神行超充電池は材料コストが安いリン酸鉄系ながら、三元系に劣らない急速充電性能を実現した(写真は同社ウェブサイトより)

中国の車載電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は8月16日、超急速充電に対応した新型のリン酸鉄系リチウムイオン電池「神行超充電池」を発表した。同社によれば新型電池を搭載したEV(電気自動車)は、一定の条件が揃えばわずか10分間の充電で400キロメートルを走行できる。

現在主流の車載電池は、正極材料の違いにより三元系とリン酸鉄系の2種類に分かれる。三元系はエネルギー密度が高く、急速充電に適しているが、(希少金属のコバルトなどを使うため)コストが高い。これに対し、リン酸鉄系はコストが低いのが長所だが、エネルギー密度はやや劣る。

技術の詳細は公表せず

超急速充電への対応をうたうEVは、現時点ではいずれも三元系電池を搭載している。そんななか、CATLは正極、負極、電解液、セパレーターの材料構成を最適化することで、リン酸鉄系ながら三元系に勝るとも劣らない充電速度を実現したとしている。ただし、CATLは神行超充電池の技術的な詳細は明らかにしていない。

同じく8月16日、中国の新興EVメーカーの阿維塔科技(アバター・テクノロジー)は、CATLの神行超充電池を完成車メーカーとして初採用すると発表した。アバターは国有自動車大手の長安汽車、CATL、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の3社が2020年11月に共同で立ち上げた新ブランドであり、CATLはアバターの事業会社の第2位株主だ。

「現在のEV市場では、超急速充電に対応した車両はまだ少ない。800ボルトの高電圧システムを車両と充電装置に組み込む必要があり、高い追加コストがかかるからだ」

財新記者の取材に応じたある自動車メーカーの部品調達担当者は、超急速充電をめぐる現状をそう話し、次のように続けた。

「超急速充電に対応するには、車両側に炭化ケイ素(SiC)などの(高電圧に対応可能な)部品を採用する必要がある。SiCはコストが高いだけでなく、安定供給の問題も抱えている。製造時の歩留まりが低く、(EVメーカーの)需要に供給が追いついていない」

気温マイナス10度でも急速充電可能

この担当者によれば、CATLの神行超充電池は(相対的にコストが安い)400ボルトの急速充電システムに対応しており、EVメーカーにとって魅力的な選択肢だという。


EVメーカーの間で、神行超充電池は前評判が高い。写真はCATLが出資する阿維塔科技のEV(同社ウェブサイトより)

別の自動車メーカーのエンジニアは、一般的なリン酸鉄系電池が低温下での充電に時間がかかるのに対し、神行超充電池は気温がマイナス10度でも急速充電が可能だと明かした。「これは大きなブレークスルーだ」と、このエンジニアは高く評価する。


本記事は「財新」の提供記事です

なお、上述の2人の自動車メーカー関係者は、神行超充電池の価格水準については明かさなかった。CATLによれば、新型電池は2023年中に量産を開始し、2024年1〜3月期にはEVメーカーの車両に搭載されるという。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は8月17日

(財新 Biz&Tech)