2023年8月下旬より先行受け付けを開始した3代目N-BOX(写真:本田技研工業)

2017年から2023年上半期(1〜6月)まで国内の新車販売台数ナンバーワンは、ほぼ一貫してホンダ「N-BOX」だった。

2021年こそ、1位の座をトヨタ「ヤリス」に譲るが、後者にはコンパクトカーのヤリスに加えてSUVの「ヤリスクロス」やスポーツモデルの「GRヤリス」も含まれる。クルマを選ぶユーザーの目線では、ヤリスとヤリスクロスは別のクルマだろう。

販売台数をボディタイプ別に算出すると、結局はN-BOXが1位であった。


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このN-BOXがフルモデルチェンジを行って、3代目になる。それにともなって販売店では、2023年8月4日から価格を明らかにして先行予約受注を開始した。販売店は以下のように述べる。

「現時点(2023年8月下旬時点)で新型N-BOXの注文をいただいた場合、納車は年末から2024年1月になる。試乗車は2023年10月の上旬から中旬に配車され、すでに注文をいただいたお客様の納車も、ほぼ同じタイミングで開始される」

以上が新型N-BOXのスケジュールだ。今、軽スーパーハイトワゴンの購入を検討している人なら、新型N-BOXは大いに気になる1台だろう。しかし、検討時に注意すべきポイントは多く、そこをガイドしたい。

ポイント1:外観の存在感やインパクトの変化

外観の形状は、基本的には先代型を踏襲している。先代型の人気が際立って高く、大幅に変えて失敗すると痛手も大きいからだ。

それでも新型N-BOXの開発者は「フロントマスクなどの外観は、威圧感が生じないように配慮した」と述べる。いわゆる「オラオラ顔」は避けたいため、先代型に比べて顔立ちを少し穏やかに仕上げたというわけだ。


先代に引き続き標準車(左)とカスタム(右)の2タイプを用意する(写真:本田技研工業)

この考え方を明確に表現しているのは、標準車のフロントグリルだ。細かな穴の空いたデザインは、「シンプルな家電のイメージ」だという。上級仕様の位置づけカスタムモデルは、光沢のあるブラックのグリルだが、緻密な形状で光の当たり方により表情が変わるようにしている。

フロントマスクは好みの問題だが、標準/カスタムともにメッキの使用を控えたのが特徴だ。

カスタムの顔立ちは、「N-WGN カスタム」にも似ている。たしかに威圧感は抑えられたが、「質感は先代のほうが高かった」と受け取るユーザーもいるだろう。

ちなみに近年のホンダ車のフロントマスクは、「ステップワゴン」や「フィット」など、いずれも威圧感を抑えたシンプルなデザインとなっている。それが要因であるとは断言できないが、売れ行きは低調だ。新型N-BOXの変化を、皆さんはどのように感じるだろうか。

ポイント2:デジタルメーター採用のインパネ

先代N-BOXのインパネでは、メーターパネルを高い奥まった位置に設置し、ハンドルの上にメーターを望むデザインだった。前方から視線をあまり移動させずにメーターを確認できたが、小柄なドライバーからは「メーターが邪魔で前方が見にくかった」との意見があった。また、圧迫感も生じるとする指摘もあったという。


アナログメーターを上部に配置した先代N-BOXのインストルメントパネル(写真:本田技研工業)

そこで新型は、メーターをステアリングホイールの奥側に設置する一般的な配置に変更して、インパネの上面をスッキリと平らに仕上げた。斜め前側を含めて、前方視界が向上している。小柄なドライバーでも前方を見やすく、圧迫感も生じにくい。


デジタルメーターをステアリングホイールの奥に設置した水平基調のデザインになった(写真:本田技研工業)

その代わり、インパネ周辺の質感は先代のほうが高かった印象も受ける。メーターは、アナログからフル液晶のデジタル式になった。ステアリングホイールは、3本スポークから2本スポークに。エアコンの吹き出し口周辺も、先代は緻密に造り込んでいた。

つまり、新型は全体的にコストを下げた印象を受けるのだ。ホンダの関係者からは「先代N-BOXは開発や製造のコストが高く、内外装が上質で販売も好調だったが、メーカーの受け取る利益が少ない」という話も聞いた。新型はその対策も行っているだろう。

ポイント3:標準車のターボとEXグレードを廃止

新型N-BOXのラインナップは先代と同様、標準とカスタムに大別される。ただし、先代にあった装備別のグレード展開はなくなり、1グレードを基本とする形となった。


シンプルさと親しみやすさを表現したという標準車のエクステリア(写真:本田技研工業)

標準車では、自然吸気エンジンのみでターボエンジンは廃止。パッケージオプションとして、外観をドレスアップする「ファッションスタイル」と、車椅子の乗車が可能な福祉車両のスロープを用意する。

カスタムには自然吸気とターボの両方があり、それぞれに内外装やシート生地が上級化する「コーディネートスタイル」を設定した。スロープも選べる。


カスタムは品格のある佇まいと性能の高さを表現したという(写真:本田技研工業)

先代には、助手席を前後に57cmスライドできる「スーパースライドシート」を装着するEXグレードが用意されたが、新型ではこれも「期待したほど売れなかった」という理由で廃止している。

ポイント4:4万〜5万円の実質的な価格アップ

新型N-BOXのグレードと価格を先代型と比較すると、以下のようになる(価格はいずれも2WD)。

■新型の標準車:164万8900円
■先代の標準車L:159万9400円

5万弱の価格アップとなるが、その内容を見てみると注意すべき点がいくつかある。

良い点は、先代Lで4万4000円のオプションだった「サイド&カーテンエアバッグ」が、新型では標準装着になったこと。また、安全装備の近距離衝突軽減ブレーキや急アクセル抑制機能も、新型で新たに標準装着となる。

その代わり、先代Lで標準装備だった前席シートヒーター、後席センターアームレスト、コンビニフック付きシートバックテーブルが、新型ではオプション設定に変更された。


カスタムモデルのインテリア(写真:本田技研工業)

また、収納設備も変化している。新型ではグローブボックスの容量を2倍に増やす代わりに、メーターの配置を変えたことで、ステアリングホイールの奥側に装着していた収納ボックスが廃止された。そのほかの収納設備も少し減っている。

装備の増減を考慮すると、約5万円の価格アップにもかかわらず、新型の標準装備モデルと先代Lの装備水準は“ほぼ同程度”といえる。

■新型のカスタム:184万9100円
■先代のカスタムL:182万4900円

新型のカスタムは、標準車と同様に安全装備の近距離衝突軽減ブレーキや急アクセル抑制機能を加えたが、先代型に標準装着された後席センターアームレストは設定されず(カスタムターボには標準装着)、コンビニフック付きシートバックテーブルはオプションとなる。スピーカーは、先代のカスタムLは8個だったが、新型は6個に減った。

価格上昇は2万4200円と標準車よりも少ないが、細かな装備をコストダウンしているため、こちらもやはり実質的には4万〜5万円の値上げと考えられる。

■新型のカスタムターボ:204万9300円
■先代のカスタムLターボ:202万4000円

装備内容を先代と新型で比較すると、さほど大きな違いはない。それでも価格は2万5300円高められた。とはいえ、カスタムターボについては、気にする部分はないだろう。

新型N-BOXのメリット/デメリットまとめ

先の項目で触れた通り、N-BOXの新旧モデルを比べると、機能やデザインによっては先代型が優れていた。そこで新型のメリット(改善された点)とデメリット(先代型のほうが魅力的だった点)を改めて整理しておこう。

<メリット>
・インパネ周辺のデザイン変更により、前方視界が向上した。
・後席の座面が柔軟になり、突っ張り感が薄れて座り心地も改善された。
・乗員の肩まわりの空間を広げて、車内の開放感が増している。
・後席を格納したときの荷室床面を工夫して、自転車の収納性と運搬中の安定性を向上した。
・グローブボックスの容量を2倍に拡大するなど、収納設備の使い勝手が良くなった。
・安全装備が向上して安心感を高めた。

<デメリット>
・標準車のターボと助手席ロングスライド機能を備えるEXが廃止された。
・フロントマスクの威圧感を抑えた代わりに、新型ではメッキの装飾が減って存在感も弱まった。
・インパネ周辺のデザインやステアリングホイールの形状が変わり、見栄えや質感が平凡になった。
・メーターがデジタルに変更され、ユーザーによっては先代型が馴染みやすく上質に感じる。
・同等グレードで価格を比べると、新型は実質的に4万〜5万円値上げされた。

外観デザインやデジタルメーターなどは、一概にデメリットとは言えないが、購入時にはよく検討しておきたい部分である。


新型N-BOXは全車フルデジタルメーターを採用(写真:本田技研工業)

まだ先代も買える!N-BOX購入ガイド

ここからは具体的に「どのグレードを選べばいいのか」を解説していく。ユーザーニーズ別新型N-BOXの推奨グレードは以下の通りだ。

■買い得で選びたいなら:標準車(164万8900円/2WD)
■個性で選びたいなら:カスタムターボ(204万9300円/2WD)

標準車のエンジンは新型では自然吸気タイプに限定されたが、実用装備を充実させており価格も求めやすい。セットオプションにより、右側スライドドアの電動機能(左側は標準装着)や前席シートヒーターなどを加えれば満足度の高い1台となる。

カスタムターボは、自然吸気エンジンのカスタムに比べて価格は20万200円高いが、右側スライドドアの電動機能、本革巻きステアリングホイール、パドルシフトなどが加わり、シート生地もプライムスムース&トリコットに上級化。アルミホイールも14インチから15インチに拡大されるなど、カスタムターボは装備も充実度が光る。


カスタムターボ用15インチアルミホイール(写真:本田技研工業)

これらの装備を価格換算すると約10万円だから、ターボエンジンの正味価格は、およそ10万円。上級志向のカスタムモデルを選ぶなら、最大トルクが1.6倍にも増強され、パワフルに走るターボ車を推奨する。

ベストなN-BOXを選べるとき

なお、N-BOXは先代の在庫も多く、まだ新旧どちらも選べる。

フルモデルチェンジした新型車が受注を開始する場合、先代の販売はほとんど終了しているものだが、冒頭で述べたとおりN-BOXは国内のベストセラーカーで、ホンダが販売する新車の実に40%をN-BOXが占める。

仮にフルモデルチェンジのためにN-BOXの販売が停止すると、ホンダの国内販売台数は40%も減ってしまうことになる。そのため、先代N-BOXの在庫車を大量に用意して、販売を維持しているのだ。


在庫車のため選べる仕様は限られるが、買い得感の高い選択となるだろう(写真:本田技研工業)

販売店では以下のように説明した。

「少なくとも新型の納車が始まる10月頃までは、先代モデルを買えるだろう。新型の値引きはほとんどないが、在庫車なら10万円は確実だ。商談が大詰めになれば、金額をさらに増やしたり、カーナビなどをサービスしたりも可能になる」

N-BOXの新旧モデルを客観的に比べると、安全装備などの充実する新型を推奨する。しかし、先に述べた「先代型のメリット」に魅力を感じるユーザーは、新型と比べたうえで値引きの大きな先代型を選ぶ方法もある。このように、新旧モデルを比較して購入できる車種は少ない。

新型と旧型を比較しながらN-BOXの新車を購入できるのは、在庫車がたくさんある今だけ。そういう意味で、今はN-BOX購入のベストタイミングであるともいえる。ポイントは多いが、自分にとってベストなN-BOXを選び出してもらえれば幸いだ。

(渡辺 陽一郎 : カーライフ・ジャーナリスト)