福井鉄道の新型車両F2000形「フクラムライナー」(左)とF1000形「フクラム」。どちらも床面の低い超低床車両だ(撮影:南正時)

2023年は路面電車の明るい話題が目立つ。8月26日、全国初の新規路線のライトレールである芳賀・宇都宮LRTが開業した。実に国内で75年ぶりの新しい路面電車である。その前の3月には、福井鉄道(福井県)で久しぶりの新型車「FUKURAM LINER(フクラムライナー)」F2000形が運転を開始した。

1960〜70年代にかけて、全国各地で路面電車の廃止が相次いだ。そんな中で路面電車を存続し、復権や活性化を進めてきた自治体や私鉄を振り返りながら、我が国の路面電車の現状に触れてみたい。

路面電車を維持・発展させた街

今回の芳賀・宇都宮LRT開業にあたっては、似たような路面電車を運行する他社との協力関係がみられる。路面電車として市街地の路上を走り、さらに郊外へ延びて専用軌道も走るという路線は広島電鉄と福井鉄道にあり、これは宇都宮のLRT(厳密には専用軌道ではないが)と似た特徴だ。

そして実際に両社は同LRTに深くかかわっている。同LRTの運行会社である宇都宮ライトレールは、広島電鉄の元役員で「路面電車の神様」とも称された中尾正俊氏を招き、開業までの道のりを牽引してきた。福井鉄道へは、開業前に運転士33人が電車運転の国家資格取得のために出向し、同鉄道の北府工場で訓練を受けていた。さらに同鉄道の低床車両「FUKURAM」F1000形は3車体の連接車で、宇都宮のLRT車両と同タイプである。


宇都宮ライトレールのHU300形は3車体の連接車だ(撮影:南正時)

広島電鉄はモータリゼーション全盛で路面電車の廃止が相次いだ時期の1971年に、軌道敷内への乗用車乗り入れを禁止して電車の定時運行を実施。全国各地の廃止された路面電車から譲り受けた車両を走らせて「走る電車の博物館」として知られる一方、1980年代以降は新型の大型連接車を次々に導入し、近代的な路面電車の姿を知らしめた。


広島電鉄は1980年代以降新型の大型連接車導入を進めた。1987年に登場した3800形(撮影:南正時)

さらに1999年には、低床式路面電車の本場ドイツ・シーメンス社製の完全超低床車両5000形「グリーンムーバー」を導入。日本では珍しい海外製車両、さらに全長約30mの大型連接車は注目を集めた。続いて2005年には、純国産の完全超低床車両である5100形「グリーンムーバーmax」を導入。その後も2013年に3車体連接の1000形「グリーンムーバーLEX」、さらに5100形を改良した5200形「グリーンムーバーAPEX」と超低床車の導入を続け、全国の路面電車のよきお手本となっている。


ドイツ・シーメンス社製の5000形「グリーンムーバー」(撮影:南正時)

北陸は路面電車先進地だ

福井鉄道は1963年以降モータリゼーションの影響で赤字が続き、数ある路線を次々に廃止して現在はたけふ新と田原町・福井駅間の福武線を運行している。同線はもともと路面区間を一般の電車が走っていたが、2006年に車両を元名鉄の路面電車に置き換え、さらに県の助成も受けて2013年から低床式のF1000形「FUKURAM」を4編成導入。2016年にはえちぜん鉄道との相互直通運転を開始。同時に福井駅前電停を福井駅西口広場まで延伸して一気に飛躍をはたした。2023年3月には新型のF2000形1編成を導入し、さらなる活性化を図っている。


福井鉄道のF1000形「フクラム」。田原町駅からえちぜん鉄道に乗り入れる(撮影:南正時)

路面電車の活性化といえば、富山の存在も非常に大きい。2006年4月、JR富山港線を引き継いでLRT化した「富山ライトレール」が運行を開始、超低床車両が走る姿は地方交通の新しい姿として全国的に注目を集めた。LRTという言葉が一般にも浸透するようになったきっかけといえよう。


JR富山港線時代の岩瀬浜駅(撮影:南正時)


ライトレール化後の岩瀬浜駅(撮影:南正時)

その後、富山駅をはさんで反対側の南側を走る既存の富山地方鉄道の市内線でも2009年に環状線が開業し、バリアフリーの超低床車「セントラム」が登場。さらに、2020年にはJR富山駅の高架下をくぐって南北の路面電車を接続、富山は新時代の路面電車王国となっている。

近年は、各地の路面電車で客室床面の高さが極めて低い「超低床車」の導入が進んでいる。超低床車はヨーロッパで1980年代から急速に普及し、ドイツやフランスなどのメーカーが製造した車両が主要都市から地方都市までに広がっていった。


オーストリア・ウィーン市電の超低床電車(撮影:南正時)

我が国で初めて採用したのは熊本市電で、1997年8月に営業運転を開始した9700形が日本初の超低床電車である。これはドイツのシステムで、次いで前述の広島電鉄5000形が続いた。熊本市電9700形の流れをくむ車両としては富山の超低床車や福井鉄道F1000形、そして芳賀・宇都宮LRTのHU300形などがある。


日本初の超低床車両、熊本市電9700形(撮影:南正時)

国産初の超低床車は2002年に登場した鹿児島市電の1000形で、その後は国産技術の車両導入も増えている。福井鉄道F2000形は国産の超低床車だ。

ゴムタイヤ式は広がらず

路面電車活性化の中にはユニークな試みもあった。ゴムタイヤで走るシステムの試験だ。大阪の堺市には2005年、フランスのロール社が開発したゴムタイヤ式路面電車「トランスロール」の試験線(トランスロール堺浜試験線)が設けられ、トランスロールSTE3型がテスト走行を重ねていた。


堺市に設けられた試験線でテスト中のゴムタイヤ式路面電車「トランスロール」(撮影:南正時)


レールは中央に1本だけで、ゴムタイヤで走行するシステムだ(撮影:南正時)

これは路面に1本だけガイド用のレールを設置し、走行はゴムタイヤで行うというシステムで、堺市で当時計画が進んでいたLRTシステムでの採用や国内での普及を目指したものだったが、一般的な鉄道や路面電車との相互乗り入れができないことなどから、結局は日本では採用されなかった。欧州では現在も運行しているが、アジアでは中国の天津と上海に相次いで導入されたものの、上海は廃止、天津も現在運休のようで、あまり浸透したとはいえない。

いまや国内各地に普及した超低床路面電車は、日本の都市交通の将来を担う大切な交通機関である。各地の新鋭車両の姿は写真の一覧からご覧いただきたい。

これらの車両が走るさまは、その街の未来の姿が見えてくるようで筆者としては頼もしく思え、今回の芳賀・宇都宮LRTはぜひとも成功を収めていただきたいとエールを送るものである。


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(南 正時 : 鉄道写真家)