アニメ・マンガ調の2D・3Dアバターを使って活動する「バーチャルYouTuber(VTuber)」。

動画サイトだけでなく、SNSや街中の広告、さらにはテレビ番組への出演など、いまや日常生活の中で彼ら彼女らを見かける機会は少なくない。

そんな中、とあるツイッターユーザーがこんな言葉をつぶやいた。

「『残業するな』が一瞬VTuber的なキャラ名に見えたのでおれはもうだめだ」

そして、その10時間ほど後。同じユーザーが投稿したのがこちらのイラストだ。


ちょっと不機嫌そうな顔がまた可愛い(以下、画像は深井涼介(@fpworks)さんのツイートより)

投稿されたのは、金色の瞳に黒髪のボブカット、頭には角のようなものを生やした可愛らしい少女のキャラクターだ。その名も、

「残業(ノコゴウ)スルナ」

「定時退社時刻の平日17:00過ぎから配信をする労働基準監督系VTuber」だという。

右手に持ったメガホンのようなもので、「定時です! 速やかに退社してくださいね!」とアナウンスしてくれる......そんな彼女の姿が目に浮かぶようだ。

「初配信日決まったら教えてください」

話題になっているのは、ツイッターユーザーの深井涼介(@fpworks)さんによる、2021年1月27日の投稿だ。

実際に活動しているVTuberではなくあくまでも深井さんが創作した架空のキャラクターだが、ツイッター上では約1万2000件のいいねを集めるなど話題になり、

「とっても素敵で可愛い最高です」
「推していいですか?」
「デビューいつですか?」
「サラリーマンの味方系Vtuber」
「初配信日決まったら教えてください」

といった声が寄せられている。

Jタウンネット編集部は29日、投稿主の深井涼介さんに詳しい話を聞いた。

フリーランスのデザイナー・イラストレーターとして活動しているという深井さんはまず、事の始まりとなったツイートについて、

「いつも仕事で使用しているメールサービスがあるんですが、それの受信ボックスに表示されていたウェブ広告のタイトルに『「残業するな」と言われても─』というような書き出しのものがあったんですよね。

それでふと一瞬、『あれ?これなんのキャラだっけ??』という風なイメージが頭をよぎったんです」

と説明する。

「ただ普通に文章の一部として『残業するなと言われても」のようにあったならそうはならなかったと思うんですけど、この広告が受信ボックスにあった事や、さらに普段のお仕事のメールは例えば『「〇〇×××」ちゃんのデザインに関してのご連絡です』などの件名で頂く事が多いので、それらも手伝ってカッコつきで表示されている『残業するな」が視界に入った時、ついキャラ名のように勘違いしてしまった事が面白くて、そこでツイッターで自分へのツッコミ的にツイートをしました」(深井さん)

たしかに、「漢字二文字の苗字+ひらがな・カタカナ三文字の名前」というのは、Vtuberにありがちな名前だ。見る人が見れば、そう認識してしまうこともあるのだろう。

その後、夕食の買い出しへと出かけて歩いていたという深井さんだったが、その道中に「オタクの性でだんだん『残業するな』というキャラクターの姿が頭に浮かんで来た」とのこと。

「その時にはすでに元のツイートが広がりつつあったので、『これは「残業するなちゃん」を受け取った方々が各々で生み出した方が面白いんじゃない?』とも思ったんですが、息抜きにひとつ、自分の頭に浮かんだイメージを出してみようとペンをとりました」(深井さん)

結局、夕食をとるのも忘れて同日の18時前から23時ごろまでの5時間ほどをかけて、「残業スルナ」ちゃんを描き上げたという。

「もっと凝ったポーズやレイアウトも考えたんですが、『別に何日も温めるものじゃないし、気軽に今日描いて今日投稿しよう』という風に考えて素立ちポーズになりました。

『残業するな』という名前から、『ブラックな社会の一面を監督する機関の人』的なイメージを浮かべて、フォーマルさを基本とするスタイリングにしました。ここで名前を『するな』から『スルナ』とカタカナ表記にする事で、よりクールなイメージを高めたりしていますね」

ただ、その一方で典型的なVTuberに用いられるビビッドなカラーリングを取り入れたり、あえて幼めのビジュアルにしたり、さらにツノを生やしたりすることで、「リアルな人間の社会人とは異なるライトな存在」にしているという。空目から生まれたスルナちゃんだが、デザインはこだわりたっぷりだ。

「ツノは正面から見て左側が青、右側が赤なのはアメリカのパトカーのランプみたいですね」

と深井さんは語った。

「具体的なVTuber化」は考えていない


どことなく制服っぽいデザイン。たしかに「何かの機関の人」といった雰囲気だ

ツイッターでの反響に対して、深井さんは、

「普通に期待や好感を感じてもらえているのはとても嬉しいです!

自身がVTuber関連の活動や仕事を多数手掛けさせて頂いている事もあってか、『まさか実際に動き出すんじゃないか?』というほのかな期待も感じますね」

とコメント。ただ、その一方で、

「その上でちょっと申し訳ないながらも、僕自身は『具体的なVTuber化』は考えないと思います。というのも、仮に『じゃあちょっとデビューさせちゃおう』と動いてそれが実現したとして、そんな気軽さのままだと、デビュー...生まれた瞬間が彼女の話題性の最高潮になってしまうんです。

その道はきっと、受け取る側にとっても『残業スルナ』ちゃんにとっても幸せとは言えないと思うんですよね。

さらに、彼女は名前とキャラ性を既に持つからこそ『こういう子なのでは?そうあってほしいな。』の解釈が人の数ほどに増えるほど高まるのもあって、よりVTuberとして要求されるハードルが高く、多くなるのも課題としてあると思います」

と懸念を述べた。VTuberという「人格をもって生きているキャラクター」に対する生みの責任の一端を担うには、「ツイッターのネタからなんとなくノリで」だとちょっと軽率にすぎるだろうなと考えている、とのことだ。

「『残業スルナ』ちゃんは既にファンアートや配信実況用のハッシュタグ、さらにはファンメイドでロゴが生み出されるなど、既に創造力を働かせてくださっている方々のおかげで広がりを見せてくれています。

仮想のVTuber、「バーチャルVTuber」などと僕は呼んでみたりもしましたが、居ないVTuberをあたかも居るかのように楽しむ、例えば『スルナちゃんの配信が見たくて思い切って定時退社できる会社に転職しました』、『拡声器で歌枠とかやっぱやべーやつで草』と、SNSで各々のイメージで反応してみたり、ファンアートを描いてもらったりもする。もしかしたらチャンネルも配信動画もないのに、誰かが声を吹き込んでツイッターにハイライトの切り抜き動画だけが謎に上がるかもしれない。それはかわいい女の子の声かもしれないし、いわゆるバ美肉、ボイスチェンジャーおじさんでもいい。

そんな一連のオモシロ空想企画としてはとてもワクワクするので、『実際にVTuber化』だけじゃない道で、残業スルナちゃんと一緒にいろんな人が幸せになるように歩けたら、それはすごく楽しそうだなあと感じていますね」(深井さん)