2つのテイストで2022年5月27日に発売された6代目ステップワゴン(写真:本田技研工業)

ホンダの看板モデルの1つ、「ステップワゴン」。1996年に登場した初代は、乗用車ベースで5ナンバーサイズの車体に広い室内空間を実現。ワンボックススタイルのクルマを商用車ではなく、ファミリー向けの乗用車として使う、新しいムーブメントの一端としてヒットモデルとなった。

それから25年以上が経過し、2022年5月より発売になったのが現行モデルとなる第6世代だ。

新型ステップワゴンの特徴は、初代を思い起こさせるようなシンプルでスクエアなルックス。そして、初代から続く「広い室内空間」に磨きをかけ、国内ホンダ車として史上最大の室内空間を実現していたことにある。


「クリーンでシンプルなデザインとした」というステップワゴン AIR(写真:本田技研工業)

パワートレインは、モーター駆動を中心とするホンダ独自のハイブリッド「e:HEV」と、1.5リッターの直噴VTECターボのガソリンエンジンの2種を用意。

価格は、e:HEVが343万7500〜391万2700万円、ガソリン車が305万3600〜371万9100円だ。これは2015年に発売された先代モデルと比べると、相当の値上げになる。

2015年に登場した先代モデルは当初、エンジン車のみのラインナップで発売され、その価格は約230〜300万円だった。また、2017年にハイブリッドが追加されたが、そのときの価格は約330〜360万円。ハイブリッドの価格上昇はそれほど大きくないが、ガソリン車では50万円以上となる。

初期受注は2万7000台と好調だったが…

では、この新型ステップワゴン、売れ行きはどうなのだろうか。発売から1年を経ての状況を見てみたい。

発表時に掲げられた販売目標は、月販5000台だ。そんな中、発売後1カ月で累計約2万7000台もの受注を獲得。目標の5倍という数字は、なかなかのものだ。

このスタートダッシュ成功の理由の1つに、長期間のティザー展開が挙げられる。


ステップワゴン SPADAは「力強く品格ある佇まいを表現した」とする(写真:本田技研工業)

近年は正式発表の前に、新型車の姿を前もって少しずつ公開してゆき、ゆっくりと時間をかけて話題を集めるという、いわゆるティザー広告というマーケティング手法がよく採用される。ステップワゴンもこの例に漏れず、発売の約半年も前から、ティザー広告が実施されていたのだ。

その結果、発売直後の2022年6月は前年比138.2%(3378台)、7月は228.9%(5708台)、8月は158.7%(4614台)という新車登録台数を記録した。

ところが、9月はなんと前年比84.5%(2792台)、10月も98.4%(3075台)と失速してしまう。

これは、いわゆるコロナ禍の混乱による生産遅滞が原因だろう。発売1カ月後までに得た約2万7000台もの受注分を納車しきる前に登録台数が減る、というのは、供給に問題があったとしか考えられない。

ただし、11月には前年比182.7%(5327台)まで復活し、12月も124.6%(4037台)を登録している。供給の停滞は、解消に向かったのだ。

その結果、2022年6〜12月の7カ月間での販売台数は、2万8931台となっている。年間でいえば5万台ペースとなり悪くないように思えるが、月平均にすると約4000台。生産遅滞があったことで、月販5000台という目標に少し届かない結果となった。

そして、2023年に入るとさらに数字は伸び悩む。新車登録台数は1月3079台、2月2926台、3月3052台、4月2346台、5月1732台、6月2835台、7月4563台で、一度も5000台に届いていない。7月こそ4000台を上回ったが、概ね月3000台前後のペースにまで落ち込んでしまったのだ。


スタイリングは初代の面影を感じさせるスクエアなものとなったが……(写真:本田技研工業)

初期受注でニーズの多くを獲得してしまい、その後の新規受注に苦労しているように見える。この調子では、年間の販売台数は3〜4万台になりそうな気配だ。ライバルと比較するとステップワゴンの苦境は明らかで、2023年上半期(1〜6月)新車販売ランキングでは1万5970台の登録で24位にとどまっている。

ライバルであるトヨタ「ノア」は5万台を超え5位、兄弟車の「ヴォクシー」が7位、日産「セレナ」が12位だ。12位のセレナでも、上半期の台数は3万4000台を超えている。年間3〜4万台のペースでは、ライバルにまったく及ばない。

常に「先代よりも売れていない」という事実

では、発売直後の年間3〜4万台というペースは、過去のステップワゴンと比べるとどうなのか。それは、端的に言って“ひどい数字”である。

先代モデルがデビューした翌年となる2016年の年間販売台数は、5万2472台であった。最新モデルの年間3〜4万台レベルというのは、先代の3分の2程度しかないのだ。


2015年に発売された5代目ステップワゴン(写真:本田技研工業)

とはいえ、歴代モデルの発売直後の販売台数を見ると、また別の面も見えてくる。それは2代目を除いて、歴代モデルは、つねに「先代よりも売れていない」ことだ。

2009年デビューの先々代は、2010年に8万934台。さらに前の2005年は、9万1745台。その前は、2001年に11万14台。初代の登場時、1996年は10万9894台である。


初代のイメージを踏襲した2001年登場の2代目ステップワゴン(写真:本田技研工業)

つまり、初代から2代目へのモデルチェンジ時こそ台数を増やし、まだ年間10万台を超えていたものの、3代目は9万台、4代目が8万台、先代の5代目が5万台と、代を重ねるごとに販売を落としているのだ。そして、6代目となる現行モデルが、3〜4万台の見込みである。

これは新型モデルのデキの如何ではなく、ステップワゴンというクルマへのニーズが落ちていることを意味する。ホンダのラインナップを見れば、それがわかるだろう。

2008年にはステップワゴンよりも小さな7人乗りミニバンの「フリード」が登場し、2011年には軽自動車の「N-BOX」が生まれている。この2つのモデルは、どちらも箱型ボディにスライドドアを備えたもの。N-BOXは2列シートではあるが、ステップワゴンと同様に子育てファミリーを向いた製品だ。

つまり、ホンダ内に同じファミリー向けのライバルが登場してしまったのである。


2008年に登場した当初のフリード(写真:本田技研工業)

2008年に誕生したフリードは、ハイブリッドを追加した翌2012年に年間10万台を突破。2016年のフルモデルチェンジ直後の2017年も、10万台を超えている。デビューから5年目となる2022年でも、7万9525台を販売する人気ぶりだ。実にステップワゴンの2倍近くも売れている。

軽自動車のN-BOXは、2011年のデビューから現在まで12年の間に、軽自動車として年間販売ナンバー1を10回、登録車と合わせても6回の販売台数ナンバー1を記録する、モンスター級のヒットモデルだ。


N-BOXはまもなく写真の新型モデルに切り替わる(写真:本田技研工業)

ステップワゴンというクルマの役割

一方でホンダ車全体の国内販売は、2000年代から現在まで50〜70万台で推移している。大ヒットモデルが登場しているのに、総数自体はそれほど大きくなっていないのだ。そこから見えてくるのは、同じホンダブランド内にいる人気モデルが、「ファミリーユーザーの一定数をステップワゴンから奪っている」ということだ。

また、ホンダにはより上級の「オデッセイ」もあり、2013年に登場した5代目ではスライドドアを採用している。台数は多くないものの、こちらに流れた人もいるだろう。ちなみに、この5代目オデッセイは2022年に一旦、販売を終了しているが、再び発売されることが発表されている。


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つまり、かつてはステップワゴンという1モデルだけで対応していたスライドドアワゴンへのニーズを、N-BOX、フリード、ステップワゴン、オデッセイという4モデルでカバーするようになったわけだ。クルマのデキではない部分で、ステップワゴンの数が減っていると考えられる。

時代にあわせて新しいモデルが生まれ、そして古いモデルが退場してゆくのは当然のこと。残念ながら、ステップワゴンの役割も、徐々に小さくなっているということだろう。

(鈴木 ケンイチ : モータージャーナリスト )