意外と体力が必要な「しゃべる」こと。事前準備のコツと、「かもしれない思考」を紹介します(写真:Ushico/PIXTA)

「プレゼンでもっとうまく話せるようになりたい……」「会議でオロオロしないようになりたい……」

ビジネスパーソンの皆さんの中には、こんな悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。

しかし、『国分太一 Radio Box』『レコメン!』などの番組で知られる人気構成作家・永田篤さんは「この際、トーク上手になることはあきらめましょう。控えめでも、しゃべらなくても、考え方やふるまい、ささいな一言だけで素敵な人間関係を築くことができます」と語ります。

本記事では永田さんの初著書『だから僕は、しゃべらない』から一部抜粋し、しゃべる前の事前準備のコツについてご紹介します。

リハーサルをしてみよう

しゃべることには、意外と体力が必要です。普段あまりしゃべらない人でも、ときにはたくさんしゃべらないといけない場面があると思います。仕事でのプレゼンであったり、スピーチであったり……。

やり慣れてないことなので、たくさん話し続けていると疲れてきます。単純に口も疲れますし、カンペなどなしでしゃべるのなら、頭も疲れます。立ったまましゃべると体全体も疲れますし、なにより緊張する場面がほとんどだと思うので、精神的に疲れます。特殊な状況なのに、マイナスな要素ばかりですね。

こんな場合、理想としては、事前に同じ状況でリハーサルみたいなことをやるといいです。本番で立ちながらの予定でしたら、実際に立ってしゃべってみましょう。練習することで、自分はこれだけ練習したんだからという自信につながります。

・頭を使ってしゃべるのが疲れる場合

「持ち時間5分です」と言われたのに、すぐに話が終わってしまいそうな場合。ラジオ番組だと、構成作家がカンペで質問を出して、無理やりにでも話を引き延ばさせることができるのですが、みなさんはそうもいきません。当日その場で頭を使って考えるのは大変です。アドリブでたくさん話せないなら、事前に準備をしておけばいいのです。

自分でカンペをつくるのもいいですし、ネットで検索してフリー素材の話を拝借してもいいと思います。周りの経験者に相談するのもいいと思います。苦手なら入念な準備、これに尽きます。

・体力的にしゃべるのが疲れる場合

そして、体力的にしゃべり疲れてしまう場合。これには、必要以上に声を出さないことです。最近のマイクは高性能で、小さな声でも拾ってくれます。自分が小さな声だと自覚があるのなら、マイクに近づけばいいのです。

声が小さすぎても聞きづらいですし、大きすぎても聞きづらいので、話を始めるときに、自分の声がいい感じのボリュームで聞こえているのか、周りの反応を確かめてもいいですよね。活舌がいいと小さな声でも聞こえやすくなりますから、より省エネでトークできるように、口の準備体操をして事前に口が動くようにしてもいいかもですね!

・たくさんしゃべるのが疲れる場合

とまあ、ここまではプレゼン・スピーチ想定の話でしたが、お友達とのグループなどでたくさんしゃべることに慣れてない人の場合です。もしこれで悩んでいるのなら、「なぜたくさんしゃべらないといけないんですか?」という質問をしたいです。

友達との間なら、人にはそれぞれキャラクターがあって、いろんな人がいるから楽しいんです。しゃべらないのも個性です。言葉数が少なくとも、疑問に感じる必要はありません。トータルで楽しい時間が過ごせたらいいんですよ。

それでもたくさん話す人になりたいという方。もしかして、好きな人が「たくさんしゃべる人がタイプ!」と言っていたのでしょうか。それを目指すのもまた人生ですね。

そんな方にアドバイスするなら、まずはたくさん話すことを許してくれる方を相手に、心を開いて、なんでもいいので話してみましょう。実はこの「心を開く」ということが難しいのです。家族だからこそ言いたくないこともあるでしょうし、お友達がリアクションよく話を聞いてくれたらベストかもしれませんね。要は、話すことの楽しさに気づけばいいのです。そうすれば、もっと自分から話したいと思うようになるでしょう。

アプリを使って簡単にネットでラジオ配信ができるなど、すごい時代になったものです。僕は別にみなさんそのままでいいと思いますが、変わりたいと思っているなら、いろんな練習場所があります。ご検討よろしくお願いします。

ネガティブ思考は成功のもと

ところで、僕はものすごくネガティブな人間です。いきなり何の告白だって話ですが、一瞬で「そのとき起きたら一番嫌なこと」を想像してしまうような性格です。

たとえば、エスカレーターに乗ったら「前の人が転がり落ちてくるかも?」、橋を渡ったら「地震が起きて落ちるかも?」「端っこを歩いたら突風が吹いて川に落ちるかも?」、久しぶりに連絡をくれた方がいたら「お金貸して! とか、絵を買いませんか? とか言われるのかも?」、いつも仕事をしている知り合いから電話がかかってきたら「クビを宣告されるかも?」とか考えてしまいます。誇張じゃなくけっこうそんな感じです。

しかし、このネガティブ気質、ラジオスタッフとしては必要な感覚なのではないかと思っています。なぜなら、僕は長い構成作家人生で、ネガティブなことを考える中で生まれた発想や対処法が、自分を成長させてくれたと思っているからです。一度経験したことは、次の機会でよりスムーズに対応できるはずです。経験の積み重ねは財産ですね。

普段の生活ではネガティブに考えないほうが楽しく生きられると思いますが、仕事では、「きっとなんとかなる」というようなポジティブな思考だけでは、万が一トラブルが起こったときにすぐ対処できるか不安です。だからこそ、物事の少し先を「悪いほうに」読むことが大事だと思うのです。

たとえば、ラジオの収録中も、「パーソナリティさんが全然おしゃべりする気分じゃなくて盛り上がらないかも?」とか、「メールから放送に乗せられないような変な話に派生してしまうかも?」とか、「突然パーソナリティの知り合いが乱入してきて準備してきた内容が全部お蔵入りになってしまうかも?」など、可能性が少ないことも含めて、頭の片隅でいろんなことを想像し、それに対して対処法を想定するようにしています。

突然パーソナリティの知り合いが乱入してきたらすぐに席をつくってラジオに参加できるようにしてあげるとか、パーソナリティに質問を用意してあげるとか、だから、想像の中ではいつ乱入していただいても大丈夫です。

働くすべての人にとっても、こうやって想像を働かせることによって、もし何かあったとき、とっさに対応できるようになるのではないでしょうか。

過去に、いつも入り時間よりも少し早く入るパーソナリティさんが入り時間になっても来なかったことがありました。なんか変だなと違和感を持ち、これは何か大きなことが起きているのではとマイナス思考を発揮させ、打ち合わせで読んでもらう予定のメールの量を減らす作業を始めました。その後連絡があり、結局、そのときのパーソナリティさんの入り時間は30分遅れ。大幅な遅れとなりましたが、打ち合わせ時間をタイトにしたことで、問題なく収録を終えることができました。

みなさんも、想像によって自分がパニックになったりしなければ、できるだけたくさん想像しておいていいと思います。

未来が好転するネガティブ・トレーニング

とはいっても、みなさんがすぐに「ネガティブに考える」を実践するのは難しいかもしれません。ここでは、僕がどんなふうにネガティブに考えているか、もう少し詳しく説明します。


先ほども書きましたが、考え方の基本は「嫌なことが起きるかもしれない」という、「かもしれない思考」です。

想像力をめぐらせて、そのときにこんなことが起こったら嫌だな、を脳内でシミュレーションしましょう。過去に経験済みのことなら想像しやすいですし、職場なら事前に過去に起きたアクシデントについて先輩に質問するのもいいかもしれません。いざ何かあったとき、想定内の出来事かどうかで、自分の動きは変わるはずですから。

僕が具体的にラジオの現場でやっていることだと、たとえば先にマネジャーさんやレコード会社の方などのスタッフさんが来た場合は、前後の仕事が大変な仕事かどうか聞いて、タレントさんの状況を想像しています。

レコーディング後なら喉が開いているので元気ですし、後ろにレコーディングを控えている方なら、ちょっと声のボリュームを抑え気味にすることもありますから。

また、その収録と同じ時間、もしくは前後の時間に、ほかのスタジオでゆかりのある人が収録していないかもチェックしています。先輩だったらごあいさつに行ったりしますし、「ちょっと出演してってよ」って話になれば、面白い展開になりそうですよね。

時間があれば、台本や紹介する予定のメールを何度も読み返して、文字の表記ミスのチェックをしたり、ふりがなを振ったり、さらに、メールからのトークの展開を想定し、調べておいたほうがいいことをスマホで検索して調べたりします。この検索からの情報は、実際放送の中で役に立たないこともたくさんありますが、知識になるので無駄ではないと思っています。

(永田 篤 : 構成作家)