認知症の発症と帯状疱疹(ほうしん)ウイルスの関連を示す証拠は複数報告されていますが、帯状疱疹ワクチンと認知症予防の因果関係を示した論文はこれまで発表されていませんでした。そんな中、2023年5月にスタンフォード大学の研究チームが「帯状疱疹ワクチンには認知症予防効果がある」とする未査読論文を発表しました。

Causal evidence that herpes zoster vaccination prevents a proportion of dementia cases | medRxiv

https://doi.org/10.1101/2023.05.23.23290253 1





認知症と帯状疱疹の関連性を示す論文は複数存在していますが、それらの研究では「帯状疱疹になったから認知症になった」という直接的な因果関係を示すことはできておらず、「帯状疱疹以外の何らかの要因が認知症を引き起こした」という可能性を排除できていませんでした。

スタンフォード大学の研究チームはウェールズにおいて2013年9月1日に始まった「70〜79歳の市民に帯状疱疹ワクチンを無料で提供する」という施策に着目。この施策ではワクチンの無償提供対象を生年月日で明確に区分したため、2013年9月1日時点で80歳を超えていた市民と70〜79歳だった市民との間に帯状疱疹ワクチン接種率の大きな差が生じました。

以下の図は、横軸が1933年9月2日を「0週目」とした際の生まれた週を示し、縦軸が帯状疱疹ワクチンの接種率を示しています。図を見ると、1933年9月2日より前に生まれた人と後に生まれた人との間で帯状疱疹ワクチンの接種率に平均して47%もの差があることが分かります。研究チームはこのワクチン接種率の差をもとに「1933年9月2日より前に生まれた人と後に生まれた人の認知症発症率を比較することで、帯状疱疹ワクチンの接種率と認知症発症率の低下の間に因果関係を示せる」と考えました。



7年間の追跡調査の後に1933年9月2日より前と後に生まれた人の認知症発症率をまとめた図が以下。帯状疱疹ワクチンの接種率が高い「1933年9月2日より後に生まれた人」は帯状疱疹ワクチンの接種率が低い「1933年9月2日より前に生まれた人」よりも認知症発症率が優位に低いことが明らかになりました。



「帯状疱疹の発症率は男性より女性の方が高い」「認知症の発症要因は男女で異なる」といったことが知られているため、研究チームは男女別の分析も行いました。その結果、女性では帯状疱疹ワクチン接種率の高い人々は認知症発症率が低くなることが示されました。



一方で、男性では帯状疱疹ワクチンの接種によって認知症発症率を下げられる証拠は見つけられませんでした。



研究チームの一員であるPascal Geldsetzer氏は「帯状疱疹ワクチンの接種率が高いグループでは認知症の発症率が低下する」という研究結果が偶然によるものである可能性は低いと述べています。研究チームは今後、ランダム化比較試験を実施したり、帯状疱疹ワクチンが認知症発症リスクを抑える仕組みの解明に取り組むとのことです。