掲載:THE FIRST TIMES

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2021年11月10日、2枚目となるアルバム『W2(ダブリューツー)』(*2は正しくはローマ数字の2)をリリースしたWho-ya Extended。2019年1月に「Q-vism」で鮮烈なデビューを果たした彼らは、ボーカリストのWho-yaを中心としたクリエイターズユニットとして、既存の枠組みに囚われない音楽を生み出し続けてきた。

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今年2021年は「VIVID VICE」のリリースから始まり、『THE FIRST TAKE』への出演、初の有観客ライブの開催など実績を重ね、さらにその存在感を高めてきた。

パンデミックに覆われた未曾有の世界の中でめざましい活躍を遂げてきたWho-ya Extendedは、何を見、何を感じたのか。それはその音楽にどう反映されていったのかを、Who-yaに聞いた。

■この期間だったからこそ生まれた意識

──まず、アルバム制作を終えて、今のお気持ちはいかがですか?

1stアルバムの『wyxt.』をリリースしてから約1年半経つんですが、世界も変わったし、自分自身にもいろいろなことがあった1年半でした。そのなかでWho-ya Extendedがどういう景色を見ているのかが、この1枚を通じて伝わればいいなと。最後にマスタリングの作業で全曲通して聴いたとき、その意図が感じ取れる1枚になっているのではと思いました。

──通して聴いてみて、曲順についてもブレはなかった?

そうですね。“この曲終わりだったら、次はこういう音がきたらいいかな”などと考えながら決めていったのですが、これ以外の答えはなかったと感じています。

──1stアルバムをリリースされた2020年4月以降は、ちょうど新型コロナウイルスが広まり、生活が変わり始める時期でした。変わった世界はWho-yaさんからはどう見えていましたか?

同世代の人たちと話していると、“コロナがなければ”とマイナスに捉えている人が多いと感じます。もちろんマイナスなことではあるのですが、それを今の20代という年代で体験できたということを、僕はマイナスなことだけだとは思っていないんです。例えば東京オリンピックなどは、本来であればもっと違った形でフィーチャーされていたはずが、みんな頭の中にどこかコロナのことがあったと思うんです。そういうふうに、世界の全員が同じ方向を向いている状況って、普通経験できないと思うので。

──その経験は今回のアルバムの楽曲にも反映されているのでしょうか?

それぞれに新しい悩みが生まれたり、「コロナがなければできたこと」がたくさんあって当然の状況だった思います。なので、聴いた人が抱えているものを少しでも和らげたり、自分自身を肯定できるようなことを意識した曲もアルバムの中に入っています。そういう考えは、この期間だったからこそ生まれたものだなと思いますね。

■僕一人だったら絶対に作れない

──Who-ya Extendedは、クリエイターズユニットとして活動されていますが、曲の制作はどのように進めているのでしょうか?

まず、テーマや“こういうものにしたい”というのを僕がユニットに投げて、固定ではないけど軸になっているメンバーと話し合いをして進めます。その上で“ライブでこういう演出をしよう”と決まると、またメンバーが変わっていくという感じです。

──曲作りについて話し合っていく過程で、意外な変化を遂げた曲はありましたか?

もともとのコンセプトが揺らぐことはそんなにないです。ただ、作詞や作曲、演奏など、それぞれのプロフェッショナルがメンバーにいて、それぞれにやりたいことを持っている。そこを、全部の曲を僕の思い描いているものにしてしまうと、クリエイターズユニットという形を取っている意味がない。僕一人だったら絶対に作れないですし、Who-ya Extendedが出すことに意味がある音楽にしたいと思っています。

──曲によっては、今までは関わっていなかった新しい人に参加してもらう、というケースもありますか?

全然ありますね。楽曲単位ではなくて、収録と配信ライブのときはこの人が弾いてたけど、1週間後の有観客ライブでは別の人が弾いてた、ということもあります。違った人が弾くだけで同じ旋律でも音色もニュアンスもグルーヴも全く変わります。そういう意味でもその場限りの新鮮さや面白みがあるんじゃないかと思いますね。

■目の前に自分の歌を聴いてくれる人がいる

──ライブというと、8月に「Icy Ivy」のリリース記念として、初の有観客ライブ『VIVID × VIVID』case of “Icy Ivy”を開催されましたが、いかがでしたか?

純粋に「ありがとうございます」という感じですね。初の有観客ライブをするまでに1年半くらいかかっていて、それまでキービジュアルと楽曲だけを表に出して活動してきたので、「僕(Who-ya)が本当に実在するんだ」って言っている方もたくさんいたそうです。

──顔出しするアーティストなんだ!という驚きもあったかもしれませんね。

かもしれません。でも、「実在するんだ」というのは僕からしてもそうなんです。自分たちの音楽を聴いてくれる人がいるのはわかっていたんですが、それまではもやを掴む感覚だったのが、リアルで目の前にいるのは、やっぱり違いましたね。それがこのアルバムへの新たなモチベーションにもなりましたし、曲作りのときにライブの空間を意識するようにもなりました。

──ライブ後に制作されたのはどの曲でしょうか?

「Absolute 0」(*0は正しくは斜線付きゼロ)と、「透明な花」などですね。

──これらの曲は、実際に聴かれることをイメージしながら作られた?

制作のなかで、1stアルバムのときといちばん違うのが、ライブをしたことと、『THE FIRST TAKE』に出演をしたことなんです。人に見られているステージの上で歌ったり演奏する経験をしたことで、特定の人に向けて歌ったり、目の前の人に語りかけるような曲が『W2』では増えてるんじゃないかなと思います。

──曲が誰に届いていくかがはっきり見えたんですね。

そうですね。自分の音楽に何かを感じ取って、ライブに足を運んでくれた人を実際に目にしたことで、これからの音楽づくりでもその人たちを強く意識していくことになると感じました。

──ビジュアル面でいうと、Who-ya Extendedはデビュー時から、キービジュアルとして白髪の男の子のイラストを使われています。

人間ではなくて、耳が尖っていてエルフっぽいですよね。でも、服装はファンタジックなものじゃなくて現実世界の格好をしていたり。現実味もありつつ、どこか非現実みも兼ね備えているというものにしたくて、イラストレーターのよしおかさんにお願いしました。

──この男の子は、Who-yaさん自身の投影ですか?

ではないですね。僕はWho-ya Extendedの軸として表に出る立場ではありますが、ユニットを客観視できるようにも心がけています。僕がどう歌いたいか、僕がどういうものを表現したいかより、Who-ya Extendedというものがどういうショーを見せるかとか、どういう音源を作るかとかという視点の方が、このプロジェクトにとって大切。なので、キービジュアルも自分とは完全に切り離して考えています。

──今回のアルバムのジャケットは、『wyxt.』のジャケットの少年の横顔が成長したデザインになっていますね。

1年半でこんなに成長しないと思いますけどね(笑)。Who-ya Extendedというものが拡張していくにつれて、キービジュアルもコンセプトを反映して成長している、っていう面白さがあるかなと。

■悩んでいる夜自体が間違っているとは思えない

──では、収録曲について聞かせてください。アルバムのリード曲「Wander Wraith」は、イントロから心を掴まれる、リード曲らしい勢いのある楽曲になっていますね。

もともと、ライブのアンコールでやろうと考えて作っていました。100%明るいわけではないけど、前を向いている曲で、アップテンポで聴いた人が上がるようなサウンドになっています。これがアルバムのリードだったいいかなと。

──“いっそ細石て流れ磊々(さざれてながれらいらい) ラーフラーフラフラフラ”など、歌詞の言葉遊びも面白いですね。

遊び心を全部詰め合わせたみたいな曲ですね。“誰もが罵倒押し殺したって真っ当なんて虚構”っていうところがあるんですが、ここは歌録りした後、録ったデータをEDITでぶつ切りにしているんです。だからライブでの再現性はゼロなんですけど(笑)。僕たちが持っている、アナログなんだけどデジタルっぽさというか、デジタルの音色を現実に引っ張ってくる感じがこの曲に詰まっています。

──今回のアルバムの中で、他に新しいことに挑戦した曲はありますか?

初の試みという意味ではどの曲にも挑戦がありますが、10曲目の「透明な花」がわかりやすいかなと思います。今までの楽曲はすべて英語タイトルだったのですが、これが初めての日本語タイトルの楽曲です。

──曲の一覧の中で一曲だけ日本語タイトルなので、目を引きますね。

「透明な花」って何?と気になってほしいのですが、「透明な花」は存在しないことの例えとして作った言葉なんです。世の中にはいろいろな願いや思想がありますが、たとえば、“世界から争いがなくなりますように”という願いって、それ自体を否定する訳ではないけど、理想論に聞こえてしまうときがある。それで「透明な花」という例えを選びました。

──理想論を簡単には肯定できないと。

ただそれでも、自分の周りの人間が幸せになってほしいとか、夜不安にならずに寝たいとか、みんなが何かしら願いや祈りを持っていると思うので、それを切り取ってこの曲ができました。レコーディングもこの曲はいちばん時間がかかったし、歌の細かいニュアンスも相当録り直しました。

──「透明な花」という存在しない言葉を選んでいる部分に、Who-yaさんのリアリストな側面を感じました。「明けない夜はない」とは言わない、というか。

「明けない夜はない」とは言いたくないですね。「夜」に例えて言うのであれば、ひとつのことについて考え始めて、夜寝られなくなってしまうときがあるんですが、太陽が昇って朝がきたらそれが解決するかというと、そうではない。僕は悩んでいる夜自体が間違っているとは思えないし、朝がくることに対してもポジティブなことだと思わない。悩んだりする自分を肯定するための祈りや願いが、この「透明な花」ですね。この曲がアルバムの後半部分にあることで、救済になってくれれば大正解かなと。

──アルバムの中には、「Discord Dystopia」や「Growling Ghoul」など、タイトルに暗い印象の単語が使われているものがいくつかありますが、それについてもネガティブな意味ではいないのでしょうか?

ネガティブとは違うと思っています。例えば「身近な人が亡くなってしまった人」はたくさんいると思いますが、その痛みはその人本人にしかわからないものだと思います。そして、痛みを抱えた人は他の人の痛みに敏感になれるとも思っていて。なので、それらの曲は人間の陰にフィーチャーして作った曲ではありますが、それをマイナスなものとして描いてはいないというか。それをみんな抱えて生きてるよね、とフラットに考えていますね。

──マイナスなだけのものもないし、プラスなだけのものもない?

ひねくれているかもしれないですが、楽しければそれがプラスなのか?とか、正義が正解じゃない、とか、そういう発想ですね。「楽しい」が100%のときってないと思っていて。ライブは楽しいですが、心のどこかで“120%の自分を見せたい”とか“歌詞を間違えたくない”とか“声がひっくり返りたくない”とかいろんなことを考えているし。楽しいだけのことはあり得ないし、どっちも兼ね備えてるのが人間じゃないかなと。

──Who-yaさんのそのフラット視点は、どのように培われたんでしょう?

子供の頃は普通に虫採りとかして、何も考えずに生きてたんですけどね(笑)。高校生でバンドを始めてから、音楽を聴く量が何十倍にもなったし、音楽をやってる人たちと深い話もするようになったことで、いろいろな人の価値観を取り入れてきたつもりではあります。

──考え方が変わったわけではなくて、音楽に関わるようになって、いろいろな考え方が育っていったんですね。

そういうほうが近いかもしれないですね。ひとつの大きな出来事があって、というのではなくて、環境で自然にそうなっていったというか。

■具体的な目標は全部通過点

──Who-yaさんは非常にフラットな考え方をされていますが、音楽も、洋楽をよく聴かれたり、グローバールチャートをチェックされたり、グローバルな視点を持たれているイメージです。

たしかにもともと洋楽が好きで、洋楽ばっかり聴いていますね。でも、英語だからこそ表現できることがある一方で、「今宵は月が綺麗ですね」のように、日本人じゃないとわからない奥ゆかしい表現もある。音楽もそういう多面的なものだと思っているので、一方向から見てわかった気になるんじゃなくて、国や言語を問わずインプットしたほうが、フラットに活動できるんじゃないかという意識はあります。

──アルバム2曲目の「VIVID VICE」は特に、ビルボードの世界チャート20位にもランクインしていて、海外からの反響も大きかったのではないでしょうか?

自分が普段チェックしているチャートに自分の曲が入っているのは不思議な感覚でした。「VIVID VICE」は日本語の曲で、歌詞も日本人が聴いても聞き覚えのない言葉が多いんです。それを日本語話者じゃない人が聴いていて、さらにチャートに入った。それを見て、これがエンタメか、と思いました。言語はあまり関係ないなと。そういう意味で国を超えて広まっていった感覚はあります。その一方で、Who-ya Extendedはまだまだだという感覚も抱えているので、「VIVID VICE」を越えるような楽曲をさらに作る意欲にも繋がりました。

──今後Who-ya Extendedの楽曲がさらに世界に聴かれていくようになるとして、日本語の歌詞へのこだわりはありますか?

たとえば5thアルバムを出すとなったときに、「1曲目は全英詞なのに2曲目は全部日本語」とか、そういうアルバムがあってもいいと思っています。それをさらに海外でライブするとなったときには、日本語で作った曲を英語にするかもしれないし、日本語でやるかもしれない。そのときにいちばん面白い角度で見せたいですね。

──あくまでも、自分たちが何をしたいかを優先していく?

自分たちが面白いと思ってやっていることを、面白いと感じてくれる人が日本人でも他の国の方でも関係ないと思います。なので、言語などに囚われる必要はないかなと。

──これから活動を続けるなかで、目指していくものはありますか?

自分がWho-ya Extendedとしてデビューするときから掲げているのは、“誰もやったことのないことをやりたい”ということです。僕たちは初ライブが武道館でのイベントだったので、「いつか武道館でワンマンライブをやりたいか」と言われたら、もちろんやりたいです。でも、それが目標かと言われるとそういうわけではない。「今何をやりたいか」と聞かれて具体的に答えられることって、全部通過点だと思っています。活動を続けて、自分の歌が必要とされている間に0から1を作れる存在になれればと思っています。

INTERVIEW & TEXT BY 満島エリオ
PHOTO BY 大橋祐希

リリース情報
2021.11.10 ON SALE
ALBUM『W2』

ライブ情報
Who-ya Extended 1st solo live (仮)
2022/01/23(日)Veats SHIBUYA