※この記事は2013年09月21日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第290回

　神奈川県鎌倉市で、信号待ちをしていた女子中学生３人が、突然歩道に突っ込んだ車にはねられる事故があった。３人のうち、２人は骨を折るなどの重傷を負ったという。
　運転をしていたのは84歳の男で、ブレーキとアクセルを踏み間違えたとみられている。(*1)

　また老人の車が若者を襲った。
　またというのは、あまりに老人のこうした事故が多いからである。必ずといっていいほど、この手の事故は老人である。初めてニュースをテレビで見た時に、フロントガラスに付けられたモミジマークを見て「やっぱり」とおもった。
　僕は、高齢者の事故を見聞きするたびに「もう老人は車に乗るな！」と思ってしまう。

　しかし、老人はそんな文句をものともせずに車に乗り続ける。なぜなら頭の固いお年寄りは「自分だけは大丈夫」と、根拠もなしに信じているからである。
　最近は誤衝突や誤発進を防ぐ装置のついた車なども出ているが、そうした装置ですら「自分だけは大丈夫」という根拠で導入したがらないのが、老人というものである。

　彼らはなぜ車に乗り続けるのか。それは彼らが若者や中年だった頃「車」は「自立した自分」を表すための大切なアイテムだったからだ。高度経済成長で誰でも正社員になれた時代に、簡単に組めるカーローンを組んでマイカーを買った。それが自立した姿だと信じていたからだ。

　老人が自らを「自立した大人である」と認識し続ける限り、彼らが車を捨てる日は来ないであろう。しかし、実際には彼らが車に乗ることで、こうした事故のリスクは高まるのである。

　一方、僕たちは「車」という物体に、それほどの魅力を感じていない。今の時代に「車を持ってこそ、一人前の大人」と信じている人はいないだろう。いるとしたら田舎のDQNくらいである。

　若者の車離れなどと揶揄されるが、それでも国民一人ひとりが、巨大な鉄の塊を猛スピードで動かして事故を起こす社会よりも、車に頼らない生活を営む方が、はるかに健全である。

　僕は、老人がブレーキとアクセルを踏み間違えて起こる交通事故というのは、「自立」という個人の自尊心の傲慢さが、他人の迷惑を顧みなくなった一例だと考えている。

　日本人の多くは、なんでも自分一人で責任をもって行動できることを自立であると考えているが、自らの限界を知り、他者に自分のできないことを委ねることこそ、本当の自立なのではないだろうか？

　年をとったら、自ら車を乗り回すのではなく、公共交通や、低速で危険性の少ない乗り物に乗り換える。そうした自制心の有り様こそが、これからの老人たちに求められている。それは自分で立つ「自立」ではなく、自己を律する「自律」であるべきだ。
　僕もこれからどんどん年老いていくのだから、自らの教訓にしたい。

*1：交番に車突っ込む、中学生３人はねられ重軽傷／鎌倉（神奈川新聞）
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130921-00000001-kana-l14