資源エネルギー問題への関心が高まり、「世界エネルギー地図」が変化する今こそ、日本再生の大好機であるといいます(写真:metamorworks/PIXTA)

ウクライナ侵攻以降、資源エネルギー問題への関心が高まっている。世界的な地球環境保全や脱炭素の流れの中で、今後、日本の資源エネルギー政策はどうあるべきか。また、資源で見る世界地図はどう変わるのか。

前回に続き、各紙書評で激賞されている『世界資源エネルギー入門:主要国の基本戦略と未来地図』​を上梓した早稲田大学教授の平田竹男氏に、経済評論家、キャスターとして高い人気を誇り、現在、国際社会経済研究所理事長を務める藤沢久美氏が話を聞いた。

基軸通貨ドルの危機

平田竹男(以下、平田):前回、ロシアがなぜこれだけエネルギーの主役になれたのかという話をしました。国営企業で積極的に投資し開発したこともありますが、もう1つ、サウジアラビアと組んだということが大きいですよね。OPECのシェアが落ちていって、価格の統制力がなくなったところで、ロシアが入ってきて、再び世界シェアを高め、発言力を高め、価格統制力を取り戻していきました。


つまり、サウジと組んだことで、ロシアが世界の資源価格の決定権を持った。OPECは石油ですが、それと連動して天然ガスの価格が決まるわけですから、世界で最も天然ガスを供給できる国が自分で価格を決められるようになった。これが一番大きかったですね。

現在、ロシアとサウジは切っても切れない関係になっています。それに加えて、サウジは中国とも接近している。ロシアはドル決済を見直し、サウジも中国との貿易を人民元で決済するという動きがあります。つまり、アメリカの強さに裏付けとなってきた基軸通貨ドルが揺らいできている。これは国際政治において大きなインパクトがありますね。

藤沢久美(以下、藤沢):結局、エネルギーの動向が通貨や覇権にまで影響している。

平田:世界最大のエネルギー輸入国がドルで払わないとなると、影響は大きいですよね。いま中東が大きく変化していて、アメリカの力が完全になくなるとは思いませんが、サウジとロシア、サウジと中国の関係が強くなっていきますので、相対的には低下していきますね。

最近では、サウジとイランの関係修復を中国が仲介したことがニュースになりましたが、中東という地域は、アメリカの仲介・影響力がなくなっていけば、ものすごく大きな力を持つことができる地域になるでしょう。

藤沢:イスラエルと中東諸国の関係も急速に改善されているのを見ると、中東も変わっていくのは間違いないでしょうね。その背景には、アメリカのシェール革命で、エネルギーを自活できるようになり、中東にコミットする必要がなくなったからですね。アメリカは自給自足し、中東はアメリカから離れて、ロシアや中国と組んで影響力を強めていく。

平田:現在の世界の軍事バランスを見ると、急激に変われるとは思いませんけれども、アメリカは、非常時に備えて、中東よりもベネズエラなど自国に近いところのエネルギーへ関心が向いていくでしょうね。

藤沢:その南米とアフリカにも目を向けなければなりませんね。


平田竹男/1960年大阪生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授。早稲田大学資源戦略研究所所長。(当時)通商産業省(現・経済産業省)、日本サッカー協会専務理事などを経て現職。著書に『スポーツビジネス 最強の教科書』等。(撮影:今井康一)

平田:アフリカは明確に欧州と組んでいきますね。現在、北アフリカから南欧のイタリアやスペインにパイプラインが通っていますけれども、それがさらに南に延びて行けば、アフリカのパワーを最大限に発揮できるようになるでしょう。

またアフリカの資源を取り込むことで、欧州は「脱ロシア」を果たしていくことができる。発電を見ても太陽光発電や太陽熱発電でアフリカ欧州間を送電線がつながって行きます。

アフリカはセネガルからアルジェリアまでパイプラインを通す計画があります。そんなものが本当にできるのかと思うのですが、エネルギーの世界では実現してしまうんですね。

世界で加速するパイプライン建設

平田:私が一番驚いたのは、中国とトルクメニスタンやウズベキスタン、カザフスタンといった中央アジア諸国との間にパイプラインが通ったことです。トルクメニスタンという国は天然ガス資源は豊富にあるけれども大陸の中央で出口がなくどこにも売れないというイメージの国だった。また、ミャンマーと中国にもパイプラインが通っている。シベリアと中国もパイプラインがつながっています。

アフリカでは南スーダンで石油がどんどん出ますし、その上のエジプトは経済的に弱い国でアメリカの最大の支援国の1つだったわけですが、そのエジプトで天然ガスが出て、イスラエルもガスが出て、かつては幾度も戦争してきた両国がパイプラインでつながって関係が良くなっている。

アフリカという地域は、暗黒大陸などと言われてしましたが、エネルギーで一気に変わりました。われわれも見方を変えていかなければいけません。資源が出る国というだけでなく、パイプラインが通過する国であっても、そこを通過するということで、そこに産業が興る基盤ができるわけです。

藤沢:アフリカの発展は思っているより早いかもしれないですね。

平田:早いでしょうね。人口構成も若いですから。天然ガスのパイプラインとあわせて、太陽光や太陽熱、風力によるエネルギーが送電線でつながるわけですから、発展の礎である電力の問題はあまり心配しなくてよくなる時代が近くなるかもしれません。

平田:南米はどうなるかというと、ブラジルがお手本で、これもペトロブラスという国営企業が中心となって成長していきました。現在、アフリカやメキシコ湾の深海の掘削を行っているのはほとんどペトロブラスです。当初は、リオデジャネイロ沖の深海を掘るなんてとみなにバカにされていましたが、次々に資源が発見されて成功した。その技術は一番です。バカだと言われてもやり続けることが大切なんですね。


藤沢久美/国内外の投資運用会社勤務、ソフィアバンク代表等を経て、現在、独立シンクタンク・国際社会経済研究所理事長。その間、経済評論家やキャスターとしても活躍。著書に『最高のリーダーは何もしない』等。(撮影:今井康一)

藤沢:先ほど、中東が変わりつつあるというお話でしたが、これまで日本は中東とは良い関係を築いてきましたけれど、日本と中東との関係が悪い方向に向かうことはないのでしょうか。

平田:ある意味、転換期かもしれませんね。カタールの天然ガスは日本の中部電力のサポートがなければ開発できていなかったものですけれども、今回、契約を日本側から打ち切ったわけですね。ウクライナ侵攻の前だったので、カタールとの契約がとても割高に思えたのでしょう。同じように、アブダビも契約が切れているわけです。ですから、今後は、中東のLNGとつながっていた国とはだいぶ関係が薄くなりますね。

日本は再生エネルギーへ向かうべき

藤沢:日本はいまだ化石エネルギーの大部分を中東に依存しているわけですが。

平田:石油のことは日本が一生懸命に開発に関わってきたプロジェクトも多く、私も関わらせていただいたのですが、こうなったら、化石エネルギーはオーストラリア、東南アジア、アメリカなどに絞り、そしてもう再生エネルギーに向かうべきだと思います。

現在のところ、結果として意図せざる「脱中東」がうまくいっているわけですから、ASEAN、オーストラリア、アメリカから買う。それは日本の安全保障にとってもプラスにもなります。中東は大事な地域ですけれども、今後、ウェイトは減っていくでしょう。

また、これから日本は産業の面においても、再エネに関する装置や機器などサプライサイドの技術に投資していくべきでしょう。この点では、中国にだいぶ先行を許していると言わざるをえません。

藤沢:そうすると、エネルギーとのつながりで、世界が縦割りになっていきますね。アフリカと欧州、日本とASEANとオーストラリア、真ん中は中東とロシアと中国と。

平田:それからインドですね。これから市場は成長していきます。中東とインドの関係が深まっていくでしょう。インドと中東は地理的にも近いですから。

藤沢:エネルギーによって世界地図が変わっていくわけですね。

平田:やはり輸出国となったアメリカが大きな影響を与えていく要素もありますが、アメリカで注意しなければならないのが、大統領が変わると、ガラッと政策が変わることですね。韓国とアメリカは政権による振れ幅がとても大きくなりますね。

藤沢:改めて、この本は学生だけではなく社会人も必読の書だと思いますし、とくに海外と仕事をされる方たちにとっては、地理や世界史では教わらないような各国の最新の情報を知ることができます。

また、最近は多くの企業で経済安全保障が重要ということで、安全保障室も立ち上げていますけれども、日本の情報は、アメリカの発信する情報に引き寄せられがちです。一度、この本に書かれているような世界のエネルギー事情やエネルギー地政学といったものを知ったうえで、アメリカ発の情報に接しないと、読み間違えてしまうかもしれません。

世界のエネルギー地図から見えてくるもの

平田:世界のエネルギー地図を知っておくことは、中国やアメリカ、インド、ロシア、欧州だけでなく世界各国の次の動きを予測する助けにもなるでしょう。

エネルギーの世界は、かつてのようにアメリカが君臨していた時代ではなくなってきています。新セブンシスターズと言われるように、アメリカ以外の国が力を持ち始めています。しかし、アメリカがエネルギーの世界から消えてしまうわけではありません。

欧州がロシアからの輸入を制裁している間隙をつき、カタールに負けずにアメリカからLNGが輸出されることになりました。新LNG輸出国として、また再生エネルギーの世界で、「新しいアメリカ」として君臨しようとしていることも事実です。産業の面でもテスラなど、ロックフェラー時代のアメリカとは違った覇権を握ろうとしているのかもしれません。

LNGの輸出に関しては、ベンチャー発の新興企業が中心となって、日本や欧州にLNGを売って成功しています。シェール関係の新興企業は、一時は苦境に立たされましたが、ウクライナ侵攻による資源高、欧州の脱ロシアの流れに乗って息を吹き返しています。

原子力発電については、ジョージア州ボーグル原子力発電所3号機が運転を始めました。1979年のスリーマイル島原発事故後、アメリカで新規原発の稼働は初めてで44年ぶりになります。東京電力福島第一原発事故のような電源喪失時でも原子炉を自動で冷却できる「革新軽水炉」というタイプの原発です。再生エネルギーや産業でも、EVがその象徴ですが、「新しいアメリカ」が世界を席巻するかもしれません。

いずれにしても、この先、より厳格な地球温暖化対策が要請される中、エネルギーの世界地図が大きく変化することは間違いありません。エネルギー政策に関して正しい選択をすることに、日本の将来がかかっていると言っても過言ではないでしょう。日露戦争から太平洋戦争にかけて、石炭から石油への切り替えを失敗した事態の二の舞にならないことを願います。

(平田 竹男 : 早稲田大学教授/早稲田大学資源戦略研究所所長)
(藤沢 久美 : 国際社会経済研究所理事長)