神姫バスが運行する書写山ロープウェイ。バックヤードツアーでは技術員が動くゴンドラの上での点検作業を実演した(記者撮影)

兵庫県姫路市の姫路駅の北口は、真正面に国宝・姫路城を望む街の玄関口だ。その外観から白鷺城の愛称を持つ姫路城は、1993年に法隆寺地域の仏教建造物と同時に日本で初めての世界文化遺産に登録された。2023年は登録30周年の記念事業が目白押しだ。

姫路駅へは新幹線で東京や九州から乗り換えなしで来ることができる。そのほか、新快速が駆け抜ける山陽本線や赤穂線、特急「はまかぜ」が走る播但線、本竜野・播磨新宮方面と結ぶ姫新線など、複数のJR在来線が乗り入れる一大ターミナルだ。少し離れて、百貨店の建物と一体になった山陽電気鉄道の山陽姫路駅がある。

駅前に発着する路線バス

交通手段が充実しているのは鉄道ばかりでない。駅前では城をバックに記念写真を撮る観光客の姿が目立つが、そこにどうしても写り込んでしまいそうなほど数が多いのが神姫バスの車両だ。JRと山陽電車の両駅の間にバスターミナルがあり、市内各方面への路線のほか、運賃100円のレトロ調ボンネット型バス「姫路城ループバス」、大阪伊丹空港と結ぶリムジンバスが発着する。北口から姫路城へ向かってまっすぐに延びる大手前通りでは何台ものバスが列をなす光景がみられる。


姫路駅前から延びる大手前通りは神姫バスの車両だらけになることも(記者撮影)

その駅前から路線バスで約30分、終点で「書写山ロープウェイ」に乗り継いで行ける観光地が書写山圓教寺。岩山の中腹に建つ摩尼殿や、大講堂・食堂・常行堂の「三つの堂」といった伽藍を有し、「西の比叡山」と称される名刹だ。西国三十三所巡礼の第27番札所として参拝客でにぎわう。映画「ラストサムライ」や大河ドラマ「軍師官兵衛」でロケ地となったことから、もう1つの意味の聖地巡礼に訪れる観光客も多い。


終点に到着した書写山ロープウェイ行き。この車両は西日本で初めて導入した燃料電池バス(記者撮影)

書写山ロープウェイの旧駅舎であるふもとの待合所にはラストサムライの撮影で訪れたトム・クルーズ、渡辺謙両氏のサインが飾られている。一方、山上の旧駅舎は2022年3月、展望デッキ「ミオロッソ書写」としてリニューアルオープンした。

山上への足も神姫バスが担う

山上へのアクセスを担う書写山ロープウェイもまた、神姫バスが運営している。1958年に開業した姫路市の施設で2006年から同社が指定管理者となっている。全長は781m、高低差211m。乗車時間3分50秒で結ぶ。毎時00分・15分・30分・45分に発車。運賃は大人片道600円、往復1000円だ。2018年3月に新しくなったゴンドラは4代目にあたる。

ゴンドラを引っ張る曳(えい)索2本とレールに相当する支索1本の複線交走式普通索道という方式で、ロープでつながっている上り便と下り便は同時に発車する。書写山の場合、ふもとの駅にモーターがある機械室と運転室を配置。支索は山上で柔軟性がある緊張索を介し75トンのおもりをぶら下げることによって張られている。このような「山麓運転」は例が少ないという。

書写山ロープウェイは8月下旬の土日の午前と午後の計4回、それぞれ約10人を募集して「バックヤードツアー」を開催した。副所長の野村昌寛さんが「山の下に機械室があったほうがメンテナンスがしやすいですが、山の上ではより大きなおもりで支索を引っ張る必要があります」といった解説をしながら、巨大な滑車が回転する機械室など普段は立ち入れない場所を案内した。技術員の村上富彦さんは動くゴンドラの上に登り、空中で点検する様子を実演。参加者は驚きの声を上げながら眺めていた。


バックヤードツアーの参加者は年齢層が幅広かった(記者撮影)


ふもとの機械室。運転中は巨大な滑車が回転する(記者撮影)

その後、参加者は貸し切りの臨時便で山上に移動。こちらも通常は非公開の「山上重錘室」で、運転中におもりがゆっくりと上下に揺れる様子を見学した。副所長の野村さんは今回のバックヤードツアーの企画について「普段入ることができない場所を見て学ぶことで身近に感じていただき、『空宙山歩』を楽しむ乗り物として利用してもらいたい。書写山ロープウェイの独自の魅力も発信していきたい」と話していた。


技術員の村上富彦さん(左)と副所長の野村昌寛さん。運転室はふもとにある(記者撮影)

観光バスのようなアナウンス?

書写山ロープウェイには山麓運転の方式や、プラットホームでゴンドラを固定する「はね上げ式桟橋」など、乗り物としてユニークな見どころがある。

所長の西村浩さんは「バス会社の安全最優先の運行管理が強み」と語る。ゴンドラ内では観光ガイドが毎回マイクを握り、上り便では圓教寺の参拝案内、下り便では姫路市内の観光案内をしている。6人の観光ガイドのうち5人は「バスガイドの経験者」という。こうした点にもバス会社ならではの特徴が表れている。


ゴンドラ内では観光ガイドが案内をする(記者撮影)

コロナ禍前の2020年4〜7月と比べると書写山ロープウェイの利用は4分の3ほどの戻りだが、最近は回復傾向が強まっているという。姫路城はたくさんの観光客で混雑するうえ、駅からはバスに乗らずに徒歩で行ける距離にある。神姫バスは駅から220円区間の2日間乗り放題と書写山ロープウェイの往復が付いたセット乗車券などで、姫路エリアの周遊を喚起する。

全国的にオーバーツーリズムが指摘される中、路線ネットワークを生かしてほかの観光スポットへの誘客に結び付けられるか。地元バス会社の腕の見せどころと言えそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)