レヴォーグをベースにしながらも、新感覚SUVとして登場したレヴォーグ レイバック(筆者撮影)

これまでのスバルにはない、独自の世界観の創出――。

スバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャー(PGM)の小林正明氏は、新型「レヴォーグ レイバック」の開発の狙いを、そう語る。

その世界観とは、具体的にどのようなものなのか。新潟県の佐渡市でスバルが実施した報道陣向け試乗会に参加して、スバル関係者と意見交換をした。


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まずは午前中、「クロストレック」で佐渡金山やトキの森公園などを巡り、改めてスバル車の走りの愉しさを味わう。筆者の身体の中に、スバル車の走りの基準ができたように感じた。

午後は試乗の舞台を標高900m前後の一般県道、白雲台乙和池相川線(通称:大佐渡スカイライン)へ。一部を一定時間、通行止めにしての公道試乗会である。

スバルが今回用意したレヴォーグ レイバックは発売前のプロトタイプだが、量産車とほぼ同じ出来栄えだ。まずは、見た目の第一印象から話を始める。

「凛」と「包」と表現するデザイン

モデル名称が示すようと、レヴォーグの仲間であることははっきりわかる。特にリアビューは、レヴォーグを強く感じる。

サイドビューでは、最低地上高がレヴォーグの145mmから200mmへと上がっていることで、クルマ全体の印象が違う。さらにフロントに視線を移すと、スバルがいう「凛」と「包」というデザイン表現が理解できた。


今回、筆者は新潟県佐渡島で行われた試乗会で実車に乗った(筆者撮影)

寸法は、全長4770mm×全幅1820mm×全高1570mm。レヴォークと比較すると、それぞれ、15mm、25mm、70mm増。ホイールベースは2670mmで、レヴォーグと同じだ。トレッドは前1560mm、後1570mmで、それぞれレヴォーグより10mmと25mm広い。

一方、クロストレックと比較すると全長は290mmも長く、全幅は20mm広く、全高は5mm低い。ホイールベース、前後トレッドは同値。最低地上高はレヴォーグの145mmに対して、レヴォーグ レイバックとクロストレックはともに200mmとなっている。


手前がレヴォーグ、奥がレヴォーグ レイバック。リフトアップされた車高がわかる(筆者撮影)

こうした寸法から、レヴォーグ レイバッグの商品としてのポジショニングがイメージできるだろう。

つまり、アウトドア向け商品群であるフォレスター、アウトバック、クロストレックとも、またステーションワゴン(ツーリングワゴン)であるレヴォーグとも重らない、新しいユーザー向けのスバル車という建てつけだ。

スバルではレヴォーグ レイバックのターゲットユーザーを「都市型SUV、クロスオーバーを志向する人」と定める。

見方を変えると、日本ではほぼ競合がいなくなったステーションワゴンというカテゴリーで、走り味をスバルらしいスポーティな方向に振っているレヴォーグの価値を継承し、SUVへと進化させたということになる。

パワートレインは、レヴォーグから継承される1.8リッターターボのみで、発売当初にハイブリッド車の設定はないという。

「極めてしなやか」だが「万人向け」ではない走り

静止した状態でレヴォーグ レイバックを眺め、そして商品企画に関する文書を見る限り、正直なところ「商品企画上の理屈はわかるが、どういうクルマなのか、つかみにくい」という印象を持った。

ところが、走り出してみると、筆者のレヴォーグ レイバックに対する印象は一変した。走り味と乗り味をひとことで言えば、「極めてしなやか」である。


インテリアの形状はレヴォーグと同じ。シート素材などでSUVらしいデザインと機能性をもたせる(筆者撮影)

ステアリング/アクセル/ブレーキのそれぞれにおいて、ドライバーの操作とクルマの動きとの「つながり感」が極めて高いレベルにあるのだ。コーナーでは、どのようなタイミングでブレーキを踏み、またハンドルを切り始めても、安心感があり実に「すっきり」している。

多くの人にとって「乗りやすい」味付けだといえるが、決して「万人向け」という表現は当てはまらない、高度な仕上がりだ。「極めてしなやか」なことで、結果的に「速く走れる」とまで言えるほどである。

スバルの現行ラインナップであるレヴォーグ、インプレッサ、クロストレック、フォレスター、アウトバック、BRZ、そしてBEVの「ソルテラ」と比べて、レヴォーグ レイバックの走りの味わいは、はっきりと違う。

まさに、冒頭で記したとおり「これまでのスバルにはない、独自の世界観」が生まれたといえる。


パワートレインはレヴォーグに搭載されるのと同じ1.8リッターガソリンターボ(筆者撮影)

近年、自動車メーカー各社はSUVやセダンなどで、走行中の「クルマの動きのつながり」を重視しているが、レヴォーグ レイバックはそれらとは「別の世界観」だ。

レイバック(=のんびりする)と命名したとおり、ゆったりとした気持ちでシートにくつろぎながらも、高い次元の走りを満喫できる。

ベースであるレヴォーグでは、ワゴンとしての走りのキレの良さを徹底的に追求した。それをベースとして、単純にマイルドな感覚、またはソフトな乗り心地にしたというイメージではない。

走りのチューニングを施した担当エンジニアによれば、レヴォーグと比べて、前後スプリングのバネレートを下げ、ショックアブソーバーのピストンバルブを、微振動をうまく吸収するものに変更したという。

さらに、クロストレックでも採用したオールシーズンタイヤとの相性がとても良い。レヴォーグをベースに、都市型SUVとして進化させるサスペンションセッティングとしては、至極まっとうな内容だと言えるだろう。

そこにスバルがいう「動的質感」の研究開発で積み上げてきた知見が、うまくマッチしている。

都市型SUVセグメントの可能性を信じて

最後に、小林PGMに話を聞いた。

商品企画を検討し始めたのは、2020年に現行の2代目レヴォーグが発売された時期だという。国内市場で、SUVの需要が高まっていたころだ。

スバルとしては、フォレスターやアウトバックで、アウトドア志向やラギッドなイメージが先行する中、市場では都市型SUVを望む声があったそうだ。また、大まかな意味での都市型SUVの領域では、日系メーカー各社の売れ筋SUVがひしめいている状況でもあった。


取材に応えてくれたスバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャー(PGM)の小林正明氏(筆者撮影)

それでも市場分析をする中で、レヴォーグをベースとした都市型SUVセグメントの可能性を信じて、スバルとしてのレヴォーグ レイバックの開発が始まった、という流れである。

開発において最も気にしたのは、「レヴォーグの車高を上げただけのクルマだと思われるようなクルマづくりは、絶対にしないこと」だったという。だから、スバルが創出する新しいタイプのSUVとして、走りに徹底的にこだわった。

また、SUVとするため最低地上高を200mmとしたが、この数値はスバルがクルマづくりの中ではじき出した、「ひとつの指標」だという。

そして、200mmの最低地上高を実現するために、フロントのアプローチアングルやリアのデパーチャーアングルを考慮したボディスタイリングを練った。


バンパーやサイドスカートの形状から、アプローチアングルやデパーチャーアングルが考慮されていることがわかる(筆者撮影)

クルマ全体の開発では、初期の検討から具体的な開発の方向性が早めに決まり、机上検討と実際の走行を繰り返す中で狙いが定まっていったという。

スバルが挑んだ、新しい「スバルらしさ」を表現する都市型SUVのレヴォーグ レイバックは、2023年9月7日から予約販売が始まる。

気になる価格のイメージだが、車格としては当然、レヴォーグとアウトバックの中間、かつ搭載エンジンから見て「レヴォーグSTI Sport EX」より低めなので、300万円台中盤前後が予想される。

アイサイトXとフル液晶メーター、12.3インチ大型ディスプレイ、さらにハーマンカードンサウンドシステムを標準装備するというから、スバルとしては競合車を意識したかなり戦略的な価格設定になりそうだ。

販売店周辺での短時間の試乗でも、レヴォーグ レイバックとスバルの他モデルとの、または他社SUVモデルとの「味わいの差」を十分に感じ取ることができると思う。ぜひ、この新しいスバル車を体験してみてほしい。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)