育児をしない夫に、妻が取った“タフな行動”とは…

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 今年7月に話題となった、広島県・尾道市役所が配布した「産前産後のパパの気持ち」をまとめた文書に「批判殺到」のニュース。報じるテレビを前のめりになって視聴し、付随するニュースをウェブで全て読んでみました。市役所はどんなアンケートを行ったのか。パパたちは何と答えたのか。

「妻のこういう態度が嫌だった」という項目では、「訳も分からずイライラしている」「赤ちゃんの世話で忙しく家事もできていない」「何もしてくれない」。「妻にしてもらいたいこと」に対しては、「何をしたらいいのか具体的に言ってほしい」「家事をそれなりにやってほしい」……。

 もちろん「今のままでいい。よくやっている」というポジティブ意見も多々ありますが、こういうときは、妻への批判的意見の方しか目に入ってこないのが視聴者の心理です。

 恋人・夫婦仲相談所の所長である私は思いました。「はあ!? フェムテックが浸透しようとする今の時代に、妻へのこんな不満が文字になるなんて」。調査・配布した側も、時代を読んでいただきたかったです。

 ネットで少し調べれば、産前産後の女性の体やメンタルのことは詳しく分かる時代。マタニティーブルーや女性ホルモンの乱れ、お産にどれだけ体力を使うかなども、自分で学習できるでしょう。産後クライシスが加速しそうな危ういアンケートだと感じました。

 とはいえ、夫側の育児休業の取りにくさ、職場の封建的雰囲気といった背景も考慮しなければならない、そんな問題提起も行われたのではないでしょうか。育休の取りづらさと、夫の本音はリンクしないので、やはり妻側の怒りは出てくると感じます。

 産前産後休業(産休)の制度がある会社で働く多くの女性は、産休・育休を取得します。妊娠・出産でヘロヘロに疲れた体を休めるための休業期間でもあります。しかし、実際には夜中も熟睡できず、休めるどころか育児に家事にと大変な日々を過ごすのがこの期間です。

 さらに、仕事を休むことによるキャリアへの焦りが生まれます。この時期、妻側のキャリア減速で夫婦の口論が増えるケースもあります。そして「産後うつ」に悩まされる可能性をはらむ期間でもあります。

 そんな七転八倒の時期にもかかわらず、妻に対して理解を示さず、とんでもない態度を取る夫もいます。

男性育休推進企業の取得率はなんと76.9%!

 2023年4月に改正された「育児・介護休業法」では、男性の育児休業取得促進のため、常時雇用する労働者が1000人を超える企業は、育児休業等取得の状況を1年ごとに公表することが義務付けられました。

 認定NPO法人フローレンスが、厚生労働省「イクメンプロジェクト」とワーク・ライフバランス社の三者で、2022年12月から2023年1月にかけて国内の企業141社を対象に行った実態調査によると、「男性育休推進企業」の平均取得率は何と76.9%、平均取得日数は40.7日という結果に。日本の男性育休平均取得率は13.97%(2021年度、厚生労働省調べ)ですから、随分と差があることが分かります。企業が率先して男性育休を推進すれば、多くの男性も積極的に育休を取得したいと考えていることが分かりますね。

 夫が育休を取りたいと思っているのに、会社の状況や雰囲気から取りづらい場合、育休を取っている妻に対して皮肉っぽい態度を取ってしまうこともあるのかもしれません。しかし、それはお門違いです。育休取得中の妻がどれだけ大変な思いをしているかは、今や、記事などを通してあらゆるメディアで紹介されています。それにもかかわらず、なぜ夫は妻にいたわりの言葉どころか傷つけるような言葉を投げかけてしまうのか。そこにはさまざまな事情がありました。

夫の暴言をきっかけに、状況を180度変えたタフな妻

 紀子さん(36歳、仮名)は看護師。夫の隆弘さん(45才、同)は営業マンです。産後間もない当時、隆弘さんは部署が変わったばかりで、猛烈に忙しい日々を過ごしていました。昇進がかかる大事な時期。そのため、育休を取ることは全く考えていませんでした。

 そのため産後、隆弘さんはほとんど育児を手伝うことがなく、紀子さんはワンオペ状態。腰が痛み、頭がボーッとするなど身体的、精神的つらさを度々、隆弘さんに吐露していました。

 そんなある日、夜泣き対応で眠れていない紀子さんが「しんどいわ」と話し始めると、隆弘さんはこう言いました。

「3食昼寝つきで、かわいい子どもと一緒にいられるんだからいいじゃないか。俺がどんな思いをして働いていると思っているんだよ。代われるもんなら代わりたい」

 それを聞いた紀子さんの何かがプツンと切れました。怒りを通り越し、この状況を変えようと決めました。「だったらそうしてあげる」と隆弘さんに告げます。

 自分の育休は早々に切り上げる。その後は、保育園に入るまでは隆弘さんが育休を取ってくれ、と。自分の働き先にはそのように伝えて、復帰の手続きを進めるから、あなたもそうしてほしい、と。

 慌てたのは隆弘さんです。急にそんなことができるわけがない、と紀子さんに謝り、なだめました。確かに自分が復帰した方が、お互いにとっても、子どもにとってもよいと判断した紀子さんは、聞く耳を持ちません。

 隆弘さんが会社へ育休を申請したところ、勤務先が男性育休推進企業であったため、すんなりと希望は受け入れられました。隆弘さんは拍子抜けしたそうです。

「あのとき、夫に育休を取ってもらうという判断をして本当によかったです。当時は本気でブチ切れましたが。それが、今となっては全ていい結果につながりました。

子どものことは本当に50:50でできています。かかりつけの病院なども『どちらかしか知らない』なんてこともないですし。保育園の情報伝達も完璧です。夫も、自分がやらないといけないと気負っていた仕事が、あっさり他の人へ引き継がれるのを目の当たりにして、仕事への考え方が変わったそうです。『俺はコマの一つやったんか』と。暴言を吐いてもらって本当によかったです。いいけんかでした」

 何がきっかけになって、いい結果を生むことになるかは分かりません。大切なことは、夫婦で沸点に達するくらい言い争ったときに我慢することなく、納得のいく結果になるよう働きかけることなのではないでしょうか。もちろん、具体的に筋道を立てて。大事なのは予測力と決断力です。

 育休の仕組み、育児の大変さに理解のない夫なのだとしたら、どうすれば気付いてもらえるか。状況を変えることができるのは、他の誰でもない自分だけなのです。