高橋克実、36歳でバイトしながら出演したドラマ『ショムニ』。共に演じた伊藤俊人さんは「今でも特別で大切な存在」
1998年、36歳のときに出演したドラマ『ショムニ』(フジテレビ系)の寺崎人事部長役で一躍注目を集めた高橋克実さん。
『フルスイング』(NHK)、『確証〜警視庁捜査3課』(TBS系)、『オールドルーキー』(TBS系)、『劇場版ラジエーションハウス』(鈴木雅之監督)、舞台『女の一生』など多くのドラマ、映画、舞台に出演。俳優としてだけでなく、『トリビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜』(フジテレビ系)の司会や『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ系)などでキャスターとしても活躍することに。
◆『ショムニ』の現場はアドリブ三昧
『ショムニ』シリーズでは、高橋さん演じる寺崎人事部長と伊藤俊人さん演じる部下・野々村人事課長の息の合った掛け合いも話題に。
−『ショムニ』で広く知られることに−
「そうですね。『ショムニ』は、間違いなく俳優としてのターニングポイントになった作品です。5年間で3シリーズあったんですけど、街で声をかけられるようになったのは『ショムニ』が最初ですね。シリーズが始まったのが36歳のときでしたが、当時はまだバイトをしていました。
事務所に入ったのが32歳で、ドラマに出るからには『何かを残してこい』とずっと言われていたんですけど、大概は1シーンくらいの出番です。ポンと行って、それですぐに終わっていましたから、残すも何も(笑)。
でも、『ショムニ』以降は、だんだん仕事が続くようになってきて、それがまず驚きでしたが、本当にうれしかったですねえ」
−伊藤(俊人)さんとの掛け合いもおもしろくて毎回楽しみでした−
「伊藤ちゃんとは同じ新潟出身だったんです。行きも帰りも電車が同じで、二人とも時間もいっぱいあったので、一緒に何度も何度も稽古をしていました。
ドライリハーサルで、放送では絶対に使わない下ネタやアドリブをバンバン入れたりしていたら、ものすごくスタッフにウケたんです。だんだんドライだけを目当てに他から見学に来る方も増えたりして(笑)。
子どものときから人を笑わせることが好きだったから、そんな反応がうれしくて、張り切ってリハーサルをやっていました。あのやりとりは、伊藤ちゃんと二人一緒だったからこそできたこと。まさか早くに亡くなってしまうなんて思ってもいませんでした。今でも伊藤ちゃんは僕にとって特別で大切な存在です」
◆バラエティ番組『トリビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜』の司会者に
2002年、高橋さんは同じ事務所の八嶋智人さんと『トリビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜』の司会をつとめることに。番組は高視聴率となり、高橋さんは司会者としても活躍の場を広げていく。
「うちの事務所が初めて芝居をプロデュースした舞台『おかしな2人』に八嶋くんと一緒に出たんです。男バージョンと女バージョンがあって、その両方に二人で出ていたんですけど、女バージョンで僕たちは、変ななまりでしゃべるスペイン人の兄弟役だったんです。
それが本当にあまりに振り切っていたので、ご覧になったフジテレビの当時のプロデューサーさんが、『今度深夜に新しい番組をやるんですが、二人でMCをやってみませんか』とお話をくださったんです。
当時のディレクターさんが27歳くらいで若かったですし、すべてが斬新でおもしろかったですね。放送枠が夜中の1時頃だったので下ネタも満載で(笑)。僕もそういうキャラクターでやっていましたしね。
でも、バラエティ番組でしたが、どこか芝居づくりに通じるところがあって、台本も練り上げられていました。
それで、全体の収録が終わった後に、僕と八嶋くんが残って、二人のやりとりのところを何度も撮り直しもしていたんです。『ここのところの言い方がちょっと』とか『もっと狙わないでください』とかいろんなことを言われながら。妥協することがなかったです。あれはなかなか他では経験がないですね」
−お芝居みたいですね−
「そうです。ああいうことは、後にも先にもあれしかないですね」
−『トリビアの泉』でまた高橋さんのイメージは新たになりましたね−
「そうですね。ドラマで共演した綾野(剛)くんは、あのイメージが強いみたいで、『トリビア見ていました。克実さんのあのボケ倒す下ネタが大好きでした』って言っていました(笑)」
−高橋さんが下ネタを言っているときのタモリさんと八嶋さんの表情がユニークでたまりませんでした−
「そうそう。タモリさんが『絶対に言え、言え』とおっしゃるから言ったのに、ああいうリアクションになるんですよ(笑)。本当におもしろかった。今もときどき『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)に呼んでいただくとうれしくなりますよね」
−八嶋さんとは本当に仲が良くてスキューバダイビングの免許を取りにお二人でサイパンにも行かれたとか−
「行きました。ちょうどトリビアの頃です。一緒の番組をやっていて休みが同じだったので、『どこか行く?』って言って2回ほど行ったかな? 2人だけで(笑)」
−せっかく免許を取ったのにもうやってないんですか?−
「やってないですね。一時期はハマッていましたけど。僕が1番好きだったのは、ボートから海底まで下りていくときのあのフワーッという感じ。空を飛んでいるみたいじゃないですか。泳いでいるのとも違うし、僕はあれだけを繰り返したくて、エイとかの写真を撮ることには興味がなかったんです。だから、結局辞めちゃいました」
◆憧れの松田優作さんの次男・松田翔太さんと共演
2008年、高橋さんは土曜ドラマ『フルスイング』(NHK)で連続ドラマ初主演を果たす。これは、落合博満さんやイチローさんらを育てた元プロ野球の打撃コーチ・高畠導宏さんが還暦前に一念発起して高校教師になる実話をもとにしたドラマ。
「『フルスイング』は48歳のときでした。だいたい僕は設定年齢より一回り下なんです。『ショムニ』の部長が48歳の設定で僕は36歳。『フルスイング』も60歳の役を48歳のときにやりました。
最初『60歳?60の役をやるんですか?』って聞きましたからね(笑)。でも、原作を読んで『これはすごいなあ』と思いました。『フルスイング』は、いまだにどこに行っても皆さんに、『見ていました』と言っていただきます。かなり前の作品なのに覚えてくださっていて本当にうれしいですね」
2011年、高橋さんは、『ドン★キホーテ』(日本テレビ系)で、憧れの松田優作さんの次男である松田翔太さんと共演。これは、ある日突然、任侠集団の親分(高橋さん)と児童相談所の青年(松田翔太さん)の魂が入れ替わってしまい、コワモテの親分が子どもたちを救うヒーローに…というもの。
−お二人の中身が入れ違ってしまうというユニークな設定でしたね−
「『仁義なき戦い』とか昔の任侠映画が大好きだったので、ヤクザの親分役はやってみたいと思っていたんです。だから、お話をいただいたときは、めちゃくちゃうれしかったんですよ。ついに僕もこういうヤクザの親分役ができるんだって。そうしたら外見だけで、中身は児童相談所の職員。ケンカも弱くて『ヤクザの親分の格好なのに、何だよー』って(笑)」
−奥さん役の内田有紀さんと踊るシーンも印象的でした−
「あれは踊りが覚えられなくて大変でした(笑)。内田さんがリードするという感じだったから何とかなりましたけど、本当に大変でした」
−翔太さんは、角度によってはやっぱり優作さんに似ていますね−
「そうですね。やっぱり翔太くんとやっていても、最後までドキドキしていましたね。『あ〜、あの憧れの優作さんの息子さんだ』って」
−翔太さんには、高橋さんが優作さんのファンだということは?−
「翔太くんも知っていました。僕は優作さんの出演映画を何度も観て服装を真似たり、ポスターの写真を真似た写真を撮ったりしていましたから、普通にそういう話をしていました」
高橋さんは、2013年に『確証〜警視庁捜査3課』に主演。2015年には『直撃LIVE グッディ!』のメインキャスターをつとめるなど幅広い分野で活躍することに。次回後編ではその舞台裏、初主演映画『向田理髪店』の撮影エピソードも紹介。(津島令子)
ヘアメイク:国府田雅子(b.sun)
スタイリスト:中川原寛(CaNN)