そごう・西武の百貨店事業はどうなっていくのか(写真: Ryuji/ PIXTA)

そごう・西武の労働組合による西武池袋店でのストライキは、百貨店業界では1962年の阪神百貨店労働組合が行って以来、約60年ぶりの実施であるとして、大きくマスコミでも取り上げられた。その背景は、そごう・西武がグループ外に売却される方向が公表されてだいぶん時間がたったのに、売却後の雇用維持がどうなるのかが、不透明だったからだ。

9月1日、そごう・西武は不動産ファンド、フォートレスインベストメントの子会社となった。近年では、都内の主要百貨店の閉店も珍しいことではなく、再開発という名目で百貨店を閉店してその後に複合商業施設(テナント型商業施設)ができる事例が数多く存在する。

少し前には松坂屋銀座店が再開発によって複合商業施設「GINZA SIX」に変わっているし、渋谷からは東急百貨店東横店、東急本店が消え、小田急新宿西口は再開発が始まり、百貨店の売場は2割に減少した。

しかし、こうした事例ではそごう・西武のようなストライキに至るような騒動は起こってはいない。今回は何が違ったのだろうか。

百貨店売場は大幅に縮小する可能性

そごう・西武はセブン&アイ・ホールディングス(HD)のグループ子会社であるが、この会社の株式が譲渡されれば、新たな株主の下で事業を続けていく。問題は新しい株主が事業会社ではなく、不動産ファンドであるため、そごう・西武が百貨店事業を継続していく可能性が極めて薄くなっている。

本件ではヨドバシカメラがパートナーとして名前がでてくるが、これはそごう・西武のパートナーという意味ではなく、不動産ファンドにとっての不動産売却予定先ということである。

ヨドバシは、そごう・西武の経営には関与することはなく、あくまでもファンドの子会社となったそごう・西武から池袋、渋谷、千葉の店舗不動産を購入する相手であり、その代金をもって、そごう・西武の負債3000億円(うち1600億円はセブン&アイからとのこと)を返済することになる。セブン&アイはそごう・西武を売ることで、融資のうち900億円は債権放棄して、そごう・西武をグループの経営から切り離した。

上記の前提条件であれば、一般的に考えれば、そごう・西武の百貨店売場は大幅に縮小する。その後、時間軸は不明ながらも、新しい株主は不動産ファンドとして、そごう・西武の残った店舗不動産を必要とされる相手に順次売却することで、その投資目的を達成していくことになる。

ファンドが百貨店を長期的に経営するなどということは、投資資金の性格上、ありえないだろう。その際、百貨店として継続することを前提とする買い手がいるかと言えば、ほぼ絶望的だといえる。同様の選択を迫られた電鉄系百貨店が再開発を行った後は複合商業施設として活用し、百貨店を再構築する企業はいなかったことを思えば、自明だろう。

ということを踏まえれば、そごう・西武労組が懸念するとおり、この売却によって雇用環境は大きな影響を受けることは避けられないだろう。そして、そのことは本件の全員がわかっているのだが、今後の事業に関して新しい株主がこれから決定するのだから、確定的なことはわからない、といえばそれも嘘ではない。

そごう・西武の経営が低迷した事情

こうした状況を盾に、セブン&アイは低収益の百貨店事業を早期に売却して資金を回収することを急いでいた、といっても過言ではあるまい。労組とすれば、可能な手段はすべて行使して、会社側を交渉のテーブルに座らせようと努力するのも当然である。

結果的には8月31日、セブン&アイは、売却後もそごう・西武の従業員をグループにて雇用維持していく方針としたことが報じられた。従業員雇用維持という最大の問題に道筋が示されたことで、やっと、本件は収束に向かう可能性が見えてきた。

この問題が騒がれるようになってから、複数のマスコミの方々から、そもそも、そごう・西武の経営が低迷しているのは、セブン&アイのこれまでの経営に問題があったからではないか?といったことを聞かれたが、この点についてはそうとも言いきれない。

2000年代初頭、西武百貨店、そごうが共に経営破綻から再建し、ミレニアムリテイリングとして再生を果たしたのち、セブン&アイの傘下に入った。この時点ではバブル崩壊、金融危機のあおりを受けて苦境にあった百貨店ではあるが、その後も売り上げ不振が続き、東京都心のターミナル百貨店までが閉店していく時代が来ると思っていた関係者はほとんどいなかっただろう。ほとんどの業界関係者は、経済環境が回復すれば、百貨店は復活すると思っていたはずだ。

そして、2大流通グループのセブン&アイの傘下に入った、そごう・西武は復活ならず、売却されることになったのだが、この百貨店の事業改善をセブン&アイ以外の小売業者が実施していたとしても、結果にそう大きな差はなかったであろう。というのも、そごう・西武の歴史は、地方郊外の中小型店舗のスクラップに明け暮れていたからである。株式会社そごう・西武として再編して以降、行った主な閉店、業態転換を列記したのが次の表だ。


防戦一方だったそごう・西武の経営

これを見るだけでも、防戦一方の経営を強いられていたことがわかるだろう。営業利益を相応に確保しても閉店コストによって純利益は削られてしまい、マイナスになってしまった年も多い。2011年当初1290億円あった純資産はコロナ前の2019年で612億円へと半減しており、そごう・西武は事業としての収益性はなかった、といってもいい。


売却後、明らかになった、そごう・西武の実質売却価格(資産評価−負債≒受渡対価)はほとんど無価値(8500万円)であったことも報じられている。そごう・西武の企業価値はない、という結果であったことは、百貨店ビジネスを市場がどう見ているかを冷酷に示している。

そごう・西武はその前身である、そごう、西武百貨店は、共にバブル期に郊外都市、地方都市に大量出店したことで成長した、いわば「遅れて来た」百貨店である。いずれもバブル崩壊後に経営破綻し、後に多くの不採算店をスクラップして再生して、ミレニアムリテイリングとして統合、再起を目指してセブン&アイの傘下に入った。

しかし、スクラップを完了したはずであった、そごう・西武の地方、郊外店は、地方、郊外の中心市街地の衰退が止まらず、その後も売り上げ減少、損益分岐点を下回り、閉店といったスパイラルから抜けられなかった。

そごう・西武の店舗網が当初から現在残っている店舗だけであったなら、その運命ももしかしたら変わっていたかもしれない。さきほどの図表で、2011〜2022年の間に、経常利益累積額と当期利益累積額の差額(≒店舗スクラップに要した金)は約1200億円にもなる。これを前向き投資に向けることができていたら、若干は違う未来もあったかもしれない。

地方を中心とした百貨店に未来はあるか

コロナ後の大手百貨店の業績は回復著しく、伊勢丹新宿本店、阪急本店などはコロナ前を上回る売り上げとなり、好調な実績となっている。しかし、同時期の地方百貨店の売り上げ実績はコロナ前の8割程度にとどまり、その格差は拡大する一方である。

大手百貨店の好調は、富裕層の高額品消費とインバウンドの回復に支えられたものであることも報じられているが、こうした需要を享受できているのは、DX投資に支えられたマーケティングインフラを持つ強力な外商部隊とインバウンドの恩恵を受けやすい大都市立地を兼ね備えた特定の百貨店だけなのだ。

富裕層とインバウンドという限られた市場のみが百貨店の生きる道だというのなら、地方を中心とした多くの百貨店の未来は決して明るいものではあるまい。大半の百貨店は、富裕層+インバウンド専門店という大手の成功事例の模倣ではなく、立地する街の特性に合わせたそれぞれの生き方を見出していくしかない。

小売事業者という枠を超えて、運命共同体であるその街の中心市街地の活性化をいかにして実現するか、という視点が、経営に求められるようになってきたのである。

(中井 彰人 : 流通アナリスト)