新型アクアとヤリスのフロントフェイス。価格は、新型アクアが198万円〜259万8000円、139万5000円〜252万2000円となる(写真:トヨタ)

トヨタの「アクア」が初代の発売から9年半ぶりにフルモデルチェンジした。アクアは、2011年12月に5ナンバーの小型ハッチバックのハイブリッド専用車種として登場した。そして2021年7月19日に新型アクアを発表。そこで今回は、ハイブリッドコンパクトの新型アクアと、同じコンパクトカーである「ヤリス」というトヨタの2台を、それぞれの生い立ちや違いを比較していく。


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トヨタは、世界初のハイブリッド専用車として「プリウス」を1997年12月に発売し、2003年に2代目、2009年に3代目へとモデルチェンジして進化を遂げていた。現行車は4代目だ。

モデルチェンジを重ねる中で、初代は5ナンバー車だったが、2代目以降は3ナンバー車となり、車体寸法の大型化はわずかな範囲にとどめられていたが、それでも5ナンバー車を希望する初代プリウス所有者は行き場を失った。当時、初代プリウスを乗り続ける姿を永く見かけた。

プリウスの技術から生まれた初代アクア

そこに5ナンバーのハイブリッド専用車として、アクアは誕生した。しかも車体色を多く揃え、パステル調の華やかな彩りも添えられ、街は彩り豊かなアクアで溢れた。それは、HVを選択することの嬉しさを示す象徴ともなり、燃費がよいという環境への配慮だけでなく、そういう日常生活を選んだ消費者の満足度を高める効果もあったはずだ。


2011年に発売された初代アクアのスタイリング(写真:トヨタ)

初代アクアを開発したチーフエンジニアは、初代プリウスの開発に携わった人物で、初代への思いも強かったのではないか。そして初代プリウス開発での知見を存分に活かし、5ナンバーハイブリッド専用車としてアクアに注力したのである。その出来栄えのよさには驚いたが、チーフエンジニアは当然だと言わんばかりに平然としていた。

その折、海外へもアクアは展開するのかと彼に問い合わせると、アメリカでは「プリウスC」として販売されたが、ヨーロッパには「ヤリス」があり、ヤリスにハイブリッド車を追加することで対応し、アクアのヨーロッパ導入はないとの回答であった。

トヨタがプリウスでHVという価値を提案したのに対し、欧州はディーゼルターボによる燃費向上策をとった。HVは、エンジンのほかにモーターや駆動用バッテリーなどを車載しなければならず、原価も上がり、一時しのぎでしかないと判断したのだ。ことに、庶民の足として道具のように使われる小型ハッチバック車は、もともと経済性という点においてディーゼル車がすでに普及しており、その路線を踏襲するのが欧州流だった。


同じコンパクトカーであり、ハイブリッド車もラインナップする現行モデルのヤリス(写真:トヨタ)

ヤリスは、そういう欧州において、数多くの競合車と真っ向勝負する1台として当初から欧州志向の仕様であった。国内では「ヴィッツ」の名で販売されたが、国内で競合する当時の日産「マーチ」やホンダ「ロゴ」(フィットの前身)と比べても、走行性能の高さが売りであった。欧州向けには、ヤリスにもディーゼル車があった。そのディーゼルエンジンは、BMW「MINI」にも採用されていた。欧州におけるヤリスの重要性は、トヨタが2017年から参戦している世界ラリー選手権(WRC)においてヤリスを選んでいることでも理解できる。

したがって、欧州へも小型ハッチバック車のハイブリッド車を投入するに際し、ヤリスであることが大切だったといえる。そこで5ナンバー小型ハッチバック車のHVは、国内とアメリカはアクア(アメリカではプリウスC)、欧州はヤリスという図式となったのだ。

コンパクト初のTNGA採用で走りのよさが光ったヤリス

現行ヤリスは、ヴィッツとしての4代目にあたり、これを機に国内でもヤリスの名で販売されることになった。ヤリスは、5ナンバーハッチバック車として初のTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)採用車種であり、その第1弾となる。TNGAとは、基本性能をあらかじめ十分に高め、それを展開する他の車種にも応用しながら、車種個別には十分な魅力を発揮できるよう投資を行う開発手法である。


ヤリスで初採用された、コンパクトカー向けに開発されたTNGAプラットフォーム(GA-B)(写真:トヨタ)

まず現行プリウスからTNGAは採用され、それを応用した「C-HR」で花開いている。続いて「カムリ」で中型車用として準備され、それが「RAV4」や「ハリアー」に適用されて、いずれも好調な販売につながっている。そして今度はヤリスであり、それが「ヤリスクロス」につながり、そして新型アクアでも適用されている。

5ナンバーの小型ハッチバック車としてのTNGAの成果は、ヤリスで存分に発揮された。群を抜いた操縦安定性は、背の高いヤリスクロスでも活かされ、目線が高いにもかかわらず、あたかも小型ハッチバック車のような壮快な運転感覚をもたらす。


新型アクアのスタイリング(写真:トヨタ)

ヤリスの外観は、いかにも速そうに見える姿であり、客室が小さく、車両全体が硬い塊のように見え、それは優れた走行性能の基盤を成す車体剛性の高さを象徴するかのようだ。しかもその小さくまとまった外観が、軽量であることも想像させる。

走りに徹したヤリスという個性が見た目にも明らかだ。そして、競技車両のもととなるようなGRヤリスも車種に加えられている。

日々の快適性を高めて国民車を目指す新型アクア

一方、新型アクアは、上質さと安心感が特徴であるとの説明だ。外観の全体像は、初代に似ているが、写真や映像からだけの印象でも(執筆時点ではまだ実車を見ていない)上質な仕上がりである様子がうかがえる。また、9色用意された車体色は、初代のパステル調を交えた親し気で明るく軽やかな雰囲気と異なり、やや重厚で奥行きがあり、上質さを高める色合いを揃えていると思う。


新型アクアのインテリア(写真:トヨタ)

ハイブリッド専用車として期待される燃費性能も、WLTCで33.6〜35.8km/Lとなり、初代の27.2〜29.8km/Lを20%以上改善している。そのうえで、運転支援装備の充実はもちろんだが、たとえば自動駐車システムもヤリスでは前進・後退の切り替えは運転者が行うが、新型アクアではそれも自動化された。

ここでは詳細は省くが、そのように、日々の暮らしの中で乗るHVとして、アクアは日常性と日々の快適さを高めたハイブリッド専用車であることをより極めたといえるだろう。

一方、ヤリスハイブリッドは、燃費性能では新型アクアと同等の35.4〜36.0km/Lで、その容姿を含め、走りのよさを実感する個性を求める人にうってつけではないか。

プリウスが2代目となって以降、5ナンバーのHVの選択肢がトヨタ車では一時的に途切れたが、トヨタはTNGAをもとにしながら特徴の異なるHVをここに揃えた。SUVの「ライズ」や、ワゴンの「ルーミー」など含め、国内に根強い人気を持つ5ナンバー車の充実をはかれるのは、トヨタならではのことであり、改めて新車開発におけるTNGAの威力を思わずにはいられないのである。