第5回 中国国際輸入博覧会でのトヨタの展示(写真:新華社/アフロ)

トヨタ自動車、三菱自動車の現地合弁企業が人員削減に着手するなど、中国の日系自動車メーカーへの逆風が強まっている。

日系メーカーのEV化の遅れは以前から指摘されていたが、フランスや韓国系に比べると販売台数の減少が緩やかだったが故にゆでガエル化した側面もある。しかし比亜迪(BYD)を筆頭とした中国メーカーの台頭によって2022年以降は退潮が決定的となり、各社とも「撤退」も含めた大きな決断を迫られている。

1000人削減のトヨタは「良心的」

2023年4〜6月期の営業利益が1兆円台の大台を超えたトヨタ。だが7月、中国国有メーカー広州汽車集団との合弁会社「広汽トヨタ」が従業員の約5%にあたる約1000人を削減したことが明らかになった。

中国汽車工業協会がまとめた2023年1〜6月の新車国内販売台数は前年同期比2.4%増だったが、トヨタの同期間の中国販売は2.8%減少した。4〜6月期決算でも中国事業の営業利益は536億円で、前年同期比26%減となった。

広汽トヨタは今回の人員削減を「正常な調整の範囲」と説明しているが、中国市場で防衛戦となっているのは否めない。

とはいえ、「1000人削減」にもかかわらず中国での広汽トヨタの評価は上がっている。

対象となったのは派遣従業員で、当初の期間満了前に契約解除となったわけだが、SNSで流れている条件提示資料によると、経済補償金、感謝金、ボーナスなどを合わせて月給の約6カ月分に相当する金銭を受け取れる。

広汽トヨタは派遣先と協力して再就職の支援も行っており、中国では「良心のある会社」「余裕がある」と受け止められている。

広汽三菱は生産再開断念

同じ人員整理でも、追い込まれ感が漂うのが広汽三菱だ。7月中旬の従業員に充てた書面では「自動車市場はガソリン車から新エネルギー車へのシフトが急速に進んでいる」「当社の車種は、販売が当初予想に届かず経営が苦境に陥っている」と現状を説明したうえで、「人員の最適化は避けられない」とリストラの方針を示した。

2012年に広汽集団、三菱自動車、三菱商事の3社が設立した広汽三菱はアウトランダーやASXを生産し、2017〜2019年の販売台数は年間11万〜14万台に達した。それが2020年に7万5000台と10万台割れし、2022年には3万3600台まで減少。コロナ禍による需要縮小と、テスラの上海工場稼働をきっかけにしたEVブームのあおりを受けた。

中国での報道によると、広汽集団は2022年9月、広汽三菱の経営改善のために10億元(約190億円)を援助した。それも焼け石に水で、2023年1〜3月の同社の販売台数は前年同期比58%減の3969台まで落ち込んだ。年間の生産能力20万台に対し、あまりに寂しい数字だ。4月以降、広汽集団の生産販売速報からは「広汽三菱」の名が消え、「その他」に分類されている。

同社は3月から長沙工場(湖南省)の新車生産を一時停止、SNSアカウントはいずれも今年2〜4月に更新がストップしており、中国撤退の噂が断続的に流れるようになった。

三菱自は「6月の生産再開を目指す」と撤退報道を否定し、6月には広汽三菱が広汽集団、三菱自動車などから最大で18億8400万元(約370億円)の融資を受けることが発表された。しかし現行車種で不振を打破する見通しが立たず、ついに人員整理に手を付けることになった。

中国の市場関係者は広汽三菱について、「車種が少なく、価格は高い。技術で見るべきものもない。衰退は必然」と声をそろえる。三菱自の中国市場に対するやる気の薄さを表しているとやり玉に挙がるのが、SUVのEV「エアトレック」だ。

同社が中国で投入する最初のEVとして注目されたが、広汽グループ傘下のEV企業が展開する「アイオンV」とプラットフォームやパワートレインを共有し、三菱自ブランドのため価格はアイオンVより高い。結果、消費者はアイオンVに流れ、エアトレックの月間販売台数は2023年は3月を除いて1〜2ケタ台で推移している。

マツダの販売台数は5年で4分の1

2000年代に中国人女性に大人気だったマツダも崖っぷちだ。

同社は7月、2003年に始めた一汽乗用車への生産委託を終了した。一汽乗用車は吉林省長春市の工場でセダン「マツダ6」とSUV「CX-4」を生産していたが、両車種の在庫がなくなり次第中国での販売も終えるという。

マツダの中国での販売台数は2018年3月期の32万2000台をピークに減少が続く。2020年11月に「中期経営計画見直し」を発表し、中国販売を年間40万台まで引き上げる目標を掲げたが、2022年3月期に17万台と、20万台を割り込み、2023年3月期は8万4000台とさらに半減した。

マツダも三菱自同様、中国で展開する車種が少ないうえに、唯一のEV「CX-30 EV」は中国で「油改電」と呼ばれるガソリン車を電動式に改造したもので、現地消費者には時代遅れに映る。

マツダは2021年に2つあった合弁会社を長安マツダに統合し、販売店の整理を進めている。毛籠勝弘社長が社長就任翌日の6月下旬に中国を訪れるなど、立て直しへの意欲を見せるが、EV新車種の投入にはなお時間を要する見込みで、踏みとどまれるかは不透明だ。

中国汽車工業協会によると、今年1〜6月の日系ブランドのシェアは14.9%。1年前の20%から急落し、国別で見ると落ち込みが最も大きい。ただ、中国の自動車市場全体を見ると、外資系と現地企業が組んだ合弁メーカーの淘汰は2020年前後から始まっている。

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衰退が最も早かったのはフランス系で、仏PSAと長安汽車の合弁会社「長安PSA」は親会社2社がいずれも合弁から撤退し、2020年に宝能集団に買収され深圳宝能汽車に名前を変えた。

PSAのもう1つの合弁であり、東風汽車集団と設立した「神龍汽車」も、2016年の販売台数が60万台だったのが2022年に12万7000台まで落ちており、同年に第二工場を東風本田に売却した。ルノーと東風汽車集団の合弁「東風ルノー」は、2020年に東風汽車が販売低迷を理由に合弁から抜けた。

2022年には広汽集団とステランティス(本社オランダ)の合弁「広汽FCA」が破産を申請した。同社は生産停止、広汽集団からの融資など、広汽三菱と退潮の歩みが似ている。ステランティスと広汽集団によるもう1つの合弁でジープを生産する「GAC FCA」も同じく同年、破産を申請した。GAC FCAの広州工場は広汽集団のEV子会社に委譲されており、広汽三菱の長沙工場も同じ道をたどるとの予想が多い。

アメリカ系と韓国系も厳しい。韓国の東風悦達起亜汽車は2021年12月、東風汽車集団が合弁から撤退した。

2016年まで4年連続で販売台数が100万台を超えた北京現代は、2022年の販売が25万台に低迷。同社は2021年5月に理想汽車に工場を譲渡したのに続き、今年6月20日に中国の2工場を売却すると発表した。

フォードのジム・ファーリーCEOは、2023年1〜3月期の決算説明会で中国市場への投資を減らすと言明。同社はピークの2016年に中国市場で127万台を販売したが、2022年の販売台数は49万6000台に減少し、今年は1300人の削減が報じられた。

上述の外資系ブランドの販売台数を見ると、いずれも2016〜2017年がピークで、その後急速に衰退している。中国の自動車市場は2018年に28年ぶりにマイナス成長となり、2019年も縮小した。

日系は大崩れしていなかったものの…

この2年で中国企業を含む多くのメーカーが販売台数を減らしたが、日系とドイツ系だけは大崩れせずシェアを高めた。だが、2020年以降のEV化の波でテスラだけでなく新興ブランドが次々に現れ、ブランドや技術の競争軸が一変した。

「合弁」のブランド力は5年前から消失していたが、2020年前後の敗者はEVシフトに乗り遅れたメーカーでなく、そもそも基盤が強くないメーカーだったため、旧来の競争軸の強者だった日系メーカーはEV化の波を認識しつつも、ゲームチェンジの影響を読み切れなかったのかもしれない。

日系メーカーの中国市場での退潮は、規定路線になりつつある。中国での大きな関心は、日系メーカーでもまだ強さを保っているトヨタとホンダ、とりわけトヨタが中国でシェアを維持し続けられるかである。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)