金正恩が露骨にえこひいきする北朝鮮の「選ばれし人々」
北朝鮮の北部、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)と三池淵(サムジヨン)に対して今月3日、4度目となる封鎖令(ロックダウン)が下されたが、恵山の封鎖はわずか24時間で解除された。
一度は都市封鎖を命じた中央が、「餓死者が続出する」と反対を示した地元当局の意を汲んで解除に応じたのだろうか。意思決定の過程は不明だが、両者とも地元世論の悪化にかなり敏感になっていることは確かだろう。
貿易都市で各地から多くの人が集まる恵山と、革命の聖地であり、成分(身分)の良い「選ばれし者」が暮らす三池淵では住民構成が違うとデイリーNKは指摘したが、やはり待遇面でも大きな差があるようだ。
(参考記事:女性少尉に「性上納」を強い続けた、金正恩「赤い貴族」の非道ぶり)
現地のデイリーNK内部情報筋は、封鎖から2日後の三池淵に、荷台には大量のトウモロコシを積んだいすゞ社製の10トントラック5台がやって来たと伝えた。トウモロコシはすぐに、地域担当の安全員(警察官)と人民班長(町内会長)の手で、地域の家々に配られた。
その量は、大人子ども問わず1人あたり1日300グラムで15日分。安全員と人民班長は「平壌から来た愛の配給」という説明を付け加えたという。ちなみに情報筋がこの情報を寄せたのは今月10日。恵山と異なり、封鎖は解除されていないようだ。
いくら恵まれた人が多く住む三池淵でも、食糧事情はかなり逼迫していたようだ。
「三池淵には昨年秋に配給で1年分のジャガイモが配られたが、それさえ底をついた絶糧世帯が多かった。中央はそんな状態での封鎖で三池淵市民が餓死することになれば、革命戦績地単位としての名誉に傷がつくと見て、配給を決めた」(情報筋)
食糧が配られただけでもマシだが、人の命より国の体面を重視する、実に北朝鮮らしいやり方だ。
さらには、市民1人あたり2500北朝鮮ウォン(約40円)の現金まで配られた。市民は山に登って採った薬草や山菜を売って現金収入を得ていたが、コロナ防疫でできなくなったため、党がその補償として支給する「配慮金」だというのが、安全員と人民班長の説明だ。それも、市内に銀行の支店がないため、わざわざ恵山から現金輸送車で運ばせるという手厚さである。
それでも三池淵市民の間では、不満が渦巻いている。
「市場が閉まっているから、何も買えない」(三池淵市民)
「こんなことより封鎖を解くことがわれわれを生かす道だ」(別の市民)
中には、支給額に不満を持つ人もいる。
「散髪代が8000北朝鮮ウォン(約130円)もするのに、2500北朝鮮ウォンで何ができるのか」(同前)
一方で、三池淵は中国との国境に接しているため、集団脱北が起きないよう党が配慮したのではないか、との見方もあると情報筋が伝えているが、市当局が「党の配慮」と称して、コメ1キロを国定価格ではなく市場価格の5000北朝鮮ウォン(約80円)で販売し、「政府は庶民相手に商売をするのか」「こんな馬鹿げたことがあってたまるか」と市民を激怒させた恵山とは大違いだ。
三池淵に対する厚遇ぶりは案の定、恵山にすぐに伝わり、市民を激怒させている。
「われわれは前の封鎖のときにコメを有料で買わされたというのに、三池淵ではタダで配られた。封鎖で苦しいのは同じなのに、なぜあそこの人民だけが人民で、われわれは治安隊やスパイ扱いなのか」(恵山市民)
治安隊とは、朝鮮戦争当時に、韓国軍と国連軍が占領した地域で行政や治安を担当した組織だが、「アカ」の監視・摘発を行い、虐殺に及ぶことも少なくなかったため、北朝鮮ではならず者の代名詞のようになっている。
元々、成分のいい人がかき集められた三池淵とは異なり、恵山は、成分の良し悪しは関係なく、ビジネスでの成功を夢見る人々の町で、それが待遇の差の一因になっている可能性があるが、そんな現実が「治安隊扱いするな」という言葉に込められている。