月に7冊読むだけで、あなたは読書量において日本人の上位3%に入ることができるのです(写真:花咲かずなり/PIXTA)

日本人の半数は本を読まず、平均だと月1冊程度とされています。ここから考えられることは? 精神科医である樺沢紫苑氏が脳科学的な裏付けをもとに「記憶に残す、どんどん頭がよくなる読書術」をまとめた著書『読書脳』から一部抜粋、再構成してお届けします。

なぜ、ライバルはいつも準備ができているのか?

職場で、あなたがライバルだと意識する人はいませんか?

上司が「この書類、明日までにまとめてくれる人はいないか?」と言うと、ライバルはさっと手をあげます。いきなり任されたその仕事を明日までに終わらせるには、資料の読み込みや事前の情報収集が必要なはず。あなたは一瞬躊躇しましたが、ライバルはすぐに反応します。職場で要領良く仕事をこなす「できる奴」というのは、なぜかいつも「準備」ができていて、チャンスが訪れると物凄いスピードでかっさらっていくものです。

ライバルはいつも「準備」ができているのに、なぜあなたは「準備」ができていないのでしょう。それは、ライバルは頭の中に、自分だけの「キッチンスタジアム」を持っているからです。

昔、『料理の鉄人』というテレビ番組がありました。キッチンスタジアムを舞台に、道場六三郎、陳建一などの料理の鉄人に毎回、挑戦者が挑み、審判がジャッジ、勝敗を決めます。

最初に「本日のテーマ食材」が発表されます。キッチンスタジアムには、テーマ食材の他、たくさんの食材が用意されています。テーマ食材が発表された直後に開始のドラが鳴り、鉄人と挑戦者は瞬時に料理の構成を組み立て、食材を持ってきて、すぐに調理スタート。制限時間は、わずか60分です。そのたったの60分で、鉄人と挑戦者は4〜5品にも及ぶ素晴らしい料理を完成させるのです。

鉄人と挑戦者の調理の手際の良さ。時間制限による緊迫感あふれる展開。実況中継のおもしろさなどがあいまって深夜の放送にもかかわらず人気番組となっていました。

さて、質問です。なぜ鉄人たちは、「たったの60分」で、審査員をうならせる素晴らしい料理を作ることができたのでしょうか?

1つには、もちろん料理人の腕があります。そしてもう1つは、新鮮で質の良い肉、魚介、野菜が、既にキッチンスタジアムに並んでいたからです。当然ではありますが、キッチンスタジアムに食材が並んでいなければ、「買い出し」から始めなければいけないので、60分で料理を完成させることはまず不可能です。

ここで話を戻しましょう。あなたは上司から急に「この書類、明日までにまとめてくれる人はいないか?」と言われる。でもその書類をまとめるには、関連資料や関連書籍を調べて読み込む必要があります。上司に言われてから、必要な資料や情報を集める。足りない分は関連書籍を注文する。そんなことをしていては、明日の締め切りに間に合うはずがありません。

いざというときの知識・情報が「本」にある

つまりあなたの頭の中には、普段からいわば「キッチンスタジアム」を作っておかなくてはならないということです。そこには自分の仕事や専門に関する大量の知識・情報がわかりやすく整理されて、陳列されている……。この知識・情報をもたらしてくれるのが、まさに「本」なのです。

読書によって頭の中に「キッチンスタジアム」を事前に作っておけば、「明日までに資料をまとめてくれ」と急に言われても焦る必要はありません。頭の中から取り出すだけなので、1秒もあれば「高級食材」も「新鮮な魚介」も用意できる。その「上質な食材」を使って、すぐに調理にとりかかることができるのです。つまり、開始のドラが鳴った直後から「資料をまとめる」というアウトプットの作業に集中できるということ。

ここで頭の中にキッチンスタジアムがない人は、仕事を依頼されてから、資料や本を集めて、そこから読み始める。開始のドラが鳴ってからインプットを始めるわけですから、実際に「資料を作る」ためのアウトプット時間はわずかしか残りません。

要領良く仕事をこなしている「できる奴」というのは、日頃から読書をして、頭の中に「キッチンスタジアム」を構築している。だから、急な仕事の依頼にも対応できる、「準備」ができているのです。

日本人の年間の読書量は12.3冊といいます。1カ月に、たったの1冊です。さらに、驚愕のデータがあります。

文化庁の「国語に関する世論調査」(2018年度)での「1カ月に大体何冊くらい本を読んでいるか」(雑誌や漫画をのぞく)という質問に対して、本を1冊も「読まない」と答えた人が、全体の47.3%にものぼっています。驚くことに、日本人の半数近くが本を読む習慣がないのです。

「1、2冊」と答えた人が37.6%。「3、4冊」が8.6%。「5、6冊」が3.2%。「7冊以上」が3.2%です。

つまり、月に7冊読むだけで、あなたは読書量において日本人の上位3%に入ることができるのです。

読書でライバルに圧倒的な差をつける

月に7冊といえばとても多いように思えますが、4日に1冊のペースで読めばいいだけです。総務省統計局の調査(2016)によると、通勤時間の全国平均は79分(往復)といいますから、4日間の通勤時間は合計で約5時間。その時間を読書に充てれば、本を読むのが遅い人でも、通勤時間だけで4日に1冊くらいは読めるでしょう。


良質のインプットが、良質のアウトプットを呼び、自己成長を加速していく。あなたが会社のライバルを抜き去りたいのであれば、とりあえずインプットの量と質で勝たなくてはなりません。

その目安としては、月7冊。もしあなたのライバルが、月3冊しか読んでいないとすれば、月4冊、年間で50冊の差はつきますから、あなたはインプット量において、そしておそらくは「自己成長」の速度においても、ライバルに圧倒的な差をつけられるはずです。「インプット量」で勝ち、「アウトプット量」で勝ち、自己成長のスピードで勝てば、あなたはライバルに圧倒的に差をつけることができるのです。その第一歩が、「インプット量」を増やすこと。

そのために一番簡単なのは、読書量を増やすことです。

また、日本人で月10冊読む人は、約2%という数字も出ています。つまり月10冊の読書をすれば、日本人の上位2%に入れるということになります。

(樺沢 紫苑 : 精神科医、作家)