損保ジャパンの白川儀一社長(左)は自ら主導したビッグモーターとの取引再開について「軽率な判断で深く反省している」「大きな経営判断ミス」と謝罪した(撮影:尾形文繁)

「ビッグモーター不正」問題をめぐって、損害保険ジャパンは9月8日に記者会見を開き、白川儀一社長が引責辞任することを表明した。

「辞任しないと(現場が)もう持ちません」

白川氏が親会社SOMPOホールディングスの櫻田謙悟グループCEOに電話し、辞任の意向を伝えたのは8月29日のことだ。櫻田氏らは当初、9月下旬をメドに記者会見を開き、保険金の不正請求をめぐる一連の経緯について説明し、さらに白川氏の辞任についても発表する予定だった。

しかしながら、いったん中止していたビッグモーターとの取引再開を白川氏自身が昨夏に主導していたことや、出向者が不正請求に関する証言内容の改ざんに携わっていたことを経営陣が取引再開前に認識していた事実が、8月末以降も次々に表面化した。

犯罪行為に目をつぶるかのような経営判断に、契約者や代理店の怒りが日増しに高まり、歯止めが利かない状況に陥ったことで、会見予定を大幅に前倒しせざるを得なくなってしまった。

3時間半の会見でもスカスカの中身

損保ジャパンは白川氏の辞任表明で、何とか事態を鎮静化させ早期に幕引きを図りたかったはずだ。

ところが、櫻田氏や白川氏が3時間半にわたる記者会見で語ったことといえば、すでに報道などで判明している事実ばかり。それ以上の詳細については「外部の調査委員会が調査中の事柄なので」「調査委員会による報告を待ちたい」といった受け答えにとどまり、中身はスカスカだった。

さらに櫻田氏は、自らの経営責任について何度も質問されながら、執拗に直接的な言及を避け、会見場に集まった報道陣をあきれさせる有りさまだった。

ビッグモーターと損保ジャパンの癒着に関する外部調査は、早ければ11月にもまとまる予定だ。昨夏の取引再開に至る経緯や、経営陣の不正請求に対する認識の時期といった詳細はそこで明かされることになる。

一方で、報告書によって櫻田氏が一連の問題について認識した時期が相対的に遅く、早期に対策を打つことは難しかったため責任は小さい、となるかといえば答えは「否」だ。


4月まで経済同友会の代表幹事を務めていたSOMPOの櫻田謙悟グループCEO。重要な情報が1年以上も報告されないという経営管理体制を敷いていたことの責任は重い(撮影:尾形文繁)

癒着よりも根深い問題がある

櫻田氏は会見で、出向者が不正請求に関する証言内容の改ざんに携わっていたことについて知った時期を、「2023年7月だった」と話している。事実だとすれば、経営判断をするうえで極めてクリティカルな出来事について、白川氏が知った1年後にようやく報告を受けたことになる。

損保ジャパンの取締役を兼務していながら、同社で発生していたコンプライアンス(法令順守)上の大問題について、それほどまでに情報が上がってこない人物が、グループのトップに君臨し続け、信頼回復につなげていくことが果たしてできるのか。

立ち入り検査に入った金融庁が最も問題視しているのは、ビッグモーターとの癒着よりも、不正請求への対応をことごとく誤り、隠蔽に加担してしまう企業統治の深刻な機能不全だ。不正の認識時期による経営責任の有無に、櫻田氏が今後もこだわり続けるのであれば、金融庁から容赦なく引導を渡されることになりそうだ。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)