ラーメンの「背脂」増量や無料サービスをめぐり、激しい議論が起きている(写真はイメージです/写真:kuri2000/PIXTA)

「ラーメン二郎」、横浜家系ラーメンなど、お客さんが自分の好みにカスタマイズできるラーメン店は昔から人気だ。人の味の好みは千差万別、それぞれの好みの味にカスタマイズできるのは大きな魅力である。

そんな中、最近X(旧Twitter)上で、「背脂」の追加についての激しい議論が起きている。

「背脂」追加料金をめぐり、議論が起きる

とあるラーメンインフルエンサーがラーメン店を訪れて「背脂多めできますか?」と注文。背脂多めのラーメンが提供され、いざ会計の際に伝票を見ると100円の追加料金が課されていたとのこと。

メニューに背脂増しの料金は記載されておらず、注文の際に追加料金の案内もなかったとひと悶着あり、最終的にはお店の落ち度ということで無料でサービスされたという流れだ。

これに対してX上では、「背脂追加は無料が当然」「追加料金がかかるならメニューに記載すべき」という肯定的な意見から、「無料トッピングが当たり前と思ってはいけない」という否定的な意見まで喧々諤々の議論が起きている。

この事案について筆者の個人的な見解を述べる前に、ラーメン業界が今置かれている事情について解説していきたい。それは、背脂が今、歴史的な高騰を見せていることについてである。

丼の上に雪のように背脂を振りかける背脂チャッチャ系や二郎系ラーメン、新潟の燕三条背脂ラーメンなど、人気のラーメン店には欠かせない豚の背脂。豚骨スープにうまみや深いコクを与える無くてはならない存在だ。この背脂が現在、供給が不足し、価格が高騰する一方なのである。

JA全農ミートフーズ株式会社が公表しているデータによると、豚脂の価格は、令和3年4月は80円/kg程度だったが、同年の12月には110円/kgとなり、令和4年7月には190円/kgを記録した。その後は175円/kg程度で推移しており、一時よりは落ち着きつつある一方で、2年前と比較すると2倍以上の価格となっている。また、背脂の等級によっても金額が違い、背脂の質にこだわっている店では、さらに高くなる傾向にある。


80円/kg程度だったのが……(出所:JA全農ミートフーズ株式会社)


短期間で190円/kg程度まで上昇。平均値でこれなのだから、質のいい豚脂の高騰はよりすさまじいと想像できる(出所:JA全農ミートフーズ株式会社)

かつては捨てる部位だった背脂は今や高級品になりつつあり、無料の背脂増しは正直厳しい状態にあるといっていい。

無料トッピングが「当たり前」のようになってきた歴史

東京・高田馬場にある「博多ラーメン でぶちゃん」の店主・甲斐康太さんは、今回の件をX(旧Twitter)で痛烈に批判。この投稿を機に、議論はより加熱していくことになった。

「なんでも無料だと思っているのか。注文したら加算されるのはおかしな事ではない。何故イラッとするのか。

当店も注文の都度説明なんかしない。お酒濃いめとか良く言われるけど。コストがかかってる以上は当たり前の話すぎて。「あ、そうなんですね!」で済む話ではないですかね??

パーソナライズをお願いしてたら尚のこと。

本来は無料な事が感謝されるべき。有料なのは当たり前。くらいの感覚でいるべき。勘違いするな。」(博多ラーメンでぶちゃん・甲斐康太さんのXより)

ラーメン業界においては、無料サービス、無料トッピングが「当たり前」のようになってきている歴史がある。

「ラーメン二郎」ではニンニクあり、ヤサイマシ、アブラ多めのサービス。博多ラーメンでは紅生姜、辛子高菜、ニンニクのサービス。横浜家系ラーメンでは麺のかたさ、味の濃さ、油の量を選べるサービス、ニンニク、豆板醤、生姜などの卓上アイテム、一部の店でのライス無料のサービス……などなど、さまざまな無料サービス、無料トッピングの例が思い浮かぶことだろう。

これらは、あくまでもお店側のサービスである。だからこそ、提供されるサービスにはお店ごとの違い、有無があっていいはずだが、ラーメン業界の現状を見る限り、いつの間にか「サービスがあって当たり前」の状況ができてしまったのだ。

しかし、ここ最近は、背脂をはじめ食材の価格高騰のあおりを受けて、無料サービス、無料トッピングをやめ、有料に切り替えているお店もある。今回の背脂追加100円のお店もその一例だろう。筆者の取材に対し、「でぶちゃん」の甲斐店主は語る。

「日本には『リスクはゼロであるべき』『リスクが少しでもあるならば見直すべき』というゼロリスク信仰がありますが、ラーメン店においてはそれを行うのが正しいとは思いません。

お店に来ていただける大多数のお客さんに喜んでいただくことが大切で、一部のクレームに対して都度対策を講じる必要はないと思います。

今回の件についても、背脂を追加するお客さんがたくさんいるならばメニューに記載すべきだったかもしれませんが、ごく一部のお客さんに限られるならば記載の必要はないでしょう」(甲斐さん)

人気ラーメン店「渡なべ」の店主・渡辺樹庵さん、「なるめん」の店主・道理大樹さんはYouTube「渡辺樹庵のここだけの話」の中で、卓上調味料は今後なくなるかもと危惧する。

「最近サイゼリヤが無料の粉チーズを廃止したというニュースがありました。詳しい理由はわかりませんが、間違いなくコストの問題だと思います。この波はこれからも続いていくと考えられ、すでにもう卓上調味料は置きたくないというラーメン店は多いと思います」(道理さん)

本来ならば有料であるサービスやトッピング

今回の件は、背脂追加がもし有料ならば、お店側が先に伝えておくべきだったかもしれない。

だが、それとは別問題として、無料サービスや無料トッピングが今後続けられるかは、コストの面で厳しくなってきている現実がある。この取材を通して、ラーメンライターとして活動する筆者自身も、無料サービスやカスタマイズができることが当たり前ではないのだと襟を正した。

何事にも、コストや原価はかかる。本来ならば有料であって然るべきサービスを、店側が無料で提供してくれていることも少なくないことを、改めて認識したいものだ。


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(井手隊長 : ラーメンライター/ミュージシャン)