※この記事は2013年02月09日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第258回

　気象庁は２月６日に大雪になると予報を出したが、結果として雪は降ったものの、積もらなかったことに対して、一部から苦情が出ているという。(*1)

　東京都知事の猪瀬直樹も「気象庁は責任に対する心理に支配され、責任逃れのために降雪量を多めに見積もって多くの組織や人に迷惑をかけた。次やったら責任を追求します」という、よく分からないキレかたをしている。(*2)

　１月14日に大雪が降り、当日にいろいろな問題が発生しただけではなく、数日たっても降った雪が凍って長く残るなど、首都圏に住む人達の生活への影響があまりに大きかっただけに、今回の大雪予報は大きく注目された。

　しかし、その注目とは裏腹に、結果として雪は降ったものの、みぞれ混じりでほとんど積もらず、翌日にはさっぱり消えていた。まぁ、予報が外れたといえばそのとおりだが、生活への影響が少なかったという点では「予報が外れてよかった」という感想を抱く人も少なくないはずだ。

　しかし、毎日電車通勤をしているサラリーマンにとっては、単純にそうとは思えなかったのかもしれない。

　JRは大雪を警戒して首都圏でラッシュ時に間引き運転を実施したが、秋葉原駅での人身事故があったこともあり、ターミナル駅は大混雑であった。(*3)

　しかし、こうした大雪や台風などでサラリーマンが足止めを食らっているたびに僕が思うのは、なぜ交通が混乱すると分かっている時にまで、これまで多くの人間が通勤しなければならないのかということだ。

　コンビニやファーストフードの店員といった、現場に必ずいなければならない人間が、大雪の日であっても、お店が開店する以上は、いつもどおり通勤するというのであれば分かる。しかし、スーツにネクタイのサラリーマンの半分くらいは、大雪の危険性が高い日に、会社の自分の席にいることが、必ずしも必要ではない人たちだろう。

　テレビ電話もネット回線を通じて無料のレベルですら実用化されているのに、いまだに「つらい満員電車」や「顔を揃えての長ったらしい会議」にロマンを求め、毎日通勤することが当たり前の就業システムに疑問を持たないサラリーマンがいる。

　彼らに課されている仕事は賃労働以外にもたくさんあるはずなのに、会社に通勤をすることを言い訳に、地元町内会などの様々な仕事を立場の低い人達に押し付ける。そして自らは、通勤した分だけお金が入ってくる美味しい場所に引きこもり続ける。お金の入らない労働を負担させられる人だって多くいるというのに。

　あの日に電車を待っていたのは勤勉なサラリーマンではなく、引きこもりの群れではないのか。そうした疑念を多くの人が向けない限り、スーツ姿の引きこもりたちは「雪の中でも我慢して電車を待つ俺様カッケー」というセルフイメージを崩すことはないだろう。 　猪瀬直樹も気象庁にキレる前に、都知事として都市機能の改善を考えたり、また都内の企業に対して、人が毎日動かなくても済む就業システムを構築するように提案する方が、よほど都知事として真っ当な考え方ではないか。

　そして、サラリーマンもちゃんとお金にならないけれども、社会的に必要な仕事を引き受けるべきである。１月14日の大雪で、自分の家の前の雪かきを行ったサラリーマンは果たしてどれだけいたのだろうか。僕は疑問に思う。

*1：大雪予報:都心でまたハズレ…「大げさでは」苦情相次ぐ（毎日新聞）http://mainichi.jp/select/news/20130207k0000m040129000c.html
*2：inosenaoki:天気予報は科学なのに責任に対する心理に支配され歪んでいる（Twitter）https://twitter.com/inosenaoki/status/299210245509632000
*3：首都圏で雪　ラッシュ時に間引き運転、大混雑の駅も（朝日新聞）http://www.asahi.com/national/update/0206/TKY201302060049.html
この話題に関連したBLOGOSの議論、「積雪予報がまたハズレ。『大げさでは』との苦情の声も」どう思う？はこちらです。ご意見をお寄せください。
プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

・@T_akagi - Twitter