物価高の今、食品や日用品を少しでもお得に購入したいというニーズが高まっている。さまざまなネット通販サービスがある中、「楽しい買い物体験」で注目を集めているのがシェア買いアプリだ(写真:つむぎ/PIXTA)

物価高の続く中、食料品や生活必需品を少しでもお得に買おうという動きが広がっている。企業の協賛品や訳あり品を安く購入できるサービスやプラットフォームも増えてきており、フードロス対策の機運とあいまって、利用者を増やしているようだ。

例えば社会貢献型の食品サイトとして知名度を上げているのがKuradashi。賞味期限間近、規格外、終売品など企業から提供された食材を安く提供する通販サイトで、購入金額の一部は買い手が応援したい社会貢献団体に寄付できる。コロナ禍を背景に協賛企業や利用が伸び、約39万人の会員を抱える。販売サイトを見ると70%、80%OFFなどの商品も多い。クラダシ広報によると「自分で寄付先を選べることや、宝探しのような感覚で利用できることなどが利用者の動機として多い」という。

また今はスーパーマーケットもネット通販のサービスを行っているが、大容量で安く入手できる業務用のスーパーの中にも、ネット通販に対応しているところがある。その他新商品をサンプリング目的で安く購入できるサンプル百貨店など、安く買えること以外の付加価値を加えたサービスも見られる。このように、出かけていく手間のないネット通販だからこそ、より多くのサービスを見比べることができ、少しでも安く購入したり、さまざまな買い物の楽しみ方を見つけることにつながる。

「遊び要素」を加えた共同購入

その買い物体験に、ゲーム性やコミュニケーションなどの遊び要素を加えたサービスで会員数を増やしているのが、シェア買いアプリの「KAUCHE(カウシェ)」だ。

例えば、商品一つひとつの容量が多い店(コストコなど)に知り合い同士で買い物に行き、購入した品を分け合った経験はないだろうか。

カウシェはそのネット版で、知り合いのみならず、アプリを利用している人に広く共同購入、いわゆる「シェア買い」を呼びかけることができる。


カウシェのホーム画面。人気が高いのは水や米など日持ちするもの。その他、肉や化粧品の注目度も高い(写真:カウシェ)

手順は次の通り。

まずアプリで好きな商品を選んで購入し、商品情報をSNSで友達や家族などにシェア、共同購入の参加者を集め、24時間以内に必要人数が集まれば成立。あらかじめ表示されていたお得な価格で商品を購入でき、それぞれに商品が届く仕組みだ。

通常、シェア買い成立までに必要なのは自分を含めて2人。参加者が必要人数に達しなかったときは不成立となり商品を購入できないが、成立率は高く、2021年9月から2022年8月の期間中では84%の成立率だったという。

取扱商品は食品、日用品、家電、化粧品など。通常より10〜20%オフの商品が大半だが、カウシェでは成立までの必要人数が30人、50人といった「大人数シェア買い」というイベント企画も行っており、その場合40〜60%値引きされることもある。また過去には2000人の大人数シェア買いが成立したこともあるそうだ。四半期に1回程度開催される「超シェア買い祭」ではそれ以上の低価格化が可能で、過去の例では約5000商品が最大79%オフになったことも。

「成功か失敗か」というゲーム要素

カウシェのサービス開始は2020年9月。立ち上げ背景について、運営企業のカウシェ代表取締役CEO門奈剣平氏は次のように説明する。

「開始したのがちょうどコロナ流行の直後とあって、物の売り買いが世界的に冷え込んだタイミング。日本のEC化率はだいたい8%なので、逆に言えば90%以上がオフラインで物が売り買いされている。傷つかない会社のほうが珍しいということだ。Eコマースの先進国である中国では逆に、コロナ禍でもオンラインの販売方法が多数あったことから、経済的な打撃を受ける企業が少ないように見えた。日本にももっとネットショッピング体験を進化できる余地がある。とくに安い、すぐ届くということにとどまらず、楽しさのあるショッピング体験を提供したいと考えサービスの立ち上げに至った」(カウシェ代表取締役CEO門奈氏)

カウシェのショッピングではまず、「取引が成功か失敗か」というゲーム要素がある。さらに、取引を成立させるためにSNSで商品の情報をシェアしたり、商品について情報を呼びかける、商品レビューを書いて人に勧めるなどのコミュニケーションが生じる。

ふだんからこまめにレビューを書いておくことで信頼性がアップし、シェア買いの参加者も集めやすくなる。いわば自らがインフルエンサーになれるわけだ。こうした買い物体験における「楽しみ」が、カウシェの特徴となっている。


アプリ内にある「シェア買い」のタイムラインでは共同購入の呼びかけや商品についてのコメントが書き込まれている(写真:カウシェ)

人気がある商品カテゴリは食品。水、米などの保存期間が長いもののほか、肉類も注目度が高い。その他2022年7月に取り扱いを開始した化粧品もよく売れているという。

「肉については、購入を考えている方が部位による味の違いについてLINEのオープンチャットで質問を投げかけ、購入経験のある方が答える、といったやり取りが連鎖的に起こったこともある。共同購入という仕組みならではのコミュニケーションだと注目している」(門奈氏)

上記のようなカウシェの今までにない購入体験が注目され、SNSによるツールということもあって、アプリについての情報が連鎖的に拡散。2022年9月時点でダウンロード数100万件を超えている。

人を経由し自動的に拡散されていく

同社の過去のデータから導き出した数値では、1人の商品購入が追加で1.56人への拡散・購買に繋がっているそうだ。

このような人を経由し自動的に拡散されていくカウシェの仕組みは、ビジネス視点から考えても非常にうまく働いていると言える。

出品事業者の立場で言えば、ユーザーが自発的に宣伝してくれるため、広告費や通販サイトの出店料といったコストを抑えられる。その分商品の値引きもできるわけだ。

また事業者にとっての売り上げ以外のメリットとして「あからさまな値下げ」をせずに購入してもらえる点が挙げられるという。ブランドイメージを守るため見切り品などの値下げをしていない事業にとって、シェア買いによる割引ということで、ブランドの方針を守りながら商品を売り切るのに役立つ。

「その他、既存の通販サイトとは異なる層にリーチする目的で利用されている事業者も多い」(門奈氏)

1000人、2000人といった規模の大人数シェア買いとなると、ロットで販売できる。いわば予約販売のような形になるため、商品ロスを防げるメリットがある。

なお、カウシェは取引が成立した場合、販売手数料として売り上げの10%、3.5%の決済手数料を受け取る仕組みになっている。そのため利用者を増やし、利用を継続してもらうための取り組みに最も力を入れている。

第1に、幅広い商品アイテムをそろえた「面白い売場づくり」だ。

「非常に速いスピードでお客様がお客様を呼び、しかもそのお客様像が自動的に進化していくという状態。そうした変化を続けるお客様が求めるものを常に提供できなければならない」(門奈氏)

「お客様像の進化」とは言い換えれば、利用客の多様化だ。例えば育児中の母親のグループが子育てに関する情報交換をする中で、カウシェについて口コミが広がり、利用するようになったケースがある。また国内各地の在留ベトナム人コミュニティに認知され、国内の在留ベトナム人の約2割にあたる8.5万人のベトナム人に利用されているそうだ。

多様な品ぞろえを実現するために出品事業者数も拡大していくが、その際注意しているのがアフターサポートの面だ。例えば安く購入できたとしても、商品がすぐ届かなかったり、クレームへの返信がないようでは、せっかくの楽しい買い物体験が損なわれてしまう。そうしたこともあり、現時点では、すでにオンライン通販の実績がある企業、例えばAmazonや楽天といった大手通販サイトに出品している事業者との契約を積極的に行っているそうだ。


LINEのシェア画面。オープンチャットは参加者が1万4000人まで膨らんでいるという(写真:カウシェ)

試しにカウシェとAmazonのサイトで同じ商品を比べてみたところ、「あきたこまち」5kgが防虫剤のプレゼント付きで2560円。Amazonはプレゼントなしで2580円なので、少しだけお得なようだ(いずれも調査時点の価格)。とはいえ、どのサービスが最安値になっているかは時期によって変動があるため、比べてみて、もっともお得なところで買うのがよいだろう。

その他上手な利用の仕方があるか聞いたところ、友達同士でLINEのグループを立ち上げて一緒に買うと、参加者が集まりやすく成功率が上がるという。

またLINE上にカウシェのオープンチャットが作成されており、そのグループで購入するやり方もある。こうしたカウシェ内のオープンチャットは参加者が1万4000人以上になっているそうだ。その他、「シェア買いタイムライン」では共同購入を呼びかけるコメントやリコメンドが掲載されているので、こまめにチェックしておくとお得な商品を見つけやすい。

ユーザーとして気になるのが参加者同士のトラブルだが、匿名で参加しており配送も別々のため、これまでのところ問題なく運営されているそうだ。ユーザー主導で自然とルールができ、コミュニティリーダーのような存在も生まれているという。チャットでのやり取りも参加者が互いに注意し合って円滑に回っているという状態のようだ。

目標は年間流通取引総額「1000億円」

将来的には2025年を目標に年間流通取引総額1000億円を目指す。


カウシェ代表取締役の門奈剣平氏。日本と中国のハーフで、15歳まで上海に在住。2012年よりホテル予約サービスのLoco Partnersに入社。後に執行役員も務める。カウシェでは新たな産業構造の構築とともに、「新しい働き方」も追求しており、フルリモートを実施、「複業」社員も多く採用している(写真:カウシェ)

「現在の弊社はヒト、モノ、カネが回り始めた状況。広告に頼らないサービスのあり方を世の中に紹介し、大きなECマーケットプレイスをつくるためのチケットを手にできたと考えている。流通取引総額1000億円は大きな目標だが、それでもAmazonの10分の1以下。Eコマースでは一定の規模を作るのが重要なので、まずは新しい事業者を増やしお客様に新しい商品を提供していきたいと考えている」(門奈氏)

EC先進国の中国では、カウシェのような共同購入ネットサービスは大きな市場を形成しているという。また日本でも似たサービスとして「シェアモル」がある。2019年9月にスタートし、2021年3月の時点で累計ユニーク訪問者数が300万人を超えているという。コロナ禍により飛躍的に伸びたEC市場において、さらに新しい形での競争が始まっているようだ。

(圓岡 志麻 : フリーライター)