※この記事は2013年08月31日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第287回

　JR東海は、2027年の開業に向けて、営業車両の原型となるL0系リニアモーターカーの走行試験を始めたという。(*1)
　僕たちの世代にとっては「未来の超高速鉄道」として、21世紀には当たり前になっているはずだったリニアモーターカーは、未だに試験中。それでも平成39年には東京ー名古屋間の開業を目指しているそうだ。あと14年か。そうなると俺は52歳。その頃までに俺は生きていられるのかなぁ。

　ところで、ここ数ヶ月、ちょこちょことリニアモーターカーのニュースが流れていた。
　少し前に流れていたのは、リニアモーターカーの駅の話だ。JR東海側は、待合室も切符売り場もない、必要最小限の設備を目指すという。

　また、リニアの地上区間においても、コンクリートのフードで完全に囲い、騒音を防止するという。これに対して、一部メディアは「景色が見えないと不満が出るだろう」と報じているし、リニアが走る光景を観光資源としたい自治体からも不満が出ているそうだ。(*2)

　そのうち、景色の問題についてだが、利用側として考えてみれば、リニアを利用する人は景色を見たい人ではない。そもそも、なぜ交通インフラにいちいち富士山なんて山を見ることを強要されなければならないのか。そんなに景色を楽しみたければ、青春18切符で景色を存分に楽しみ、大垣駅でダッシュでもしていればいい。鉄オタでなければ、普通に新幹線のこだまやひかりにでも乗ればいい。 　なにせ、東京から名古屋まで40分とされる時間など、ちょっと本を読んだりスマホをいじっていれば、あっという間である。景色などに配慮している暇があったら、コンクリートに覆われて、時速500キロの速度で携帯が使えるのかとか、無線LANはどうなんだといった、テクノロジーの部分を検証していただきたい。

　それではどうしても寂しいというなら、車体に窓のように液晶を貼って、景色の映像でも流しておけばいい。時速500キロを超える高速運転で営業するのだから、装飾は無視して、少しでも危険要因を減らしてもらいたいというのが、利用側としての希望である。 　一方で、外からの景色についても、完全にコンクリートで覆う案に賛成である。露出区間があれば、それだけリスクは増える。風切り音やトンネルから出た時の破裂音など、騒音要因にも事欠かない。

　もし、外を走らせたいのであれば、自治体の側が周辺から民家を完全に排除するなり、騒音についての苦情が出ないようにしてほしい。また、周辺環境を保護して動物の侵入などの危険がないようにしてほしい。

　少なくとも自治体側は、景観と騒音は二択問題であり、どちらを立てればどちらかが立たない関係性であることは理解してほしいところだ。その上で、景観と安全性も対立しやすい問題であることも理解してほしい。見栄えを重視して事故が発生するのでは、洒落にならない。

　なにせ時速500キロで走る車両に人の命を預けるのだ。小さな欠陥が人命を奪うことになりかねない。福島第一原発のように十分な安全性を確保できずに事故ちゃいました、てへぺろ。では困るのだ。
　とにかくリニアは、移動速度と安全性を第一に考えてほしい。リニアに旅情を求める必要はない。

*1：リニア、静けさと騒音と　時速５００キロで見えたもの（朝日新聞）
http://digital.asahi.com/articles/NGY201308290021.html
*2：リニア新幹線、車窓の光景は“最悪”？富士山など夢の夢…沿線自治体ブーイング、ひたすら“土管”の中（MSN産経west）
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/130706/wec13070612000001-n1.htm