簡単ではないゲーム、「VALORANT」が人気の秘訣
アメリカのシューティングゲームが日本でも人気を集めている(©2022 Riot Games, Inc. Used With Permission)
「APEX Legends」 「Overwatch2」「Fortnite」などシューティングゲームが人気を集める中、イベント含め盛り上がりを見せるゲームがある。アメリカに拠点を置くRiot Games(ライアットゲームズ)の「VALORANT」だ。
VALORANTのプレー画面(©2022 Riot Games, Inc. Used With Permission)
「VALORANT」は2020年にリリースされたゲームで、5対5のチームに分かれ全25ラウンドをアタッカーとディフェンダーに分かれ戦う(前半12ラウンドで攻守交代)。敵チームを全滅させるか、アタッカーは特定の場所にスパイク(起爆剤)を設置し爆発、ディフェンダーはその設置を阻止または解除できれば1ラウンド勝利となる。これを繰り返し、先に13ラウンド先取したチームの勝ちとなる。高度な戦略を要求されることから「タクティカルシューター」というジャンルに位置づけられる。
遊べるプラットフォームがPCだけにもかかわらず、2022年4月に開催された「VCT 2022 Stage 1 Masters」では最大同時接続者数が国内のみで41万人となるなど日本にもファンが多い。
そんなに簡単ではないゲーム
2022年4月に開かれたVALORANTの国際大会では、日本代表として出場したeスポ―ツチームが世界3位に入ったことで注目を集めた。
そうした中、ライアットゲームズは日本オリジナルイベントを開催する。人気ストリーマー(配信者)やプロeスポーツ選手を招き、11月初旬から12月22日にオンラインで、12月23日、24日には横浜アリーナでオフラインで、統合イベント「Riot Games One」を開く。
2022年に日本で躍進を遂げたVALORANT。その理由と戦略についてライアットゲームズ日本法人代表の藤本恭史CEOとVALORANTのブランド・マネージャー佐藤翔太氏に話を聞いた。
藤本恭史CEO(撮影:梅谷秀司)
ーーVALORANTが日本で躍進しています。どのような部分が受け入れられていると考えていますか。
藤本恭史CEO(以下、藤本):まずはゲーム性が挙げられる。FPSゲームはいろいろなタイトルがあるが、VALORANTはその中でもタクティカルシューターで狙う対象(エイム)の精度などで知識と技量を求められるほか、チーム戦略が必要になってくる。一言でいうと、そんなに簡単ではないゲームだ。
日本ではあまりなじみのなかったタクティカルシューターの難しさが、さまざまなFPSタイトルをプレーしてきたユーザーに対し「もう少し自分のゲームスキルを伸ばせるかもしれない」と受け止められたのだろう。これまでのゲーム体験を超えていけるようなゲーム性を持っている。
また、VALORANTは「スタイリッシュなFPS」をコンセプトにデザインしている。イベントの音楽、映像的なものも見ていてプレーヤーに「クールだね」と思ってもらえるような体験をゲームの中に再現している。
おそらく、ほかのFPSタイトルに比べても年齢層が若いと思う。かっこいい映像や被写体がZ世代特有のパーソナリティを投影しやすいのだろう。
日本チームの上位獲得で生まれたもの
ーーZ世代にささるゲーム性なのですね。
藤本:数多くのストリーマーにVALORANTをプレーしてもらったことがある。ストリーマー同士がときに言い合いをしながら敵に打ち勝っていくストーリーは、見ていているだけでも自分に投影しやすい。ストリーマーとゲームを見ている人の距離感がぐっと縮まる効果もあったのではないか。
ブランド・マネージャーの佐藤翔太氏(撮影:梅谷秀司)
佐藤翔太ブランド・マネージャー(以下、佐藤):当社が実施したユーザーアンケートでも「次にどのゲームを始めてみようと思うか」という問いに対して、日本のZ世代は突出してストリーマーの影響が大きかった。そのストリーマーの多くにプレーしてもらえたのは大きかったと思う。
しかも、ストリーマーの多くが元々はシューティングゲームがうまく、ゲームになじみがある人だったからこそ気軽にVALORANTを始めてもらえた。
――VALORANTのeスポーツで日本チームが3位に入ったことも大きいのでは。
藤本:格闘ゲームやサッカーゲームという一部ジャンルを除いて、全世界に展開しているゲームで日本チームがトップに食い込んだことはほとんどなかった。大体のスポーツでも起こりうるが、(自国の勝利を)間近で見ることでナショナリティを意識させられることがある。それによって、ゲームに対する熱量が高まったことがが大きかった。
ほかにも、ストリーマーがウォッチパーティ(一緒に観戦すること)を開いてくれるなど、1つのコミュニティカルチャーが形成されていったことも大きい。
――日本では家庭用ゲーム機が主流だと思われますが、VALORANTはPCゲームだけで展開していますね。
藤本:競技性を突き詰めていくと、今のところPCが一番(高度な)操作が実現できるプラットフォームだと思う。eスポーツでも「League of Legends」(同じくライアットゲームズが提供するゲーム)と「VALORANT」はプラットフォームをPCにして、より厳密な操作でシビアな戦いができるようにしている。
日本のPCゲーム市場は欧米や韓国に比べるとそこまで大きくはない。市場の大半をコンソールとモバイルが占めている中、日本チームが世界3位になったのは人口比から考えると歴史的快挙だと思う。
VALORANTはゲームへのコミットメントが必要だが、その先のeスポーツの勝ち上がっていくと世界で活躍する舞台がある。そこは、ほかの家庭用ゲーム機のパブリッシャーやデベロッパー(開発元)との違いだというプレイヤーからの声もある。
――人気の背景には、ストリーマーやeスポーツの存在が大きいのですね。
佐藤:われわれのゲームの特徴はプレーすることの難しさがある。そのため、楽しいと感じるレベルに到達するのにはほかのゲームに比べて時間がかかると思う。
その中で、「ゲームをプレーをしている●●が好き」とオフラインイベントでネオンを持って応援しているファンの様子はほかのゲームではあまり見られないのではないか。ゲームで高いパフォーマンスを示すプロ選手に抱く好意やリスペクトは、ほかのゲームに比べても大きいだろう。
屋外広告では「情報量」が足りない
マーケティング面ではいかにユーザーがゲームの情報に触れるタッチポイントを増やしていくかが重要だ。VALORANTのゲームだけではなく、放映(ゲーム実況やeスポーツ大会)を通じて得られる情報は多い。
屋外広告などをあえて使わないのは、一定量の情報がないと伝わらないからだ。放映や大会での情報を大きいものから細かいものまですべてカバーして、初めて見ている人がプレーしたいと思える。
――ゲーム、eスポーツ、配信が一体となった運営なのですね。
藤本:League of Legendsもそうだが、われわれは競技性の高いゲームを長く楽しんでもらうためのバランス調整、パッチ(プログラム修正)のリリース、ゲームのアップデートなどを通じて、その時点でベストな体験をできるようにしている。
10年以上運営しているLeague of Legendsは常に新しいものを提供しつつ中身自体は変わらない運用の妙みたいなところがある。ゲームを荒らしてくるチーターへの対策など、プレーする環境に対する強いコミットメントを持っている。
そして、eスポ―ツ運営もゲームと繋がっている。そうでないと大事な時間をゲームに使ってもらう理由が見いだせなくなる。だから、われわれはeスポーツを作り上げるし、世界大会イベントも開催する。日々プレーする環境と周辺領域の整理をロングタームで考える思想は、ほかのゲームとは違うかもしれない。
(武山 隼大 : 東洋経済 記者)