サンフレッチェ広島、深刻な「シルバーコレクター症候群」をわずか6分間で払拭できた理由
過去に2連覇を含む3度のJ1制覇を果たしているサンフレッチェ広島。しかし、これまでにカップ戦のタイトルは一度も手にしたことがなかった(前身の東洋工業時代を除く)。
広島が患う"シルバーコレクター症候群"が深刻なものに見えたのは、わずか1週間前のことである。
広島はJリーグ誕生後で6度目となる天皇杯決勝に進出しながら、またしても敗れて"銀メダル"。しかも、J2のヴァンフォーレ甲府に歴史的番狂わせを許しての準優勝は、カップ戦との相性の悪さを感じずにはいられないものだった。
そして迎えた、セレッソ大阪とのルヴァンカップ決勝。広島にとっては6日前の、いや、過去30年間の屈辱を晴らすべく、悲壮と形容してもいいほどの覚悟で臨んだ試合だったに違いない。
キャプテンのDF佐々木翔が語る。
「(2週連続のカップ戦決勝は)今後はないと思う日程。今日負けたらメンタル的にこんな過酷なことはない」
ところが、広島はボール保持率でこそ相手を上回るものの、これといったチャンスを作れない。逆に後半53分、C大阪のFW加藤陸次樹に自陣でバックパスをカットされ、まさかの形で先制点を奪われた。
その後は、広島がさらに攻勢を強めるが、ゴールには至らない。そんなフラストレーションの溜まる試合展開は、広島とカップ戦との相性の悪さを強調するかのようで、むしろ試合は、C大阪の逃げきり勝ちに向かって着々と進んでいるようにも見えた。
しかし、ドラマは後半アディショナルタイムで待っていた。
90+6分、広島は右CKから相手のハンドで得たPKを、途中出場のFWピエロス・ソティリウが決め、まずは同点。
すると、わずか5分後、またしても右CKからソティリウがワンタッチでボレーシュートを叩き込み、たちまち逆転。広島は試合終了目前のわずか6分間で試合をひっくり返し、負の歴史に終止符を打った。
「一番大事なのは、カップを獲れると信じること。諦めないことだった」
殊勲の2ゴールを決めたキプロス代表ストライカーはそう語り、うれしそうに"奇跡の6分間"を振り返った。
ついにカップ戦のタイトルを手にしたサンフレッチェ広島
それにしても、劇的にしてあっけない、広島のルヴァンカップ初優勝。と同時に、カップ戦タイトル初制覇だった。
広島がルヴァンカップの決勝へ駒を進めたのは、これが3度目。天皇杯の6度と合わせれば、9度目となるカップ戦決勝。つまりは、決勝での負けを8度も味わってきたということである。
これまで幾多の先輩たちが悔し涙を流してきたばかりでなく、当の自分たちも1週間前に同じ思いをしたばかり。この日のルヴァンカップ決勝もまた、相手に先制を許す展開となり、「先週(天皇杯決勝)も勝てず、ジンクスを作った人たちを恨もうかと思ったくらい」とは、DF荒木隼人の弁だ。
ところが、長く、固く、閉ざされ続けてきた最後の扉は、何の前触れもなく、突然開いた。
わずか6分間の出来事だった。
「それ(逆転勝利)ができるだけの力があると信じながら戦っていたので、それを呼び込めた」(MF野津田岳人)
「チーム全員で勝ちとった勝利。だからこそ、自分たちの力に自信が持てる」(荒木)
今季、新たにミヒャエル・スキッベ監督を迎えた広島は、試合を重ねるごとにチームとしての完成度を高め、徐々に強さを身につけていった。
身につけた強さは結果にもはっきりと表れ、天皇杯とルヴァンカップの両方で決勝進出。J1でも一時は首位に肉薄するなど、残り2節となった現在もAFCチャンピオンズリーグ出場圏内(プレーオフ)の3位につけている。
昨季は4シーズンぶりのふた桁順位となる、11位に沈んでいたことを考えれば、望外の大躍進と言ってもいいのかもしれない。かつて4シーズンで3度のJ1制覇を成し遂げた黄金期の再来を期待する声も自然と高まる。
J1制覇を知るベテランのひとり、DF塩谷司は「この優勝は広島にとって財産になる。将来の広島が楽しみになる」と語り、GK大迫敬介、MF満田誠、MF川村拓夢ら、若手が活躍してのタイトル獲得を喜んだ。
しかし、ヨーロッパでの豊富なキャリアを持つスキッベ監督は、就任1年目でのタイトル獲得にも決して浮かれることなく、こう言って釘をさすことを忘れなかった。
「去年まで中位のチームが上位にいけるようになったが、スポーツでは上位にいくことよりも、高い位置を保ち続けることのほうが難しい」
実際、変革途上にある広島は今季、規律とスピードにあふれるサッカーを見せる試合があった一方で、おとなしいまま何もできずに終わった試合があったことも確かだ。この日のルヴァンカップ決勝も、特に前半などは後者に属する内容だっただろう。
だが、来日最初のシーズンとしては上々の出来。そんな手応えをうかがわせるように、ドイツ人指揮官は、こうもつけ加える。
「来年も、魅力的で成功するサッカーを目指していきたい」
クラブの歴史に新たな1ページを記すルヴァンカップ初優勝。ベテラン、中堅、若手とバランスよく構成された広島は、新たな時代への第一歩を理想的な形で踏み出した。