰もが知っている」ことがカギ

「誰もが情景を思い浮かべられるか、否か」は、どこまで炎上するかを予測するうえで、ひとつの尺度になる。回転寿司チェーンでの「醤油ペロペロ」があれだけ話題になって、衛生面での非難が相次いだのは、多くのネットユーザーが過去に訪れた経験があって、それなりの解像度で「どんな環境か」を思い出せたからだろう。その点、ラーメン店でのアレコレは「脳内再現性」が高く、だれもが雰囲気を共有できる。

その2「枝葉が広がりやすく、論点がズレがち」

議論への参入障壁が低いと、裏を返すと、話題を展開しやすい。「背脂論争」であれば、話題の中心は「トッピングの価格設定と、その周知方法」にあるはずだが、SNSで拡散されたゆえに、「店名を出さないにせよ、わざわざツイート(ポスト)する必要はあったのか」といった論点も生まれてしまった。

ネットメディアを中心に、各社が取り上げることで、新たな物差しも出てくる。投稿者は約1.5万人のフォロワーを持っていたことから、各社記事では「インフルエンサー」として報じられている。そこに「1万5000人でインフルエンサーと呼べるのか」といった指摘が生まれてしまえば、論点がよく見えなくなってきてしまう。

これはラーメンに限った話ではなく、有名人のインスタやYouTube発言などのネタでも同様だ。「これは本当に『炎上』なのか」「『賛否両論』って書いているけど、どう考えても『否が大多数』だろ」などなど……。筆者も含めて、邪推が習慣になっているネットユーザーは珍しくない。なにもワザと、うがった見方をしようとしているのではなく、反射神経的にツッコミを入れてしまうのだ。

その3「店主の強いこだわりが、時に反発の要因となる」

「ラーメンだからこそ」の観点に戻してみると、店ごとの個性が強いイメージは、炎上の下地になっているように感じられる。もちろん画一化されたチェーン店もあるが、個人経営の人気店も多く、一定の「ルール」を設ける場合もある。それらのほとんどは合理的で、理不尽なものは少ない。

しかし、どこか「押しつけられている感」を察して、反発を覚える消費者もいるのだろう。

客はお店ごとのルールに不満に感じている?

円滑に店舗運営するためのルールだけでなく、そこに店主の「価値観」も乗ってくる。先日、とある人気つけ麺店の創業者が、つけ汁に付ける前に、まず麺のみを食べる行為について非難したところ、かなりの炎上を招いた。最終的に創業者は謝罪し、客には自由に食べるよう促したが、これも「自分なりの食べ方」にこだわった結果、「押しつけられている感」を与えてしまった一例と言える。

とはいえ、個性が必ずしも悪いとは言えない。ラーメンのジャンルは、のれん分けや、ブームに乗った「○○系」「○○インスパイア(=影響を受けたという意味)」など、日進月歩で細分化が加速している。市場発展の原動力になっているのは、間違いなく個性だろう。

その4「実際にルールを守らない客も少なくない」

昨年ネットで話題になったラーメンネタに、「1杯をシェアしていいのか論争」がある。とある店舗に2人組の客が来店し、片方だけラーメンを注文。もう1人は満腹を理由に、注文しなかった。しかし実際に提供してみると、1杯を2人で分け合っていた。

店主は一連の経緯をSNS投稿し、「食べない方は入店お断り」と明言した。1杯あたりの値段が他店より安価なことなどもあり、ネットユーザーからは、店側に同情的な反応が多かった。このケースでは「合理的なルールで、守らない客が非常識だ」と評価されたのだろう。

当然ながら、お店ごとのルールと、世間一般におけるマナーは、必ずしもイコールではない。なかには「常識外れ」と感じるものもあるだろう。ただ、ひとたび承諾して入店した以上は、そのしきたりに従う必要が出てくる。そうでなければ、「イヤなら帰れ」となるものだ。

その5「居合わせた客たちの『連帯感』が強い」

ここまで書いてきて、ふと「なぜカレー店や牛丼店では、そこまで炎上が起きないのか」と感じた。価格帯としては大きく変わらず、店舗もそれなりにあるにもかかわらず、どうして……と考えたとき、客同士がある種の「連帯感」を持つかがポイントではと思い至った。

ラーメンネタが「強火」で炎上する理由

人気ラーメン店の前には、きょうも「待ってでも食べたい」という客が、長蛇の列をなしている。筆者は行列が苦手だが、待てば待つほど、目指す1杯への期待感が高まることくらいは想像できる。

「どんなダシだろう」「麺のゆで方は、固めかバリカタか」「味玉の食券を買うべきか」……などと思いをめぐらせるにつれ、並んでいる客たちは、いつしか同じ方向性のビジョンを共有しているのではないか。

店内に入ってからも、滞在時間は比較的長い。麺をゆで、丼を温め、スープを注ぐ。ようやくカウンターに差し出された丼と、「1対1で向き合うぞ!」と意気込んだときに、もし客と店員がモメだしたら、「ちょっと待ってよ。オレの数時間返してくれ」となっても当然だろう。

気づかぬうちに、私たちには「ラーメンを食べるためのムードづくり」がインプットされているのかもしれない。客同士がルールを守ることで、「最高の1杯」へのステップを踏んでいく。その途中で手順を乱されたくない……などと仮定すると、ネット上でこれだけ「強火」で炎上するのも納得と言える。炎上が多発することは、それほどまでにラーメンが愛されている証拠でもあるのだ。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)