暑くて寝苦しい夜にぐっすり眠るための「エアコンの使い方」を紹介。この方法でも意外と財布にも優しいようです(写真:KiRi/PIXTA)

記録的な猛暑が続く今年の夏。日中はともかく、夜寝るときにも暑さのせいで眠れず、翌朝の寝覚めが悪いと感じる人も多いだろう。暑さを感じる原因は? そして、どうしたら寝苦しい夜に安眠することができるのか。睡眠の専門家が方法を伝授する。

暑苦しい日はしばらく続きそう

気象庁によると、7月、8月は日本各地で猛暑日が続き、連続日数の記録が軒並み更新されている。

8月22日に発表した「高温に関する全般気象情報」によると、北日本では今月28日まで、東・西日本と沖縄地方では29日ごろまでは気温の高い状態が続く見込み。北日本から西日本では猛暑日のところも出てきそうで、沖縄地方も最高気温が33℃を超えるという。

暦の上ではすでに秋を迎えているが、昼も夜も暑くて寝苦しい日が続いている。舞台やCMなどで活躍する俳優の幸田尚子さん(43)は、都内在住。この暑さで長女(4)の寝つきが悪いことが悩みだという。

「エアコンを寝る前につけておいて、部屋が一定温度に冷えて娘が眠ったら消しています。ただ、室温がいつの間にか上がって暑くなると、娘は起きてしまい、不機嫌になって怒り始めます。そんなときは冷たい飲み物を飲ませて、エアコンをつけて一気に部屋を冷やし、落ち着かせています」

子どもに限らず、大人も暑い夜の安眠でカギを握るのは、寝るときの室温だ。睡眠コンサルタントで医師の森田麻里子さんは、「寝る前に寝室の温度を下げておくことが大事」と強調する。

「暑さにより上がった体温は、涼しい環境でないと下がりません。寝る前から寝室を冷やしておいて、ひんやりと感じる部屋で寝る前を過ごすことがすごく大切になります」

ひんやりと感じるためには、どれくらいの温度にすればよいのか。

森田さんによると、 エアコンの温度設定は基本的には25〜27℃に設定しておいて、朝までつけっぱなしにするのがおすすめだという。冷えすぎが気になる場合は、「寝るときになったら、27.5〜28℃ぐらいに上げるといい」という。

4人に1人がエアコン「使わない」

寝苦しい暑さから解放されるには、やはりエアコンの使用が欠かせない。パナソニックは今年7月、20代から60代の男女550人を対象に、夏の睡眠時のエアコン利用に関する実態調査を実施した(パナソニック「エオリア」調べ)。

その結果を見ると、約7割が「今年の夏は暑さで寝苦しい」「睡眠に満足していない」と回答しているにもかかわらず、4人に1人は睡眠時のエアコンを「使用していない」と答えている。エアコンを使用していると回答した人のなかでも、「一晩中つけっぱなしにしている」と回答した人は3割にすぎない。「一晩中つけっぱなしにしない」人の一番の理由は、「電気代がかかるから」で、全体の34%という結果となっている。



暑い夜に心地よく眠るためには「冷えすぎない程度の温度で、朝までエアコンをつけっぱなしにするのがいい」と森田さんはすすめるが、先の回答にもあるように、気になるのはエアコンをつけっぱなしにしたときの電気代だ。

エアコンはそもそも、外気温度とエアコンの設定温度の差が大きいほど消費電力が増える。つまり、それだけ電気代がかかる。そのため昼間より外気温度が低くなる夜のほうが、消費電力は減り、電気代もかからない。

では、夜間もエアコンをつけっぱなしにしたら、どれくらい電気代がかかるのだろうか。

パナソニックは、自社のエアコンを使っている人たちの利用状況から、夏の夜間にエアコンを“朝までつけっぱなし”にしたときの消費電力量と電気代を検証した 。その結果、朝まで8時間、エアコンをつけっぱなしにした場合、1時間当たりの消費電力は平均92ワット、2円ほど、8時間使用した場合は平均736ワット、約23円になるという(電気料金の目安:単価31円/kWhで算出)。

エアコンの上手な使い方4つ

夏の安眠のカギとなるエアコン。適切かつ効果的に使用するにはどうしたらいいか。

エアコンの適切な使用法などに精通する睡眠改善インストラクターの福田風子さんは、エアコンの適切な使用のためのポイントを4つ挙げる。

■エアコンは寝室に入る30分前にON。上に向けて風をあてておく

日中に室内にため込んだ熱が、夜になっても天井や壁にこもっているため、寝るタイミングでエアコンをつけても、室温が下がるまでに時間がかかることがある。寝室に入る30分前にエアコンをONにし、上に向けて風をあてておくのが、効率よく睡眠環境を作るコツ。

■タイマーは設定せず 設定温度は26〜28℃に

快適な寝室環境を保つには、冷房モードで設定温度を26〜28℃にするか、除湿モードにする。特に熱帯夜は途中で運転を停止する設定にはせずに、冷えすぎない温度で朝までつけっぱなしにする。

■湿度は60%以下に保つ

湿度が高いと手足からの放熱が妨げられ、深部体温が下がりにくくなるため、寝苦しくなりがち。寝室の湿度は60%以下に保つことが重要。

■扇風機との併用使いのすすめ

エアコンの温度設定は下げすぎず、どうしても室温が高くて寝入りが悪いという人は扇風機を併用することもおすすめ。その際は、表面に太い血管の通っている足首あたりに風を当てると深部体温が下がりやすく、眠りに適した環境になる。

ただし、体の1カ所に長時間当て続けるのはNG。体が冷えすぎてしまう可能性がある。扇風機は足元に置いて、向きは体ではなく壁に向け、壁に当たった風を体に当てるようにするとよい。

前出の森田さんは、エアコンによる部屋の温度調節に加えて、「湿度」にも注意する必要があると強調する。

「暑苦しさを体感温度で考えたときに、温度よりも湿度がポイントです。同じ27℃でも湿度が高いとジメジメした不快な暑さを感じやすいですし、逆に湿度が低ければさらっとした暑さになり不快感は減ります。気温が高く蒸し暑くなる夏場は、“室温25〜28℃、湿度50〜60%が理想的”とされています」

私たちの体には、ある程度であれば暑さで体温が上がっても、自然と体温調節が行われて、適切な体温に戻すしくみが備わっている。例えば暑いときには汗をかくが、それは汗の気化熱によって熱が外気に逃げるためだ。

寝苦しいとどうしても睡眠不足になりがちだが、だからこそ体感温度を下げ、しっかり眠りたいところだ。森田さんが寝室の湿度の調整以外に勧めるのは「入浴」だ。

「暑い夏にお風呂というのは矛盾しているようですが、お風呂に入ってしっかり体を温めると、深部体温が上がります。また、体表近くの毛細血管が開いて、体温が放出されやすくなるので、結果的に体温が下がります。実は、このように体温が急激に下がるときに眠気が強くなります」

そして、寝ている間にも汗をかいて体温を調整しているので、寝る前にコップ1杯の水を飲んだほうがいいとのことだ。

入浴は「熱めの湯・就寝1時間半前」

入浴の温度も関係するようで、こんなデータもある。

1996年にハーバード大学マックリーン病院で行われた研究では、60〜72歳の不眠症の女性9人に、就寝の1時間半前に40〜40.5℃と、37.5〜38.5℃の温度の湯にそれぞれ30分入浴してもらい、眠ったときの脳波を計ったところ、前者の熱めの湯に入った人のほうが、夜間に起きることも少なく、深い睡眠が増えたという。

単に入浴するのではなく熱めの湯につかることが大事のようだ。

「大人は就寝1時間半前の入浴がおすすめ。子どもは体格が小さいので、大人より体温が上がりやすく下がりやすい傾向にあります。子どもや赤ちゃんなら、湯温は38℃前後とぬるめにし、つかる時間も数分で十分です。入浴後に体温が下がるまでの時間も大人より短いので、お風呂から上がって30分から1時間程度で寝かせましょう。大人は、熱すぎる湯温だと交感神経が優位になり、眠りにくくなることがあるので、注意してください」(森田さん)

また、まだ日が長めの今の時期は、早朝から寝室が明るくなることが多い。森田さんによれば「光は睡眠を浅くする効果があり、明るい寝室で眠ると目を覚ましやすくなるので、要注意」という。

古いデータになるが、1981年に奈良女子大学が行った研究では、3人の女性にさまざまな暗さに調節した部屋で寝てもらい、睡眠中の脳波を測定したところ、寝室の明るさが30ルクス以上になると、特に起床前2時間の睡眠が浅くなることが明らかになった。

2013年に韓国で行われた研究でも、4人の女性被験者に40ルクスのライトをつけていない場合とつけた場合とで睡眠の深さを測定。結果、浅い睡眠がそれぞれ8.6%と10.2%、深い睡眠がそれぞれ15.1%と11.3%となり、部屋が明るいほど睡眠が浅くなることがわかった。

「30ルクスというのは物影がうっすら見える程度、間接照明がついた薄暗い寝室くらいの明るさです。日当たりの良い部屋だと、遮光カーテンでも朝方にはそのくらいの明るさにはなってしまう。遮光カーテンを使い、かつカーテンの上下左右から漏れる光もふさぐようにしましょう。完全遮光の窓用シートがおすすめです」(森田さん)

暑さで失われ気味な体力を復活させるためにも、さまざまな工夫で安眠を得たいものだ。ぜひ試してもらいたい。

(一木 悠造 : フリーライター)