NPOで働くということ～NPOの価値をどう評価するのか - BLOGOS編集部
※この記事は2013年03月22日にBLOGOSで公開されたものです
工藤啓氏（NPO法人「育て上げ」ネット理事長）に、若者と仕事、働き方について取材を続けるブロガーのイケダハヤト氏がインタビューを行った。前編に続いて、後編では就職先として、少しずつ認知度も上がっているというNPOが抱える問題に話が及んだ。【構成：大谷広太（BLOGOS編集部）】社会的活動の価値を金額換算する「SROI」
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「僕は家でネット使ってこういう価値を提供してます」ということについての社会的に承認をしないと、やってることに対して、これで本当にいいんだろうかって思ってしまうのではないでしょうか。
イケダ：価値観の問題ですもんね…。
工藤：これは発信していかなきゃいけないんですけれども、「あなたより税金払ってる」っていう言い方は共感を得ないでしょうし、よいコミュニケーションが必要になってきます。
イケダ：僕たち若者一人ひとりが税金で社会を支えていくのは難しい面もあるわけですよね、昔とは条件が違うので。昔は上り坂のエスカレーターに乗ってた時代で、多分今は下り坂のエスカレーターなので、そこで頑張って金稼ぐって相当マッチョじゃないと無理ですし、あとはジェイコム男さんみたいに株みたいな…金融でレバレッジを掛ける仕組みを使わないと多額の税金を納めるってすごい難しいはずなんですよ。
それを僕ら若者全体におしなべて要求するのではなく、もっと違う貢献の方法がある、という理解を広げていかなきゃいけないと思っています。
僕自身も仕事をしながら業務時間の半分を使ってNPOの支援をやっているんですが、そちらは税金も何も発生しないものなので、一般的に見ればボランティアに見えるし、役に立っていないように見えつつも、実際は世の中の役に立ってるはずなんですよね。
でもそういうものって自分でいくら役に立ったと思ったって可視化ができないですし、数値化するのもすごく難しいなと思うんですね。
そこで聞きたいのですが、工藤さんは社会的活動の価値を金額換算する「SROI（Social Return of Investment）」を実践されたわけじゃないですか。実際どのような感じでやられているんですか？
工藤：概略になりますけれども、基本的には社会的な価値もしくは定性的な価値です。変化という価値に着目するわけなのですが、ある変化に対して代替指標を用いて数値化・貨幣化して、社会にどれだけインパクトがあり、そのインパクトはお金にするといくらなの、ということを計算します。。それで、いわゆるROI=投資と回収、ではなく、頭にSocial=社会をつけています。
被災地支援を日本マイクロソフト社と行ってきたのですけれども、その「東北UPプロジェクト」の成果もSROIを活用して算出しました。ビズデザイン株式会社に第三者評価をお願いし、オープンにしています。
これはアメリカで開発され、イギリスで発展して、またアメリカに戻ったみたいですけど、NPO活動ってとても分かりづらいですからね。
イケダ：価値を測りづらいですもんね。
工藤：例えば、高齢者の居場所の提供をやっているとします。高齢者がその居場所を活用している。居場所がなかった場合に行くのはもしかしたら、病院かもしれない。病院に行けばお金がかかりますし、そのうちのある割合は税金で賄われます。ある高齢者が病院ではなく、居場所に行くことで元気になれるとしたら、居場所の費用はかかりますが、その一方で治療費の自己負担分と公的な費用負担が削減されます。それ以外にもさまざまな代替指標を立てながら居場所という機能が生み出す変化を定量化し、貨幣換算化して算出していきます。
イケダ：面白い！
工藤：僕はSROIの良いところは、例えば、無業の若者を0として、就職したら1として成果を計るだけではなく、0の状態が1に向かっていく変化のプロセス（0.1から0.9）までの価値も表現できるところなんではないかと考えています。
イケダさんの活動も、SROIの指標でやれば実際にアウトプットとしての社会価値が貨幣換算された状態で出るのではないでしょうか。こういう今の社会に応じた指標を非営利なりボランティアなりプロボノは導入していかないと支援者がつきづらいのではないかと思います。逆にもっとわかりやすく“わかりづらい”活動を可視化できれば「あそこに投資しよう」とか「寄付して応援だ」となるんじゃないかと期待しています。
イケダ：寄付者もつかないですよね…
工藤：SROIをやると、当然低く出ちゃうことももちろんあるんですけどね・・・。それでも企業や投資家、潜在寄付者に対して「私たちの活動の効果はこれです」と提案できるようになると起こらなかった何かが起こるかもしれない。もしかしたらものすごい金額を集めるグローバルな組織とは比較にならない規模であったとしても、社会的な投資効果が何倍というう形で出るので、小さい活動の効果が10倍になって、何千億も集めたところが２、３倍だった場合、どっちがいい？と提示つけられるのが良いところです。小さな団体が戦うためのレバレッジが出せるので、これは武器ですよね。
イケダ：面白いですね。
工藤：BLOGOSさんもやった方がいいと思うんですよ（笑）。
イケダ：確かに（笑）。企業のCSR活動も同じですよね。
工藤：多くのCSR関連の部署の人たちは、やったらどれ位プラスになったかを経営陣に出せるので、想いと願いを込めた継続の会議でも武器になるんじゃないかと思います…
イケダ：まだこのSROIの話って殆ど語られてないですし、事例もすごく少ないですよね？国内だと育て上げネットさんがやったぐらいじゃないですか？
工藤：盛り上がり始めたんですけど、導入事例が少ない。SROIは第三者が評価をしなければならず、コストもかかるからです。だからそれがプロボノでできればいいなって。
イケダ：また3月に出されたのは、どこかが手伝ってくれたんですか？
工藤：あれはパートナーである日本マイクロソフトさんが導入に踏み切ってくださったんです。あれをやってから、企業さんと一緒にやるときにSROIって導入できるのかっていうお話をすることが増えましたが、それには事業費の一部が取られてしまうので…。
イケダ：効果測定にお金が掛かっちゃうんですね…
工藤：それこそBLOGOSの社会的な価値は幾らなのかっていうのを計測するのにコストはかかりますが、多くのひとが共感と納得すれば、もっと多くの支持者が出てくるんじゃないかと思います。
イケダ：その話は面白いですね。自分で言うのもなんですけど、例えば今回のインタビューも、他にあまり出てこない、とても良い話だと思うんですよ。ただ、内容がニッチで、PVはそんなに稼げないと思うんですよね。だからこそ、PV以外の記事の価値も計測できるようにしていかないといけないと思いますよね。
豊かさを"可処分所得"で考える
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工藤：今は、ハローワークで一生懸命仕事を探している人を支援して、就職させたことと、10年間自宅から出られなかった若者が就職できたことが同じ“就職者数1名」になっちゃうんですよね。事業仕分けが象徴的でしたが、が、非常に成果が出しづらい、見えづらいものがバサバサ切られちゃう傾向にあります。あの時よく出ていた言葉がまさに費用対効果なんですね。税金の使い道は、単なる費用対効果だけじゃなくて、効果がなかなか出ないものへの再分配、って考えないと…。そういう文化を創造していかないとNPOは戦えないじゃないですか。
Webサイトも、Wikipediaなんて、測定はしていませんが、皆が社会的な価値を認識してるから、5ドルずつとか寄付してると思うんですよね。
イケダ：社会的価値か、確かにそれは面白いですね。年収ではない、また違う新しい指標で。むしろこれからの社会ってそっちの方が重要でしょうし。
工藤：僕自身は可処分所得と可処分時間の最大化みたいなところを価値に置けたらいいなって思っています。2時間の満員電車なのか、歩いて5分の所なのか。また、実際は年収ではなくて可処分所得が多い方が嬉しいわけですよね。年収280万円でも使える金額は年収300万円の人よりも多いとか。
今までは、年収のためには遠くからでも通う”企業戦士”だったので、年収が下がる聞くとつらいですが、可処分所得を増やし且つ可処分時間を増やすと発想を切り替えることで違う価値観を持つことができるんじゃないかと思います。
イケダ：可処分時間の考えは重要ですよね。最近の若者たちはそこはかなり意識してるでしょうけど、可視化されないので、語るのは難しいですよね。
工藤：まだ正社員だけなんですけれど、育て上げネットでは、立川に勤務している社員は、市内に引っ越してくる場合は敷金礼金を出したりとか、社用車で使ってない車があれば家族旅行でもデートでも使っていいとか。そんな工夫をしていくことで可処分時間や可処分所得を少しでもあげられないかと思っています。
もちろんいつでも使えるわけじゃないですけど。
そういうのを考えた時に、NPOは給料が安いから働けないで留まってしまうのではなく、可処分所得ベースで考えたときにどう？って。でもそこがなかなか理解されないですし、当然、年収も重要ですので難しさを感じています。
イケダ：難しいですよね。
工藤：6時に終わって6時10分には子供と遊んでるっていう。失われた1時間20分とかを考えれば…
イケダ：本当ですよね。よっぽど豊かですし、そっちの方がその人にとっても絶対いいですからね。
経営者の人たちも、そういうものも経営の指標の中に取り入れて社員の幸せを考えて行ったりとかっていうのが重要ですよね。
NPOで働くということ
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イケダ：先日、大学4年生で4月からNPOで働くという方に会ったんですね。彼は何が不安かって言うと、年収が低いっていうことと、新人教育が受けられるかどうかということ。やっぱり企業に行かないと、社会人として成長できないんじゃないかというイメージがあるみたいなんですよね。
工藤：今のとこNPOで働くことって、優秀な人材が転職をしているとか、確かにそうなんですけど、結局出すべきところに出せてない。出す必要があるかと言われれば株式会社でもなかなか個々の年収はわからない。激的に変えるにはNPOがある程度給与公開していくことなのかなって。
日本はアメリカと違って、仮に僕が年収1000万円超えたと言った瞬間に袋叩きになると思うんですよ。とは言え一般の社員の給与平均とか、新卒の社員がどれくらいかとか、ああいうのはやっぱり優秀な人が居るとか、モチベーションが高いとかっていう一般の人から見たらよく分からない文脈だけではなく、ある程度収入を明確にするとかしていくのがいいのかなぁと。
イケダ：NPOの平均年収みたいなのってちゃんとした統計がないですからね。一体幾らなのか分からないすからね。
工藤：あるセグメントで見ていかないと。年商1億円以上のNPOのお給料がこれ位、年商5,000万円でこれ位とか、出てくると働いてもいいかなって人が出てくると思うんですよね。あとは伸びシロですね。最初は厳しくてもある段階を超えるとこうなるとか。それがわかると自分が入って組織を成長させたら、ということも見えてくるのではないでしょうか。
工藤：休学を決意したインターン生を受け入れるときに親御さんに言われたのは、休学してもいいけど絶対だけは就職するなよって。
イケダ：そうなんですか…そうなんですね…
工藤：僕らの子供が大学生になる頃に、こういう今までと違った仕事をしていることがどこまで広げられているかっていうことでしょうね。
イケダ：そうですよね、親御さんが否定するのも、会社員・サラリーマン的な価値観からするとそうですもんね。
工藤：例えば、憧れるひとの多い外資系企業って、結構NGOやNPOから転職してきてるんですよ。空気としての組織階層ってNPOは一番下、最下層じゃないですか(笑)外資、上場、中小零細、NPOの順。でも、NPOと外資系ってメビウスの輪みたいに繋がっていて、結構人材の流動性が高いんじゃないかと思うんですよね。
新卒でチャレンジすると何千倍の倍率、でも敢えてそれに近いNPOとかNGOに行くことで最終的にキャリアパスをそっちに持って行くことも不可能ではない。ああいう企業って新卒をたくさんは採らず、中途採用がメインなので、そこにどれ位NGO、NPO割合がいるかって見ていくと、全然違う潮流が出来てるんじゃないかっていう。
イケダ：確かに僕の周辺でもNGOにいる人は、元外資系金融多いですね。不思議ですね。言われてみると、元々マッキンゼーいましたとか結構ゴロゴロいますよね。
工藤：逆にJICAで国際貢献やってたが人が今はヒルズで働いてたり。
ああいうのを大学生に見せていくと、大企業に行けなかった、じゃなくて、NPOで活躍してそういう企業への選択肢も持ったうえで社会課題に取り組む。それもいいかなっていう風になると思うんです。
大体サッカーだと、若い人間ってJ2で名を挙げて、J1へ行くと。そして海外。若い逸材、原石を磨いて上位クラブへ得るのがビジネスモデルのチームっていくらでもあるんです。今のNPOも、人材を輩出していくっていうのが一番やりやすい。受け皿にはまだちょっと難しいことが多い。
イケダ：優秀な人がNPOでインターンをするのか、インターンをする奴が優秀になるのか分からないですけど、少なくとも就職強者的な人が多いですよね。
工藤：うちに来たインターン生でスゴイ奴だなって思ったのは、若者支援をする気がなかったりします（笑）。広報に取り組みたいとか、企業との共同企画をやりたいですとか、社会課題のど真ん中を支えるところや、創るところ。結局ポンポン内定を決めて行く。まだ誰も戻ってきませんけど(笑)
イケダ：まあ行くでしょうね。NPOは裁量も多いですし、そこで修行して広報のプロになったら…
工藤：NPOの姿が社会問題を解決していく最前線ではなくて、それを支える機能面を多分見てるんだと思う。どうやってお金を作ってるんだろうとか。
イケダ：この記事を読んでくれている若い人はぜひNPOでインターンをして、社会的な課題にコミットし、非常に大きな裁量と非常に大きな壁の中で自分のスキルを磨いていくと外資系金融に行けるかもしれないと（笑）。
イケダ：今日はありがとうございました。
・（前編）無業者、SNEP、触法青年…"就活弱者"の支援を考える
プロフィール
工藤啓（くどう けい）1977年東京都生まれ。NPO法人「育て上げ」ネット理事長。明治大学特別招聘教授、金沢工業大学客員教授。成城大学中退、Bellevue Community Collage卒業。著書に、「NPOで働く」、最新刊「大卒だって無職になる」など。・若者と社会をつなぐ支援NPO/ 育て上げネット理事長工藤啓のBlog｜Twitter
イケダハヤト 1986年東京都生まれ。ブロガー。「テントセン」共同創業者。中学時代から個人ニュースサイトを運営、雑誌の連載を持つまでに成長させる。2009年、早稲田大学政治経済学部卒業後、ルネサステクノロジ、トライバルメディアハウスを経て、2011年にフリーランスに。NGO、NPOの支援も行う。
・ihayato.書店｜Twitter
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