不動産バブル崩壊からデフレ状態になっていると言われる中国。「かつての日本のようにはならない」という楽観論もあるが、本当だろうか(写真:ブルームバーグ)

中国の不動産バブル崩壊をめぐっての見方が錯綜している。「確かに中国の不動産バブルは崩壊している。それでも中国経済は不況から短期で回復する」という楽観論があるが、本当にそうだろうか?

中国経済は「日本化」しているのだろうか


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アメリカの冷静な専門家は、今回の中国の不動産バブル崩壊について「銀行負債が膨らんでいないし、個人の住宅購入も頭金現金の割合が高いから、信用不安、銀行破綻、金融危機にはつながらない」と分析している。

また「経済面での中国問題の核は、不動産よりもむしろ景気後退の問題にある。これが景気循環によるものか、構造問題によるものか」という議論が焦点となっている。そして「この不況は構造問題ではなく、景気循環の問題だ」としているのが多数派のようだ。

今回は、景気循環の話は置いておくとして、中国の構造問題は本当に深刻でないのか、とりわけ不動産バブル崩壊は実体経済を長期にわたって停滞させる要因とならないのか、ということを議論したい。

以前から言われていたことだが、この数カ月、急激に一般化した言葉が「中国経済の日本化」である。以前から、欧米金融政策担当者は物価の下落やゼロ金利に追い込まれることを"Japanization" と呼んで恐れていた。

だが、現在の文脈は、中国経済が不動産バブル崩壊から長期経済低迷に至る可能性を指して使われている。つまり、日本では1980年代のバブルが1990年代に崩壊し、失われた10年、20年、30年と揶揄されるような長期経済の停滞に陥ったが、中国もこの後追いになるのではないか、という議論である。

「1990年以降の日本」との「6つの類似点」とは?

「日本化」と言われている理由を整理すると、現在の中国経済と1990年代以降の日本経済が、以下の4点について類似しているから、ということらしい。さらに言えば、私は5と6も似ていると思っている。

1:未曽有の不動産バブルが崩壊し、土地神話が崩れた

2:それと時を同じくして、高成長経済、世界的に群を抜いた成長経済が止まった

3:構造的に少子化問題が生じ、人口が減少に転じた

4:市場メカニズムではなく独自の変形資本主義経済が蔓延、債務整理が進みにくい

5:アメリカと貿易摩擦、経済摩擦がある

6:貯蓄率が高く、自国で資本を賄っており、銀行整理を急ぐ必要がない

だから「中国も不動産バブル崩壊で長期停滞に入る」という巷のストーリーが盛り上がっているのだが、これに対し、アメリカを中心としたまともなエコノミストたちの判断は「類似点もあるが、本質的に当時の日本と今の中国は大きく異なる」という。

その主な理由は以下の7つに集約される。

中国経済は本当に1990年代の日本と異なるのか

1:中国は依然「中進国」にすぎず、1人当たりGDPはアメリカの5分の1以下である(当時の日本のそれはアメリカよりも高かった)

2:したがって、中国にはまだマクロ経済成長の余地が極めて多く残っている(日本はピークアウトするしかなかった)

3:中国の都市化率はまだまだ低く、都市化による高度成長メカニズムはまだ機能する(日本はすべて終わっていた)

4:中国はまだ1人当たりの資本装備率が非常に低く、技術革新なしに現状の技術を利用した資本を追加投資することにより、生産性が上昇する余地がある(日本はすでに過剰設備投資となっていた)

5:中国はまだ人が余っている。若年失業率は20%を超え、農村人口も余っており、労働力の天井にまだ突き当たっていない(日本は人余りではないが、実は企業内余剰人員が多数いた)

6:現在の中国のほうが開かれた経済であり、国際的な相互依存にある(現在の対GDPでの中国の輸入比率は15%。1990年の日本は7%)

7:中国は1990年の日本のバブル崩壊から学んでいる(日本は傲慢だった)

ということで、中国は、日本みたいにはならない。足元の不況を抜ければ、経済は成長軌道へとある程度戻る、というのが見立てらしい。

本当にそうだろうか?

ここまで「中国不動産バブルは崩壊しない論」を整理してきたが、ここから先は、私自身の専門分野であるバブルについて絞って私論を述べたい。結論から言うと「中国不動産バブル崩壊は、中国経済に長期的に深く傷跡を残し続ける」と考える。

日本のバブル崩壊が経済を壊したメカニズムとは?

まず、日本のバブル崩壊が、なぜこんなにも日本経済に深く長いダメージを与えたのだろうか。個別の要因や政策などは一切無視して、なぜ機能不全に陥り経済的損失が生まれたのか、結果として起きた事実に焦点を当ててみよう。

前回の私の記事「やっぱり今は金融危機への『黄信号』が灯っている」では、ハーバードビジネススクールで教鞭をとるロビン・グリーンウッド教授の「金融危機のレッドゾーン」について紹介した。

バブルと言えば日本の1980年代、というわれわれにとっては、まったく意外なことだが、家計部門による住宅不動産バブルと、企業部門によるバブルが同時に起きていた(同時にレッドゾーンに入っていた)のは、第2次大戦後に起きた多くのバブルの中で、日本の1980年代だけなのである。

したがって、日本のバブルは例外中の例外、今の中国不動産バブル崩壊のみならず、どんなバブルに対しても、あれは似ても似つかないものなのだ。

では、まったく参考にならないかといえば、それもまた違う。なぜ、バブルが経済を壊したのか。

一般的に、不動産バブルが悪いのは、不動産が不良債権化し、銀行の資本が毀損し、不動産部門以外の経済全体へ銀行融資がシュリンク(収縮)してしまうからである。不動産に銀行融資はつきものなので、不動産バブル崩壊は金融危機になることが多い。したがって、バブル崩壊が悪いのは銀行システムなど金融システムを機能不全に陥れるからである。

日本の場合は、銀行中心の資金配分システムであり、それが不動産バブル崩壊による資本毀損をもたらした。これはごく普通のバブル崩壊である。

一方、日本が異常だったのは、すべてがバブルになっていたことだ。1980年からの元祖金融ビッグバンにより、企業は銀行からも資金を提供され、市場からも、社債、転換社債、株式増資とやりたい放題であった。

そして、設備投資もやりたいだけやる。しかし、それでは資金が余ってしまい、ひたすら財テクと称して、あらゆる金融商品を企業法人として購入し、それが株式市場を引き上げ、まさに自己実現バブルを作っていった。

さらに強烈な円高だ。それは不況要因と思われているが、実際には、円高輸入メリットは膨大で、原油価格の国際的な下落もあり、超大規模な輸入差益が生まれた。自動車業界は、輸出自主規制の下に利益率の高い車だけを輸出できるようになり、原料価格の低下、輸出価格の上昇と、企業利益も増加していった。

企業法人は、会社にツケを回して、接待、営業という名の遊びをしまくり、法人需要も膨らみ、企業の売り上げ、利益も増加した。これも、実体経済には珍しい自己実現バブルだった。この中で、企業は地道なビジネスモデルではなく、銀行はひたすら不動産融資先を探した。サービス業は、バブル的な豪華で高い見かけ重視のサービスを展開するビジネスモデルに頭を絞り、下のレベルではひたすら営業をかけて、余っている金(カネ)をバラまいた。

こうしたプロセスで、なぜ経済が長期に毀損するか。平常時になれば無駄となる営業人員を抱えすぎた。過剰な設備投資をした。浮かれているときでしか消費しないような製品ばかりを作った。

つまり、人員の過剰、過剰なボーナス水準、過剰設備、平常時に戻ればまったく役に立たないビジネスモデル、それに適応した企業、つまり、リソース(資源)のほとんどが、バブル期に利益を最大化するものに投入されてしまい、バブルが終わった瞬間、平常時にはすべて役に立たない過剰なものになってしまったのである。つまり、すべての人材、資本、アイデア、ビジネスモデルを無駄なものに投入したため、資源配分が最適から程遠い状態に陥ってしまったのである。

そして、そこから平常時に移行するには、銀行も企業も資本が毀損して、リストラ、移行費用もままならず、新しい人材の採用、教育、21世紀向けの設備投資、21世紀用のビジネスモデル、何にもリソースを投入できなかった。

結局、日本経済は回復にバブル崩壊、後始末だけでなく、きれいになってからも、何もないところからのスタートで新しいモデルを確立するのに10年かかってしまった、いや今でもできていないままなのである。よって1990年代、2000年代はコストカット、値下げによるコストパフォーマンスの上昇だけに頼った目先の回復戦略を取り続けなければならなかったのである。

「非効率の温存」が日本以上に続く可能性

ポイントは何か。適切な資源配分がなされてきたか、今なされているか、これからされるか。これだけである。

配分を市場に頼るのであれば、市場が機能するかどうか。銀行が行うのであれば、銀行が長期持続的に企業やビジネスモデル、プロジェクトを選別しているか。独裁者による配分に頼るのであれば、独裁者が的確な判断をするかどうか。すなわち、資源配分メカニズムがどんなものであれ、その結果が効率的であれば、良いのであり、配分の効率性が問われるのである。

中国不動産バブル崩壊が、2008年のリーマンショックや日本の1990年代と違って、ダメージが小さいと思われるのは、銀行の資本が毀損しても、それにより、他の部門への融資配分が変わらない(変えない)と思われているから、バブル崩壊の銀行システムを通じた経済全体への波及が小さいと思われているからである。

また、株式市場や国際資本市場、為替なども、グローバルな市場から隔離されているから、市場のパニックによるオーバーシュート(下げすぎること)が起きないとされていることがあげられる。

しかし、実は1990年代前半の日本は、これと似ていた。つまり、不動産バブル崩壊から銀行資本の毀損、企業資本の毀損の処理は本格的には起きなかった。

なぜなら、銀行および日本の膨大な個人貯蓄の範囲で一時的には吸収できてしまったからである。しかし、結局はこの一時的な処理の積み重ねで、銀行は耐え切れなくなり、そこへアジア金融危機が襲い、日本も巻き込まれてしまい、とどめをさされた。そのときには、国内には資本の出し手が不在となっており、株式市場も為替市場も海外トレーダーにやりたい放題、まさにオーバーシュートを利用して荒らされてしまったのである。

現在の中国の耐久力は、当時の日本よりも高いと思われる。ということは、処理がそれだけさらに遅れるのであり、非効率性の温存は日本以上に長く続く可能性があるのである。これが第1の理由だ。

かつての日本よりも高い非効率性、二重経済のツケ 

第2に、中国の不動産バブル崩壊は、銀行および地方政府に大きなダメージを与えるはずだが、もともと土地は公有だったから、地方政府の資本が毀損したわけではない、損失というわけではない、という議論があるが、これも間違いだ。

なぜなら、不動産バブルの膨張を打ち出の小槌にしてしまった地方政府は、膨張を前提に動いているから、これが崩壊したら、収入減や、非効率な無駄遣いのつじつまを合わせるものがなくなり、あっという間に破綻するはずである。つまり、銀行を恣意的に利用してきたからこそ、非効率性は、かつての日本とは比較にならないくらいさらに杜撰であり、ダメージはとてつもなく大きくなる。

第3に、平均所得が高くなくとも、完全に二重経済であり、上海、北京などの沿岸部の所得水準は1990年の日本以上であり、この部分の打ち止め感はあるはずだ。ということは、これ以上の地方からの移動を都市部が受け入れる余地はないはずで、成長の持続も難しいだろう。

第4に、中国経済の成長は、この10年は完全に内需主導であり、この内需は、個人消費のほとんどは、不動産投資収益、含み益により、ぜいたjくをしてきた消費者による部分が大きい。そして、土地神話はまさに神話であったから、これがいったん崩れると修復は不可能であり、北京や上海は今も上がっているというが、それは相対的に一部に残っているだけのことであり、崩壊が広がるにつれて、こちらも投資は減るであろう。

第5に、日本の住宅バブルは、実は崩壊しなかった。なぜなら、ほとんどの日本人サラリーマンは真面目であるから、大半は日常の住居用の自宅をローンで購入しただけであり、投資用物件に手を出したのはごく少数だった。あるいは都市部の兼業農家などが土地を売ったりアパート経営をしたりという部分だけだった。

したがって、バブルが崩壊しても、誰も投げ売りをせず、異常な高値で買ってしまった自宅のローンを、小遣いを減らして、せっせと忍耐強く返し続けた。

だから、日本の個人消費は大きく収縮し、コスパがすべてとなった。中国では、これと比べ物にならないほど悲惨なものとなるであろう。なぜなら、個人の住宅購入額の半分以上は投資物件だからである。誰も住まない。せっせとローンを返す必要はないかもしれないが(ローンの割合が低いから)、逆に無理して払ってしまった金は戻ってこない。より悪い。今後、ぜいたく消費は激減するだろう。

バブル崩壊長期化でも、中国の未来技術は飛躍的に発展

このように見てくると、中国不動産バブル崩壊は、実体経済にも長期的も、大きな悪影響を与えるであろうと私は考える。

一方、最新技術への投資、EV(電気自動車)、電池、AI(人工知能)などへの投資、人材、研究開発においては、中国はアメリカと一騎打ちの体勢となるぐらい行われているから、将来への芽、投資は衰えていないどころか、加速している。

したがって、不動産バブルの影響は今思われているよりもはるかに大きいが、同時に、中国の未来の技術、経済、企業も、今思われているよりも飛躍的に伸びるであろうと私は考えている。長くなったので、また続きはどこかで議論したい(本編はここで終了です。この後は筆者が週末の競馬レースを予想するコーナーです。あらかじめご了くだ下さい)。

競馬である。

9日の土曜日、日本時間の深夜、アイルランド(愛国)でアイリッシュチャンピオンステークス(国際G1、距離2000メートル)が行われる。

このレースには、われらがディープインパクトのラストクロップ(最後の世代)にして、欧州で英国ダービー、愛国ダービーを連覇したオーギュストロダンが出走する。

ディープの仔、オーギュストロダンの世界一に期待

ディープの血は、彼によりさらに欧州にも広く伝わることにはなっているが、「さらなる良血の嫁」を集めるためにも、ここも勝って、現在、世界的に最も種牡馬としての価値を高めるレースと言われる英国チャンピオンステークスも勝ってほしい。

日本ではフランスの凱旋門賞があまりにも有名だが、あまりに馬場が特殊すぎて、ここを勝った馬が世界最強の評価を得るのではなく、欧州で最も価値のあるレースは英国チャンピオンステークスである。次に、7月に行われる英国のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスだ。

このレースで最下位に惨敗したオーギュストロダンは今年で引退の予定のため、なんとしても最後大一番を連勝して世界一に君臨してもらいたい。

チャンピオンステークスはレパーズタウン競馬場で行われるが、アイルランドの競馬場はファーム(硬球)路面で有名なカラ競馬場(愛ダービーが行われる)をはじめ、全般的に欧州の中では日本調教馬向きの馬場が多い。そのため、ディープ産駒のオーギュストロダンにも向いているから、何とかここは完勝してほしい。ディープよ、永遠なれ!

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(小幡 績 : 慶應義塾大学大学院教授)