ファーストリテイリングの海外ユニクロ事業の売上高比率は約50%、国内ユニクロの約35%、ジーユーの約11%を上回る(撮影:今祥雄)

「ポスト柳井」の最有力候補となるのか――。

「ユニクロ」や「ジーユー」を展開するファーストリテイリングは9月1日、子会社である株式会社ユニクロの社長交代を行った。取締役の塚越大介氏(44)が代表取締役社長兼COO(最高執行責任者)に就任。これまで代表取締役会長兼社長を務めていた柳井正氏(74)は、代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)となった。

ユニクロは国内ユニクロ事業をはじめ、ユニクロのグローバルヘッドクオーター機能を担っている。2005年、ファストリが持ち株会社体制に移行した際に事業会社として発足。ユニクロの社長交代は初めてで、今後は柳井氏と塚越氏の2人が代表権をもつことになる。親会社であるファストリの経営体制は変わらず、柳井氏が代表取締役会長兼社長を務める。

社長就任は「既定路線」

「ああ、やっぱり」。ユニクロの社長に塚越氏が就任することを知ったファストリ関係者は、塚越氏の社長就任は既定路線だと話す。

塚越氏は2002年、大学卒業後に新卒でファストリへ入社。日本国内のユニクロ店長やFR-MICと呼ばれる社内教育部署の部長を務め、2015年にファーストリテイリングのグループ執行役員、2019年には上席執行役員に就任している。

中国事業のCOOを経て、2020年9月からユニクロUSAのCEOに就任。2022年9月にはユニクロ事業のグローバルCEOと、出世の階段を順調に上ってきた。引き続きユニクログローバルCEOは塚越氏が兼任するという。

ユニクロ社長抜擢の要因として考えられるのが、北米事業の黒字化だ。2022年4月、塚越氏は北米事業の責任者としてファストリ決算会見に登壇。そこで披露したのが「ユニクロ北米事業 事業拡大のステージへ」と題されたプレゼンテーションだった。

塚越氏はメディアやアナリストを前に、北米事業が2005年の参入から約17年かけて「創業以来、初の通期黒字化」が目前に迫っていると説明。そして実際、北米事業の2022年8月期は黒字で着地した。

ユニクロの北米事業は、2005年のニュージャージー州での出店を皮切りに始まった。当時を仕切っていたのは、柳井氏の右腕として知られていた堂前宣夫氏。コンサル大手のマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン出身で、1998年にファストリに転じた。

堂前氏は10年以上にわたり役員としてサプライチェーンや欧米事業などを管轄し、副社長も歴任。しかし2015年頃にファストリを去り、2021年からは「無印良品」を展開する良品計画の社長を務めている。

難題続きだった北米事業

北米事業の黒字化は簡単ではなかった。日本やアジアほど知名度がなかったため、ニューヨークのソーホーや5番街といった目抜き通りへ大型出店を進めたことで先行投資がかさんだ。こうした旗艦店は一定の効果を発揮したものの、進出10年が過ぎてもユニクロは知名度の低さに苦しみ続けた。

さらに衣料品の販売は天候に影響を受けやすく、高い精度での販売管理が欠かせない。アメリカはユニクロの多くの服を生産している中国から距離があり、商品管理の難易度が高かった。

冷夏や暖冬の影響で計画未達となるたびに、値引き販売を強いられた。売り上げ予測が難しいうえ、販売好調な商品も再入荷まで日数がかかるため機会ロスが出てしまう。塚越氏は、北米事業のこうした課題と向き合う必要があった。

2022年4月の決算会見で塚越氏は「事業構造の大改革を実行した」と説明した。不良在庫を一掃して商品発注や販売期間の管理を強化することで、値引きに依存した販売慣習からの脱却を目指した。

商品仕入れ日数の問題については、船便より短い日数で着荷できる航空便を活用。売れ筋商品の追加投入を迅速にできるようにした。こうした取り組みの結果、粗利益率(売上高に占める粗利益の占める割合)はコロナ前に比べて約8ポイント改善した。

並行して赤字店の閉鎖を進め、人件費や家賃など固定費も削減した。塚越氏がユニクロUSAのCEOに就任した2020年以降、コロナの影響でニューヨークやサンフランシスコといったアメリカ主要都市部では観光客をはじめとした人流が減少し、実店舗は大きな打撃を受けた。

ユニクロは西海岸初の店舗だったサンフランシスコ・ユニオンスクエアの約800坪の店舗、ニューヨーク中心部の34丁目にあった1000坪規模の店舗などを閉鎖。いずれもアメリカ本格進出を象徴する旗艦店だったが、メスを入れた。その他の既存店舗では賃料の見直しを進めている。

こうして約17年に及ぶ苦節の末、ようやく達成した北米事業の黒字化。前出のファストリ関係者は「塚越氏は、先人達が積み上げてきたノウハウ、一方で失敗などもきっちり取り込みながら成功を収めてきたのではないか」と評価する。

ユニクロ社長就任で何が変わる?

今後の焦点は、何と言ってもポスト柳井の行方だ。塚越氏がユニクロの社長に就任したとはいえ、経営の意思決定などには柳井氏が深く関わることになるのは確実だ。


ファストリを率いる柳井正氏も今年で74歳。40年近く社長を務め、グループの成長を率いてきた(撮影:尾形文繁)

ファストリ側もリリースで「(柳井氏は)今後も代表取締役会長兼CEOとして、経営の意思決定および事業拡大をリードしていきます。また、柳井は、株式会社ファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長としても、これまでと同様にグループ全体の経営の意思決定ならびに経営執行を担っていきます」と表明している。

このため「ユニクロの社長に就任しても、グローバルCEO時代と実質的には変わらないのではないか」と見る市場関係者も少なくない。柳井氏の後継者をめぐっては、過去に候補と目される人物が何人も現れてはファストリを去っていった。結局は柳井氏自らが舵取りし、アパレル業界で世界3位まで上り詰めて今に至る。

次世代の経営について柳井氏は「チーム経営」を標榜する。その中で塚越氏が、中心的な役割を担うことになるのか。北米事業を立て直した手腕を、ユニクロ事業全体でも発揮することが期待されていることは間違いない。44歳の次世代リーダーの活躍に注目が集まる。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)